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天使の舞い降りる人生の午後~3

5 原子のダンス

「僕たちの星にも、あのビームが来たのかな。」
「そうだよ。卵から放たれたビームが届いたからこそ、今の地球があるということなんだ。
数万年前、再びビームが放たれたんだ。光の龍の旅が始まった。来つつあるというべきかな。」
「来つつある?」
「今、宇宙の時間で見ていたから、一瞬の出来事に見えただろうけどね。
君たちの時間に合わせたら、気の遠くなるような長い時間がかかることになるんだよ。
まあ、次のビームがやって来ると、新たな進化の分岐点がもうすぐ生まれるるんだ。」
シャンテが、前足を振った。自分たちのいる空間が左に渦を巻きだした。
渦は、だんだん大きさを増した。
「君たちの銀河系を見に行こう。」
考える暇もなく、次の瞬間僕はその渦の中央に吸い込まれた。

「ほら、あれが君たちの、地球のある銀河が所属している大銀河だよ。」
それは、宝石を一面にまき散らしたような、美し煌びやかな眺めだった。
規則正しく渦を巻いた沢山の銀河は、螺旋の運動に共振するように各々優雅に回転していた。
卵からのビームの光の帯が、回転軸の様に大銀河の中央を貫いていた。
そして、貫かれた中央から、繊細な振動が巻き起こり、同じように大銀河の四方八方へと、コスモスの花びらの様に新たな光の帯が全ての方角に伸び始めた。
銀河から生まれた光の振動が、さざ波の様に宇宙空間を揺らしていく。

風景が、ぐんぐんと僕に迫ってきた。
素晴らしいスピードで銀河が僕を飲み込んでいく。
その中で、光の花びらが次々開いていくように、ビームの帯の道を感じることができた。
幾つも伸びる光の帯の一つを追っていくと、一つの銀河系が目に留まった。そして、光の帯が生じさせた振動が、その銀河系にクモの糸のように広がっていくのを感じた。
その光の帯は更に進み、銀河系の果ての小さな銀河を捉えた。
一瞬で僕たちはその銀河にいた。
「君たちのなじみ深い、太陽系だよ。」

光の帯は真っ直ぐ伸びていった。
回転する太陽系は、外側の惑星からそっと光の帯に軌道ごと入っていく。
やがて、地球もゆっくりと光の帯に入りつつあった。青い惑星が震えていた。その震えは心地の良いリズムのようだった。その震えに共振し僕も心地よさを感じていた。
「宇宙全体が、歓喜の輪で一つになっているよ…凄いね。」
シャンテが興奮したように言った。
「光の帯に入るとどうなるの?」
僕は、光景に見とれながら呟いた。
「進化を加速させるんだよ。」
「進化を加速…」
「うん。卵の力を帯びた光の帯は、全ての原子に入り込み、核を揺り起こす作用があるんだ。眠っていた原子の中の粒子を目覚めさせるためにね。」
「進化っていったい何?必要なことなのか?」
「もちろんだよ。
みんな同じところで足踏みしているようでも、少しずつ上昇しているんだ。螺旋階段を上がっていくようにね。
その動きは、更に良い状態になるよう組織を作り上げていくんだろう。」
「僕の身体の原子とやらもかい?」
「そうだよ。嬉しさにあふれて跳ねまわるさ。ダンスを踊っているみたいにね。」
シャンテの言葉を聞いた瞬間、僕という存在の中から、不思議な振動、そう、喜びの渦のような感覚が広がり溢れ出していくような感じがした。
それは、以前どこかで知っていたような、デジャヴュのようにも思えた。
「感応しているね。君の原子は、前回のビームを覚えているんだね。
数万年に一回か、もっとかかるか。前回の地球に来たビームは、なかなかいい振動を与えたようだね。それを開花させ使いこなせているかは、コメントを差し控えるけれどね。
ともかく、宇宙が螺旋を描いて上昇していくから、ミクロな私たちも同じように螺旋上昇していくんだよ。同じところに留まっているわけにはいかないんだよ。今よりも、更に高いところへ、宇宙が目指しているところを目指して進んで行くんだ。」
「宇宙は何を目指しているの?」
「みんなの故郷だよ。」

6 穏やかな終わりの始まり

いつの間にか僕たちは、ドームの部屋に戻っていた。
目の前には鏡の球体が、静かに浮かんでいた。
「凄いプラネタリウムだったよ。夢のようだ。
シャンテ、これは全部夢なんだろ?映画のようなものだよね?」
「夢のように感じるだろうけどさ、現実でもあるんだよ。」
シャンテは優しく前足で、僕の頬に触れた。
「現実と夢はどこかで繋がっているものなんだ。区別しているのは君たちだけなんだよ。物質を物質でおくためには仕方ないことなんだけどね。」
「ということは…」
「そう、光の帯は、確実に地球を包み込みつつある。地球はそれを、震えながら歓迎している。」
僕は、青い星の震えを思い出し、身震いをした。共振感覚が蘇り、喜びの感覚が溢れてくる。
「君たちも、今に感じる。光の帯を確実に感じる時が来る。」
「そうだ、シャンテ…」
僕はふと疑問が浮かんだ。
「あの光のビームが、宇宙にとって、地球にとって、僕たちにとって喜ばしいことなのならさあ、シャンテが言っていたこの世の終わりとどう結びつくんだ?」
シャンテは何か考えているように黙った。
そして、ゆっくりと言葉を選ぶように語りだした。

「振動は進化をもたらすといったよね。」
「うん。」
「その振動は、もちろん全ての次元を揺り動かす。もちろん、君たちの三次元、物質世界もね。
天気や環境、自然、社会が光の中の振動によって、微妙な変化を起こしだしてくるのが分かるだろう。
最初は、目に見えない形だろうけど。やがて、誰もが気が付くころには、手に負えなくなっているかもしれない。
古い汚れを片付けるには仕方のないことだけど、ある種の人たちには、この浄化作業が恐ろしいものに感じるかもしれないね。」
「他の太陽系の惑星にも影響はあるの?」
「もちろんだよ。惑星たちは、生き生きと回転しだすよ。その生み出す振動が、それぞれ共振してさ、美しい音を響かせることになるよ。
太陽や、他の惑星たちのリズムが、地球の振動を加速させてくれる。」

「僕たち人間にも影響はあるの?」
「そのリズムは、確実に君たち自身にも影響を及ぼすことになる。
初めは君たち自身の本質を浮かび上がらせてくるだろうね。綺麗な部分も汚い部分も全部ね。それはきみたちに葛藤をもたらすだろう。
汚れの部分を掃除しようと思えるなら、大変だけど大丈夫。けどさ、掃除を諦めて汚れ放題のままだったら…」
「どうなるんだ?」
「自我に振り回されて、言いなりになるのが加速するね。
それでも、最初の地点を思い出せば、自我を認めて手なずけて、汚れた部分の掃除に取り掛かりなおすことができるよ。」
「汚れたままだとどうなるんだ…」
「悲しいかな、置いていかれることになるね、進化の波に。
君たちの今の世界は、瀬戸際かもね。」
「やばいのかな…」
シャンテは一つため息をついた。
「余りにも凝り固まりすぎてるからね。このままだと、最悪、進化の振動から振り落とされてしまう。君たちの文明とやらは衰退してさ、自然に消滅していくよ。
進化のリズムを味わうことに気が付かない人々の、原子は目覚めることはなく、代わりに怠惰と閉塞感の不協和音が身体に刻み込まれていく。それは、身体を突き抜け空気と混じりあい、星を染めていくことになる。
調子に乗った自我がそれを増長させて。
螺旋上昇から取り残されたものは、退化か長い停滞をすることになるんだ。」

「けどさ、真摯に環境問題とかに取り組んでいる人もいるよ。
良心的な人も沢山いるよ。それらの人々はどうなるの?動物や植物はどうなるのさ?」
僕は少しムッとしていた。
確かに、シャンテの言うとおり、今の世の中は閉塞感に覆われているし、諦念感に満たされている。
自分の都合、利益優先、悪い排他主義が蔓延っている。
かといって、何か起こそうという気概は薄く、事なかれ主義の沼に沈んでいる。
自我に振り回され、妬み、怒り、悪意を自虐的に振りまいている人が多いのも事実。
世界的に見たって、みんなのためといいながら、一部の人の勝手なというか、そうじゃないことが多すぎる。
でも、だからといって、まるっきり悪いわけじゃないだろう。
明日を少しでも良くしようと、頑張っている人たちだってたくさんいるはずだ。でも…

「確かにね。
無意識でも心明るい人たちは、自然に光の振動と共振していくはずだよ。
美しく個性豊かに螺旋上昇していくだろうね。
もちろん、その人たちの心がどこにあるかによるだろうけどね。
地球の仲間の動植物たちは、その時の地球の集合意識に、自然に同調するだろうから、心配ないよ。」
「どういうこと?」
「同次元に存在するけど、リズムや振動がそれぞれ微妙に違ってくるから、見え方が違ってくるということさ。
光の帯の中央に入ると、振動の密度が濃くなるから、ある意味全てに変化が起きる。
進化の始まりだよ。それは、螺旋を上がっていくものと、またとどまってそこからやり直すものたちと分かれていくだろうね。」
「級に変れと言われたって、そんな…」
「いや、古の昔から知られていることさ。
神話や言い伝えの中にもしっかり残っているよ。DNAにも刻まれていたはず。宇宙の果てからくるエネルギーの帯は真実だからね。
ただ、頭で理解しようとすればするほど、真実から遠ざかるようだね。
時が経ち過ぎ、理解しづらくなっているのかな。自分に良いように解釈したりする人も出始めたら尚更ね。
子の進化の祭典を、おかしな脚色をして、みんなを怖がらせるために利用したり、恐怖心を植え付けてお金巻き上げたり、やりたい放題にさ。
物質的には限界がある。
いつかはやがて元素に帰るもんだ。劇的なクライマックス何てないよ。君たちの内部から、緩やかに終わり始めるんだ。ジワジワとね。
現世の利益に利己的にしがみついている者たちから見たら、今の汚れたままの状態を解決する気がない者たちからみれば、この祭典は、この世の終わりに感じられるだろうね。
いや、もしかしたら、最後まで気が付かないかもな。
それが私の言った終末の意味だよ。
ある種の選択選別が起きるということ。自己責任のね。
そしたら今の世界のシステムとは、さようならになるんだよ。」

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