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CLグループBのライバル 〜ACミランのスカウティングレポート〜

CLグループB、アトレティコと28日に対戦するイタリアのACミラン。
CLのためにセリエAを3節から見てるんですが、良いチームです。本当に。古き良きミランを見ていた僕のような世代の人間からすると、赤黒のユニフォームが良いサッカーをしているだけでもうワクワクが凄い。嬉しい。
ちなみに僕はトマソンの大ファンでした。

CL1節のリバプール戦も負けはしたもののアンフィールドで見事な試合を披露

こちら

ポジティブな試合だったし、若いチーム。リバプール相手にある程度通用した事で自信を深める試合だったのではないか。
怪我人の多さは気になるところだが、なんにせよ面白いチームなので書いてみました。5試合しか見ていないので細かいところはわからない部分もありますがスカウティングレポートかのようなつもりで。いきます。


■システム分解
基本形は4-2-3-1でスタートする。

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各ポジションの配員をチェック

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GKはマイク・メニャン。リーグ・アン優勝のリールから獲得した。前任者がドンナルンマなのでプレッシャーも大きかっただろうが、守備範囲が非常に広く、ビルドアップ性能もかなり高い。今季のミランのスタイルからすればドンナルンマより適性は高いとも思える。また、リバプール戦のPKを筆頭にビッグセーブが多い選手でもあり、ファンに愛されそうな存在。北川さんもユベントス戦で"ミラニスタに前任者の事を忘れさせる活躍"と言っていたがまさに。

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右SBはダビデ・カラブリア。キャプテン。
対人に強く縦の機動力がある選手。球際のファイトも特徴。
めちゃくちゃ雑に言うとマリオ・ガスパール(ビジャレアル)がイタリア代表でスタメン張れるクラスになった、みたいな選手。ここ2試合は欠場していたがスペツィア戦の後半に復帰。
代わりに出てくるカルルはダイナミックで、それこそラリーガにいそうなタイプ。ロングランでPA侵入できるタイプで、これもこのチームに合ってる。

左はアトレティにとっては愛憎入り乱れるエルナンデス兄弟の弟、テオ・エルナンデス。
フレキシブルなこのチームの中でも特に"何故お前がそこに?"という場面の多い選手。前にいるラファエル・レオンとレーンを分け合う恰好だが、レオンが大外に張る事が多いのでハーフスペースにポジションし、IHのようなタスクもこなす。それであって90分間戦い続けるスタミナを持ち合わせており、不可欠な存在となっている。レビッチが左WGの際は大外に位置する事が多め

CBはシモン・ケアー、フィカヨ・トモリ、アレッシオ・ロマニョーリの中から。どうやらロマニョーリの序列が低いようだが、彼が一番ビルドアップ性能は高そう。良い縦パスがつけられる選手
対人は間違いなくデンマーク代表のナイスガイ、ケアーの質が良い。危機回避性能が高く、サヴィッチ的存在。残念ながら怪我で欠場濃厚。
トモリはやや足下が怪しい場面もあるが概ね問題ない。ディバラのドリブルには手を焼いていたが、あくまで相手がディバラという話。カラスコ相手でどうか

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中盤。8番サンドロ・トナーリはイタリア代表の中心になりそうな存在。同じくイタリア代表のロカテッリのようにダイナミックなボックスtoボックスMF。
相棒は主にケシエが務める。体力があってボールに強い潰し屋。それでありながら前進の中心になれるビルドアップ能力を見せる。彼がいるからこそトナーリは縦に飛び込むタスクに集中できていると言える。広く動くケシエと、直線的に動くトナーリのコンビ。
イスマエル・ベナセルも長短のパスセンスがありピッチを広く使えるCHで、上記どちらの代わりとしても申し分ない。

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アタッカーは左と右で明確にタスクが異なる。
まず左。ラファエル・レオンがこのポジションを務める。縦の突破が魅力の実質FW。体もでかい。大外でボールを待って足下でもらってドリブル突破、が基本の形だが、持ち前のスピードでカウンターの先頭を走れる選手。リバプール戦で指摘したが、守備時の背後の管理がやや甘い。アウトサイドの経験値が低いのか、少しシステムから浮いたような振る舞いの事もある

右側。サーレマーケルスorフロレンツィ。
サーレマーケルスは、またベルギーから良い選手出てきたね、という選手。この選手は内側のレーンに立ってCF、あるいはブラヒム・ディアスと近い位置を取る。左のテオからの前進が多いチームで、ライン間のパスコースをいつも狙っている。また、大外を抜けるSB、ペナルティエリアにアタックしてくるトナーリとも共存できるポジショニングはこのチームの右MFには欠かせない能力。リバプール戦でも相手MFの背後を突いて得点に繋がるプレーに関わった。
代わりに出てくるのはどちらかというとクロスマンのフロレンツィ。ただ、試合終盤に彼が投入される時間帯には左WGにレビッチ、CFにジルーorイブラヒモビッチになっている事も多くあり、彼とカラブリアの放り込みは大きな武器になってくる。

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FW。レビッチがトップ。トップ下にブラヒム・ディアスの組み合わせ。
レビッチはビルドアップに関与する事はほぼないが、PAの幅でCBの背後を狙って動く。このチームは後方からPAへアタックするタイプの選手も多く、スペースを空ける動きも厭わない彼はトップに適任。

トップ下のブラヒム・ディアスは替えの効かない存在。ライン間で縦パスを受けて前を向ける選手で、ドリブル突破も魅力。相手が引いてブロックを作っても単独で違いを作れるタイプ。またフィニッシュも上手く点が取れるまさにトップ下。
構築がままならない展開になれば中盤に参加してボールを引き出せる選手で、試合展開問わず便利で魅力的な選手だ

試合終盤にジルーorイブラヒモビッチを投入する場合はレビッチを左に動かす事が多いが、レビッチはレオンよりも内側、ペナ角付近でボールを呼び込む形を好み、むしろ真ん中にいる時よりもシュートチャンスが来る。


■ビルドアップ

ビルド

2CBとGKのメニャンは技術レベルが高く、ここでのミスを期待するのは得策ではない。リバプール並みの前プレでハメられるならやるべきだが、アトレティコはそういう仕組みではない。むしろ最終ラインは放置してCHがサリーしないでいてくれた方がカウンターが打ちやすいかも。

主にSBは少し高めにポジションし、CHのどちらかが落ちてビルドアップする。テオは最終ラインに残ってビルドアップする事も。CHはCB間に落ちる事はない。ピオリ監督のネガトラ対策の意図だと思われる
特に決まりはなさそうだが、左右どちらの場合でもケシエが落ちる事が多い。トナーリが右に落ちると「誰が受けるねん」となりがち

左

左。ラファエル・レオンが大外で待って、テオはCHのように振る舞う。このパターン多い。ブラヒム・ディアス含め各選手の距離が近く、また一気に打開できるスキルもある。相手MFがスライドしすぎるとサーレマーケルスが背後を狙う形もデザインされている

右

右。SBカラブリアは大外で待つ事が多く、サーレマーケルスが中間ポジションで縦パスを狙う。ブラヒム・ディアスがどこでボールを受けようとするかもポイント。逆サイドではアイソレーション作る気満々の2人が待っている

トナーリ

トナーリが落ちるパターン。あまり循環は良くない

リバプール戦でも90分継続してきたように、ボールを放棄するつもりはない、というプランになっており、リバプール並みのプレスが最前線からかけられないなら57%〜62%くらいはボールを握られる想定で準備した方が良い。

●ポイント
・深追いしても奪い取るのは容易ではない
・オーバーロードに釣られてワンサイドに寄りすぎるとサイドチェンジでひっくり返される危険がある。ただ、サイドを変える横パスは狙い目
・60%近くボールを持たれる前提で準備


■プレス
主に4-4-2プレス。ディアスがトップと並列になり縦パスを阻害する。相手最終ラインに向かって両翼も前に出てくる。
リバプール戦ではレオンの背後をアレクサンダー=アーノルドに簡単に使われ、失点シーンにも繋がったが、強気な前プレは基本的に変わらない。
中央のルートを前から封鎖しつつ、仮に真ん中にボールを入れられても人に強いCHが前へ前へとアタックし、奪えば速い速攻で手数少なくゴールを狙える設計。
相手SBに簡単に前進されるとサイドで数的不利になりがちなのでここはしっかり防ぎたい。そしてアトレティコからするとここを突きたい。個人的には4-4-2にしてSBが中盤ラインを超えてボールを持つ形が良いのではないかと思っている。
真ん中を封鎖されて、必然的にアトレティコのボールの道筋は狙っても狙わなくてもサイド経由になる。いかにサイドで有機的にボールを持てるか。カラスコ周辺の質で簡単に抜け出せるようなら押し込む時間が作れるが、どうなるか。グリーズマンがスタメンだったら諦めよう

●ポイント
・積極的に前からプレスを仕掛けてくる
・中央の球際は強く来る。逆にここを切り抜けられるのなら簡単
・WB経由の攻撃を強いられる。大外で違いを作れるか


■ネガトラ
基本的に人とボールに強い選手が多くテンションも高いので、ネガトラもスピード感はあるがユベントス戦では速攻から先制点を献上した。この失点は横パスを不用意に攫われた格好だった。
スペツィア戦でもいくつかそういう場面もあり、カウンターは打てそう。対戦相手は狙いどころとして一つ設定したいのは”右CBの前"になる。

ポジトラ

右SBはビルドアップ時からワイドレーンに大きく幅を取っているケースが多く、サーレマーケルスもライン間にポジション。ケシエは動き回り、トナーリはそこにいない時間も多い上、ボールロストにはこのCHのどちらかが関与している場合も多い。CBからトップに付けたボールの落としがズレたり、とか。けっこうある。あと横パスね。
ボールロスト時、CBはSB、CHのサポートを受けられない状態になっている事が多いので、アトレティコは奪ったら右CBの前を狙ってカウンターを仕掛けたい。ここでCBを釣り出して背後を狙えるとビッグチャンスを作れる算段。モラタで取れたんだから、ジョレンテでも取れる。

また、左サイドもラファエル・レオンがネガトラの事など考えているはずもなく、テオも攻撃的なポジションが基本。ボールロスト時に"誰もいない"というケースは見られる。奪い返した後トップの横にテオが攻め残っているケースも見られ、ある程度許容されている様子。走力で押し込みたい。スアレスよりもクーニャが良いかもね。

●ポイント
・MF同士のパス交換を攫うと広大なスペースが。レイオフなどもエラー多め。ロスト時孤立しがちな右CBを狙い撃ちする
・非常に攻撃的な左サイドコンビは、ボールロスト時にどこかへ行ってしまっている事が多い。


■ブラヒム・ディアスへの対応 〜絶対封鎖〜
このチームは1ランク上のレベルに押し上げているのが彼の活躍だと思う。要注意人物。他の選手達とは明らかに毛並みの違う動きで、ライン間でボールを引き出しチームを循環させる。彼が前を向ける縦パスを入れられる事は驚異になるので、確実に対策したい。

ディアス

ライン間で自由にしたくない。

特にアトレティコは5バック撤退時に、HVの前で彼に前を向かれるような配球は絶対に封鎖しなければならない。

ディアス2

HVの前で前を向かれるような形は避けたい。

なるべく彼のボールタッチを二列目より後ろ、あるいはブロックの外側にさせる事で、ミランの遅攻の魅力を半減させる事に繋がる。

ディアス3

プレーエリアをブロックの外へ。
あるいはワイドレーンから彼に付ける横パスを狙いたい。

●ポイント
ライン間で前を向かせると危険。
コケの巧みな誘導でサヴィッチにぶつけよう



■その他崩しの手順
左サイドは押し込んでも放り込みを選択する事はあまりない。レオンは相手SBと1対1になった時、右足でクロスを放り込む事も多いが。レビッチがおそらく高いクロスを求めておらず、近い距離での連携で侵入しようとしてくるパターンが多い。ここのワンツーなどの連携で抜け出そうとするプレーや、組み立て直しの横パスを掻っ攫うとカウンターチャンス。
右サイドのカラブリアorカルルはシンプルなクロスを選ぶ事もある。2人ともボールの質が高い上、CFの頭を越えるとレオンが待っている形は迫力がある。

セットプレーは強い。そもそもでかい選手が多い。なるべくCKは避けたい。見た事ないがブラヒム・ディアスがFKが下手だとも思えないのでPA付近のファールも避けたいところ。


■まとめ
若いチームであり、CL初出場の選手も多い。
また、ケアー、カラブリア、ジルー、イブラヒモビッチ、フロレンツィとベテランに怪我人が多く、この過密日程の中でどこまで自分達の長所を出せるかは重要なポイントになる。
リバプールと良い試合ができた事もあり、ホームでアトレティコに勝つ事ができれば決勝トーナメントが見えてくる。勝ちに来るだろう。

逆にアトレティコは1節でポルトに勝ちきれず、ここを落とすと絶望感が出てくる。
CLではここ数年"勢いのある若いチーム"にアレルギーがある印象だが、ミランは監督がおっさんなので大丈夫だろう。大丈夫か?

アトレティコはここ数戦メンバーの入れ替わりも多く、また入れ替わると大幅に戦い方も変わるため、我ながらやってみないとわからない感が強い。むしろミランの方がわかり易いまである
ミランは攻撃も守備もCH周辺で戦いたいと思うので、アトレティコがどこを局所に設定していくかもポイントになりそうです。カウンターから早めに先制、なんて形をアトレティコは作りたい
グループBの行方を決めてしまいそうな重要な一戦。好勝負を期待したい

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