死ぬ時は、溝の中でも前のめり CL準々決勝1stLeg アトレティコvsシティ(A) 2022.4.5

1stレグ。胸を借りる気持ちで。


●スタメン
・アトレティコ
オブラク
ヴルサリコ / サヴィッチ / フェリペ / ヘイニウド
コケ / コンドグビア / ジョレンテ / ロディ
グリーズマン / フェリックス

カラスコはこの試合まで出場停止。
エレーラとヒメネスは怪我で欠場。
予想通りの11人。5バックで準備した配置は後ほど。


・シティ
エデルソン
ストーンズ / ラポルト / アケ / カンセロ
ロドリ / ギュンドアン / デブライネ / ベルナルド・シルバ
マフレズ / スターリング

トップ真ん中はベルナルド・シルバ。
ウォーカーとルベン・ディアス欠場の最終ラインはアケが左SB

スタメン


●前半
前半のマンチェスター・シティのボール保持は73.2%。
常にシティがボールを持って試合が進む

前半

シティはSBが右にカンセロ、左がアケなので配置は右肩上がり。左の大外はスターリングが取っている。
ジョレンテは自分がカンセロと対峙する想定があったと思われる。ちょっとフワついた入りになった。


■5バックで準備
アトレティコはこの日、ロディの位置がポイント。前向きに4-4-2になる形を作りに行かず、大外の監視を担当する5バック。これだとコンドグビアが引っ張り出されてPA前を使われる形になりそうで、個人的にはこの選択をしないための最近の4-4-2の取り組み、と思っていたので意外は意外。

画像3

ここを簡単に使われる
ただ、カンセロとデブライネ、マフレズのトライアングルに対しては割と問題なく対応出来ていた。もっと簡単に破壊されるのかと思っていたが。

・CBの前向きの対応
最近の試合通り、良い取り組みが出ていた最終ライン。

フェリペ

ライン間で浮いている選手への縦パスにしっかり対応。自身のエリアを捨ててボールアタック出来ていた。特にフェリペ。純粋なストライカーを置かず、中央の出し入れを使おうとするシティに対して前を向かせない、あるいはフリックもさせない良い守備を見せた。
横からのボールに対しても同様。

横から

ヘイニウドがIHデブライネを見ているその先へ、というカンセロの良いランニング。フェリペはこれまで、自分のマークに忠実すぎるところがあったが、スターリングのマークを捨ててボールに飛び込む良い対応で止めた。


・5-5-0
24分頃を境に、上記の図のようにアトレティコは2トップのプレスも諦めて、完全撤退する。

画像6

5-5-0。
5-3-2だとIHの脇から持ち出されるなら、そこをFWで埋める。
配置の約束は、WB(ロディとヴルサリコ)は相手の大外の幅を取る選手を見る。主に左スターリング、右はマフレズ。
コケはロドリに向かって前に出る。その際はライン間の監視をコンドグビアとジョレンテで担当。
フェリックスとグリーズマンは相手のSBや外に開いたIHがハーフスペースを使おうとするのを監視する。特にフェリックスは、この位置に立っているだけでCBやロドリから右大外へ送る長いボールを抑止出来るので、いるだけで重要な守備タスクだった。ロディとヘイニウドの思考ストレスを大幅に減らせた。

もちろん、犠牲になったのは攻撃の手段になる。


■アトレティコの前進の手立てとシティ側の対策
前半のアトレティコの反撃の選択肢は流石に限定的になる。
前半出来た攻撃は

・ジョレンテの裏
・グリーズマン+フェリックス
・コケのプレス回避

の3点になる。一つずつ見ていく

・ジョレンテの裏
ジョレンテのスピードの優位はこの舞台でもあった。なかったらビビるけど
ただ、この日はスクランブル起用かと思われた左SBアケの存在が、アトレティコの前進の手段を一つ殺していた
ジョレンテとの併走でも劣らず、そして空中戦はもちろん強い。これで"オブラク→ヴルサリコの空中戦"というプレス回避の手段を全く活用出来ず。この方法を防がれた事は、終わってみれば致命的であった。後半先制されて、なりふり構わず押し込みたかった時間帯に頼りたかった選択肢を消されてしまった。

アケがこのチームの第4CBにいる事は、まあたまたまであろう。ウォーカーが出場出来れば存在しない起用法だったとも思う。ボーンマスで活躍してもチェルシーで干されていた男が何故シティやねんと思っていたが、この舞台で余計な活躍をされてしまった。彼が左利きである事、走力がある事、ビルドアップタスクをそれなりにこなせる事、全てがアトレティコにとって悲劇であった。プレミアトップクラブの選手層は凄いねというお話だ。


・グリーズマン+フェリックス
14:50の場面

カウンター1

なんだこの配置。シティは真ん中を抜けず、ボールは大外のベルナルド・シルバへ

カウンター2

ベルナルド・シルバの速いパスがジョレンテの常人離れした反射神経に引っかかる。ちなみにこの場面、このパスが通ってたらPA内2対1で確実に詰んでいた。

カウンター3

再奪回に来るベルナルドを外してハイサイド。グリーズマンがランニングしてフェリックスと2人で速攻の完結を狙う。

ここはグリーズマンがボールを収めきれずに抜け出せなかったが、惜しい場面。ここで、いくつかの気付きがある。

シティの再奪回プレス
絶対に来る。ロストした選手と、その付近の選手が必ずボールにアタックする。決まり事。アトレティコは、この再奪回に対してかなり慎重に、そして勇気を持ってボール保持した。まず、ボールを奪った本人は自分で前を向くのではなく、まずボールを逃す。これを徹底した。この場面のジョレンテもそう。これで再奪回の網からまず逃げる。

〜シティ最終ラインのアラートは正しいか
再奪回は良い。それをチーム全体に浸透させている事も良い。シティはボールを保持したいチーム。必要条件だ。全選手の体に染み込んでいる。ただ、自慢じゃないがアトレティコはプレス回避が下手ではない。少なくとも取られないだけなら出来る。

この場面で気になった点は2つ。まず、SBアケのベクトルが自分の背後を取りに行くグリーズマンではなく、目の前のコケだった点。後方の人数の確認よりも、即時奪回。これがチームの決まり事だ。
もう一つは、ストーンズのランニングが緩かった点だ。まさかフェリックスと並走して勝てると思っているのか?ちょっと一撃のカウンターを甘く見ている対応に見えた。カウンターで刺せる隙は感じた。2ndレグいなそうだけど

この場面は、奪取位置は低かったがランニングするグリーズマンに収まりさえすれば、という場面。ポジトラは2トップで、そこにジョレンテが絡む。というのは事前から予定されていた事で、覚悟を持って取り組んでいたとは思う。


・コケのプレス回避
シティ相手に前進は非常に難しかったが、この前半はコケが関わる場面で何度かプレスを外す前進を見せた。コケは間に顔を出すボールの受け方とダイレクトでボールを正確に逃すプレーが非常に上手い。ヘイニウド、コンドグビアから縦パスを受けてダイレクトのフリックでフェリックスへ、という狙いで何度か局面を解決して見せた。いつもより360度ターンがキレていたようにも見えた。経験の成せる技か、強度が高い試合の方が頼りになる選手だ。
ただ、この形も2トップが中盤ラインに吸収され、コケがターンしても前に誰もいない環境になって以降は効力を失っていった。


●前半終了
0-0で折り返した。5-5でドン引きしたアトレティコだったが、それなりに守れた。シュートは打てなかったが。まず失点しない事を主題に置きたい中で、想定している試合にはなっている様子。

後半に向けては攻撃の手段をどのようにチラつかせるのか。選択肢を変更してくるであろうシティの配置にどのように対応していくのか、対応出来るのか、というところ。


●後半
双方選手交代はなし。配置を互いに少しイジって入った。

後半

シティはスターリングとベルナルド・シルバの位置を入れ替えた。そして右サイドの立ち位置も変更。カンセロが外、マフレズは内に立つように変えた。
まず、スターリングが中央に移動したのは、グラウンダーのクロスに対してニアに侵入する選手を作る狙いがあったと思われる。後述する。

対するアトレティコはグリーズマンが5-5配置から飛び出し、前線に留まる。5-4-1に変更。5-5から飛び出すって初めて使う言葉だな。
相手CBからの球出しを牽制する以上に、"ポジトラは一人でどうにかやって来い"という指示であったと想像する。フェリックスが前だったら非保持を意識した5-4-1だと思うが、グリーズマンが前だとたぶん違う。グリーズマンだからこそやれるし、シメオネもグリーズマン以外には言わない指示だと思う。早速47分に単独走でぶっちぎっていた。51分にも相手のアーリークロスを跳ね返してグリーズマンが起点となり、フェリックス&ジョレンテと3人でカウンター完結。終わってみれば得点の可能性を作れたのはこの時間だけだった。ここで取れていればね。

60分に先にアトレティコが動く。
デ・パウル、コレア、クーニャを同時に投入。
交代はコケ、ジョレンテ、グリーズマンだった。

60分

60分の交代という事もあって、いつも通り事前に(少なくともハーフタイムには)決まっていた選択だったように思うが、この試合に関して言えばグリーズマンはもう少し引っ張れた気もした。単独突破してもらう他打開策は見当たらなかったし。
コケ→デ・パウルも、縦パスを刺したい意図はわかるけど失点してからでは駄目だったのかな、とは思いつつ、"コケを180分のうちどれだけ起用できるか"というマネジメントで考えた時、ここで無理させたくない意思だったと理解している。だとすればグリーズマンも同じ理由なのかなと。


・デ・パウルの前向きを作る
さて、アトレティコの選択肢が変わった。デ・パウルとコレアに頼りたいところ。デ・パウルが前向きで球出し出来る体勢を作り、コレアにボールが入るところを軸にフェリックス&クーニャで仕留めたい。危ないボールロストをせずにどこまで取り組めるか、という部分。


68分、シティが選手を替える。こちらも3枚替え。
ジェズス、フォーデン、グリーリッシュを入れた。3トップの総とっかえかと思ったがoutはスターリング、マフレズとギュンドアン。ベルナルド・シルバをIHに落とした。

68分

かくして、この試合の決勝点は生まれる。

・フォーデンが生んだ異質
結果的に、この日のアトレティコの守備がどうにかなっていた最たる部分は”対人でやられない事”だった。それを変えてしまったのが、上記の選手交代。とりわけフィル・フォーデンであった。

ゴールシーン1

ライン間。この場面のシティの配置が非常に良いのは、ロドリが正対するコンドグビアに対してライン間の選択肢を2本持っている事。これでは止められない。選んだのはフォーデン(というか内側のデブライネへのパスコースは消していた)

ゴールシーン2

内向きにボールを受けるとファーストタッチでグンと加速。一気に対面するヘイニウドとの距離をゼロに詰めて股抜きのラストパス。フリーで抜けたデブライネがオブラクの脇を突くフィニッシュ。先制した。

アトレティコは前半から、ライン間でボールの出し入れをされる事自体に危険はない実感を持って守っていた。そのための5-5-0。この時間帯、ライン間への自信が体に染み込みすぎていたのかもしれない。それだけフォーデンの判断と加速は圧倒的に速かった。彼にボールが入った時点で対応不可だった。一瞬の出来事であった。

また、ジェズスがCFポジションにいた意味は、大きかったように思う。ジェズスが真ん中にいるから、デブライネは迷わずニアへ侵入したのかなと。してやられた。見事な破壊。


アトレティコは、1stレグの残りの時間帯にラッシュをかけて得点を奪いに行く想定はなく、失点して以降も変わらず"失点しない事"に比重を置いた。前から追いかけようという意思もところどころで見せたが、バランスを崩して後方のリスクを増やしてまでの派手な変更はなし。決定機が作れないままタイムアップの笛を聞いた。



●試合結果
アウェーの1stレグを0-1で終えた。まずは守る事。隙間を与えない事。マークの責任を理解する事。5-5-0で守った前半はほぼ完璧に守れたと言っていい。先にリードを奪えれば、という期待は持てた。
失点した後半、まず立ち上がりから配置を動かしたのはアトレティコの方だ。シティも立ち位置の変更はあったものの、攻略エリアを変更した認識はなかった。あわよくば一点、という意識を持った後半のチャレンジだった。
守備でも、「3本くらい外してくれないかな」と冗談半分に言っていたが、たった一つのGKとの1対1を決して逃さなかったデブライネ。ずば抜けたクオリティを感じる。


シティは、この日のスタメンの3トップで2ndレグを戦う事は少し考えにくそうだ。クロスへの侵入方法に苦労したのと、あまりにも時間とスペースがないライン間のボールの出し入れにはフォーデンが必要に見えた。逆にフォーデンに、90分間この日と同じパフォーマンスを出されるとアトレティコとしてはお手上げ。誰のイエローカードをどこで使うかという話になってくる。完全に沈黙させるプランは浮かばない。
おそらくvsアトレティコでベストな3トップは右からスターリング、フォーデン、グリーリッシュではないか。ヘイニウドは左利きのマフレズ相手なら我慢が効くし、ロディとのマークの受け渡しもスムーズ。こちらサイドを縦に引っ張られる方が、最終ラインを維持しにくい。左サイドは内と外のレーンを選びながらボールを引き出せるグリーリッシュが厄介だ。IHの抜け出しを使われるのも避けたいし、ヴルサリコがオーバーラップするタイミングを作れなくなるのも苦しい。

・グリーリッシュ
シティの選手達はそもそも全員飛び抜けて上手いが、やはり途中投入の選手達にきっちりタスクが与えられていた。脱帽のゴールだ。
もちろん最大の危険はこの日はフォーデンだったが、グリーリッシュにも危険な気配が漂う。縦のスピードや狭いエリアの突破ではスターリングに劣るかもしれないが、ファーストタッチの置き所や体の向きの変え方が巧みでボールを触らせてもらえない。アトレティコの選手達も特にここでイラついていたが、常に1点を追う2ndレグにこの選手がスタメンすると厄介だ。あまり関わりたくない相手。


■2ndレグへ向けて
非保持を2点ほど整理する。

・クロス対応
前半の5-5ブロック時、シティのクロスの選択肢は”大外の選手がダイレクトでグラウンダーをGK前へ”であった。

グラウンダー1

こう
主に右から。ダイレクトだった事もあって、ニアには誰もおらずそのままオブラクがキャッチ、という場面が数回。

グラウンダー2

もう一発
後半、スターリングを真ん中に置いたのはこのクロスに飛び込む選手を準備するためであったと想像する。ジェズスが真ん中でもこの飛び込みを狙える(2ndレグ出場停止)。このボールが点で合ってくるようだと流石に止めようがない。ニアへのボールをどのように防ぐかはポイント。


・アンカーの消し方
引いた相手に対するシティの得点パターンで、近年死ぬほど見るのがアンカーから逆ポケットへのロブパス。

ロブパス

これ
手順は、大外を押し込み、ハーフスペースまで寄ってきたアンカーがターン。一番遠いDFの背中へロブパス。
この日は主に思いっきり押し込まれていた前半、この形を警戒したかった。やらせないためにロドリが前向きに受ける場面で必ずと言っていいほどコケが強くプッシュした。

コケ

デ・パウルに替わって以降ここはやや不安だったが、その場面は訪れず。2ndレグも変わらず警戒したい

点差は一点。得点が必要な展開はなるべく避けたかったが、相手はマンチェスター・シティだ。仕方ない。やるしかない。
得点のソリューションを。勝利への情熱を。
最後の瞬間まで、アトレティコ・マドリーらしく。どうせアトレティコは、アトレティコのサッカーしか出来ない。覚悟を決めて挑むだけである。

胸を張れ。死ぬまでアトレティ、死ぬまでだ。


4/5
エティハド・スタジアム
アトレティコ 0-1 シティ
得点者
【シティ】'70 デブライネ



●ピックアップ選手
コケ
プレス回避とアンカーロドリの警戒。重たいタスクを与えられてこそのカピタン。負けては駄目だ。お前が乗り越えるんだよ。ホームで勝つぞ

グリーズマン
守備対応も単独突破もよくやっていた。この舞台でチームを救うために帰ってきたはずだ。赤白を着たグリーズマンを、世界一の選手と信じて疑わない。あと90分ある

フェリペ
無失点で終えればMOMだった。ハイボールの対応、前向きの飛び出し。自身のプレーへの自信と味方への信頼を感じた。90分よく集中していた

オブラク
デブライネの強烈FKをパラドン。CBとの間に飛んでくる速いクロスにも冷静に対応。今日もオブラクは立ちはだかった。

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