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星の煌めきが示す未来図 15節 アトレティコvsエルチェ(H) 2022.12.29

W杯の中断期間を経て。
コパデルレイの1回戦、2回戦はあったものの、プリメーラのマッチは11/9のマジョルカ戦以来となる。お久しぶりです。ところでコパは次1/4にレアル・オビエド戦とのこと。早速過密なんだな。

前半戦のアトレティコはといえば散々な成績。チャンピオンズリーグのグループステージを最下位で終えた上、ラリーガではカディス、マジョルカに負けるなどし、順位表では4位にいるがバルサマドリーに大きく離されすでに優勝はほぼなくなった。放出の噂も多く出ておりこの冬、さらに夏には動きが多そうだ。そういう意味でも来季のCL権は必須、というか逃せば監督交代でしょう。

再開初戦、そして年内最終戦はエルチェとのホームゲーム。
エルチェの絶望具合はアトレティコなんて比較にならないほどで、先季のレバンテに続く年内未勝利に王手をかけてアトレティコとのアウェーゲーム。いくらなんでも悲惨である。

今季はここまで0勝4分10敗の勝ち点4。31失点はワースト、10得点は9得点のカディスに次ぐワースト2位。クリーンシートなし。ただ無得点も案外少ない。フランコ・ロドリゲス→ホルヘ・アルミロン→パブロ・マチンとすでに3人目の監督となる。パブロ・マチンはアラベス首になった人だな。
メンバーはある程度固定できているんだが、この成績だと固定できている事の方が絶望感があるかもしれない。どうにもメンツと配置の噛み合わせがぎこちなく、冬に柔軟性を付与できる選手が欲しい。可能なら3人くらい欲しい。あと90分走れるCBも欲しい。


●スタメン
さて再開初戦のスタメン。

・アトレティコ
オブラク
サヴィッチ / ヒメネス / エルモソ
コンドグビア/ バリオス / ジョレンテ / カラスコ
グリーズマン / フェリックス / モラタ

W杯の失態による裁きを震えて待つヒメネスはスタメン。エルモソはCLとコパデルレイは出場しているが、ラリーガのスタメンとなると9/10の5節セルタ戦以来久々。
中盤は珍しいメンツ。売り出し中のパブロ・バリオスがコパ2回戦に続いてスタメン起用。そして代表で上手くやっていたのを良い事にグリーズマンも中盤風。
それによって移籍騒動の渦中にいるフェリックスもスタメンとなった。キャプテンはオブラクになる。

W杯を勝ち進んだ選手達からはグリーズマンがスタメン、コレア、グルビッチがベンチ入り。モリーナとデ・パウルは外れた。デ・パウルはハムストリングの怪我との情報もある。試合前にはアルゼンチン3兄弟にスタジアムから大きな拍手が送られた。グリーズマンも笑顔。

・エルチェ
バディア
パラシオス / ベルドゥ / ビガス / ディエゴ・ゴンザレス / クレルク
マスカレル / ラウル・グティ
ペレ・ミジャ / ボイェ / ロジェール・マルティ

中盤はグンバウが累積で出場停止。5-2-3で配置する。

さあ、再開。


●前半
アトレティコはスタート直後は3-5-2のような配置だったが、攻守ともにグリーズマンが中盤にいる必要がそれほどなかったので徐々に3-4-3(3-4-2-1)に。グリーズマンはフェリックスと並列にいる時間が長くなった。

・アトレティコの狙い
エルチェ相手にボールを保持して試合を進める事ができた前半のアトレティコ。その構造を振り返る。

後方3枚でビルドアップ。アンカーポジションのコンドグビアの隣に1人降りてきて3-2でビルド。主にバリオスの仕事。
配置で特徴的だったのが最終ライン、ヒメネスが右でサヴィッチが中央に入った事。普段とは逆になった。
上下動が増えるという想定でスピードのあるヒメネスをサイドに置いたのか、というとそれなら左のエルモソの背後をサポートするためにヒメネス中央、がこれまでの考え方だったので違いそう。単純にボイェが真ん中ならサヴィッチ真ん中ね、とかかもしれない。あとは配球のところでこっちの方が良さそうという発見があったか。ヒメネスはロングボールは良いけどインサイドパスをトップに付けるようなイメージがないのであまりわからない。ちなみにこの日、ヒメネス→カラスコのようなロングボールは全くなかった。


まず配球のルートとして左右で見てみる。まず右

バリオス、ジョレンテ、グリーズマンの3人でトライアングルを回す。この関わりで非常に良かったのはスタメン抜擢のバリオス。有機的にボールと人に関わって侵入ルートを作っていった。「グリーズマンに近づけ」というタスクは彼の良さを上手く引き出せるプランだったように思う。パスムーブとボールへのコンタクトのレベルも全く問題なし。これだけで起用に答えたと合格点を出して良いクオリティで、この日のシステムのCHに要求されるタスクをキックオフから着実にこなしていた。

グリーズマンはこの日、2トップの一角ではないという意識からか、バリオスの侵入ルートを開けるために頻繁に大外に移動した。これによってジョレンテはトライアングルの中で最後に空いた箇所に立つ事が多く、都度適切なプレー選択をする事に苦労していた様子。次第に右サイドはジョレンテの脳トレのようになっていった。君は元々中盤の選手じゃなかったかね。
ちなみにグリーズマンがわざわざ大外まで出張したのは相手が5バックで背後はなかなか取れないからジョレンテが大外にこだわる必要ないから工夫していたのだと思われる。多分。代表でよくやっていたから踏襲してみただけかもしれない。


続いて左。

こちらはエルモソ得意の配球に対してカラスコが大外レーンを独占。隣のフェリックスがハーフレーンを縦挙動してボールを引き出した。カラスコとフェリックスの相性の悪さは何度も指摘してきたが、今さらようやく形となった様子。別に2人のコンビネーションが良かったシーンは一切ないが。

フェリックスが立ち位置を下げるのを見て、右サイドではトライアングル形成の中心になっていたグリーズマンが中央レーンまで移動。流石のポジショニングタスク。それに連動してバリオスがライン間へ移動してくる。これもよくやっていた。
前半のうちに多かったのは、フェリックスを気にして右HVのディエゴ・ゴンザレスが吊り出され、最終ラインがグリーズマンとバリオスのマークを受け渡しているタイミングでモラタが裏を取る、という形。

フェリックスは足下でボールを貰えば100%前を向ける質を持った囮、という贅沢な使い方で何度もモラタの裏抜けを引き出した。44分にベルドゥを退場させたのもこの形である。ちなみにベルドゥは前半でのレッドカードは今季2度目となった。


●前半終了
再開初戦の前半は0-0で通過。
中断期間にボール保持の改善を必死に行った事がわかる45分を過ごし、カンテラーノのバリオスはそこに組み込まれたというより、最適な人材だから起用されたという印象を残した。グリーズマンの動きを見ながら自らボールを要求し、効果的にプレーできた。モラタの背後を狙う動き出しも有効でベルドゥを退場させるに至った。あとは点を取って勝つだけの後半に向かう。

エルチェは幅を広く選手を配置し、HVからボイェのポストワークを生かす形を模索。ボイェ自身はさすがの技術であったが、相手を押し込む有効な手段を見つけられないまま1人少なくなってしまった。現実的には0-0で終えたい後半となる。


●後半
退場者を出したエルチェも選手交代なしで後半。

エルチェは4-4-1

そのまま4-4-1に移行する。
前半のところで書いている通りアトレティコの攻撃は5バックのマークをズラして背後を狙う事を頻りにやっていた。ここでアトレティコの狙いがモラタの裏抜けになった理由は、エルチェの5バックの振る舞いにある。つまり、前半のエルチェの両SBは大外、ジョレンテ&カラスコを自由にさせないタスクを最優先していた。だからアトレティコは3CBの配置を動かす作業をし、その結果がモラタの裏抜けという狙いであった。

後半、4-4-1になったエルチェは、前方3枚でアトレティコ最終ラインからの配球を抑える事が難しくなり、結果的に大外を抑える事を諦める事となる。

早速アトレティコはジョレンテが内側に入ってきて背後を取り、その直後にはフェリックスが抜け出してグリーズマンに決定機を作った。これは一方的になりそうな展開。

ただ、直後49分にカウンターを止めようとしたエルモソがイエローをもらう。そもそもヒメネスで止められるプレーだったし全く不要な対応。こういうゲームマネジメントの拙さは必ず改善しなければならないポイントである。
で、53分に2枚目をもらって退場。今さら特に何も言う事はない。さよなら。

さて、10人vs10人になった。けっこう意外だったのは後ろが4枚に変わってもサヴィッチが左でヒメネスが右だった事。何かこっちの方が良い都合があるみたいね

56分にアトレティコが先制。10人vs10人になると、というかスペースが生まれ始めるとさすがにジョレンテの質が際立ち始め、コンドグビアからフェリックスに縦パスが入ったところからスピードアップ。最後はグリーズマンとフェリックスがPA内に入りゲット。
アトレティコはここでカラスコ→レギロンを交代。4枚のSBなのでカラスコの仕事ではなくなってしまった。これでレギロンはラリーガでは14節マジョルカ戦に続く連続出場。

エルチェは全体的に広大なスペースをカバーしきれなくなり、グリーズマンとフェリックスが好き放題やり始める。特にトランジション局面でこの2人からボールを奪うのは難しい展開に。65分には足を攣ったフェリックスに替わってルマル投入。
エルチェはロジェール・マルティとボイェに替えてコリャドとポンセを入れる。確かにトランジションに強そうなのはこの2人である。72分には右サイドのパラシオスからのクロスでペレ・ミジャにようやくこの試合最初の決定機を作った。

74分にアトレティコはモラタが1人で持ち込んで面白ゴール。自分でもゴールと気づかない可愛いゲットとなり勝負あった。勝利の立役者になったグリーズマンとバリオスの2人はここでお役御免。

エルチェは最後、途中出場のドミンゴス・キナまで2枚のイエローで退場するおまけ付き。慌ただしく試合を終えた。


●試合結果
再開初戦は2-0で勝利した。W杯の中断期間もあり、コパデルレイでアンダーカテゴリーのクラブには勝っていたものの、ラリーガでの勝利は10/23の11節ベティス戦以来、2ヶ月ぶりの勝利となった。長い時間だった。どん底のチーム状況で迎える中断期間は決してポジティブなものではなかったが、整理された部分が多々あった。まとめる。

・ビルドアップルートと立ち位置の整理
3CBでボールを持ち、アンカーポジションのコンドグビアの横にもう一枚降りてくる3-2の形で前進を促した。コケ&デ・パウルの組み合わせでも数回試されてきた3-2ビルドは、この日はうまく機能した。ポジティブな結果を得られた事はまず良かった点。
あとは、アンカーポジションの考え方はまだ安定しない。まずこの日のコンドグビアのボールコントロールの出来が最悪だった事は多方から指摘されるだろう。普段通りといえば普段通りだが。にしても全く経由できないのでは話にならない。中央にいる資質を疑われて仕方ない。
とはいえ、バリオスにしてもグリーズマンにしても守備能力を必要以上に期待する事は難しく、サイズがある、ボディコンタクトに強い、という2点だけで見てもこのポジションにコンドグビアを置いておきたい気持ちは十分に理解できるだろう。ヴィツェルならどうでしょう、コケならどうでしょうというのは今後検証されていくはず。なんだかんだでこのポジションの一番手はコンドグビアだと思っている自分がいる。いいんだけどね、アムラバトでも。

・フェリックスの起用法
気持ちが大きくプレミアへ傾いているフェリックスだが、この日の起用は彼への一つのアンサーになる。グリーズマンだけでは足りず、グリーズマンとバリオスが同時にピッチにいる事によって初めて、フェリックスはフェリックスになれた。じゃあ他のメンバーと一緒だとどうなんだ、という検証は行われる事もなく、チームを離れていくのだろう。ギリギリ間に合わなかったなという気持ち。この日のパフォーマンスは非常に良かった。

・ネガティブ・トランジションの振る舞い
ショートパスで真ん中を狙う構築は、ネガティブ・トランジションの発生とセットである。そこの質の担保がコンドグビアの存在意義であり、サヴィッチとヒメネスを右なのか真ん中なのかと頻りに指摘していたのもそれが主な理由である。
結果的にはそれをぶっ壊してしまったのはまたもエルモソ。イエローは2つともトランジション局面だ。そこの能力に劣るのは周知だが、判断も悪く周りが見えていない。HVには今後はこういう局面の対応が求められる頻度は増えていくだろう。そうなるとこの日のパフォーマンスでは起用できない。問題は"そういうテスト"がされている意識を彼自身が持っていたかどうかだ。反省して次に生かすフェーズはとうに過ぎている事を認識できているか。残念な結果になってしまった。

・パブロ・バリオスのタレント
パブロ・バリオスの抜擢は、単にデ・パウルの代わりという立場に留まらず、この役割に最適な選手として起用されている。まずグリーズマンの位置を軸に正しいポジションで3CB+コンドグビアとリンクし、グリーズマン&ジョレンテとのトライアングルを意識した。そしてグリーズマンが中央レーンへ移動する動きにあわせて、自身もライン間を取るポジションチェンジも全く違和感なし。技術的にも問題なくプレーし、自ら強気にボールを要求する機会が多かった事も高く評価する。当然の事と思われるかもしれないが、今チームはこの状況である。ボールを要求する難易度は低くない試合だった。よくやっていた。極めてポジティブなプレーを披露できたと評価したい。このチームは死ぬ寸前までいかないとカンテラーノが出てこない。新たな救世主になる事を期待したくなる躍動だった。

さて、あくまでもこの試合の評価の話をした。今後はまだ乗り越えるべきハードルは山ほどある。アトレティコはそんなに簡単ではない。
まず、グリーズマンがいないピッチで同様のパフォーマンスを発揮できるか。
彼のスキルには近い距離でリンクする選手が必要になる。それはポンフェラディーナ戦でも指摘した。どんな組み合わせで、彼のクオリティが出せるのか。この日が最高なのか、まだ上があるのか。
そして、敵陣でボールを保持しポジショナルな配置優位を突きつける事ができたこの日と違い、ボールが両陣営を行き来し球際のファイトが増えた試合で、デ・パウルやコンドグビアと同じ強度を持てるか。
そもそも保持率が40%程度の試合で、彼に役割は存在するか。

今のアトレティコも、おそらく未来のアトレティコも、中盤の選手はボール保持に長けていれば良いなんていう時代は訪れない。そしてそもそもコケとデ・パウルという壁は、そんなに低くない。パブロ・バリオスは、アトレティコのMFとしてチームの救世主になる事はできるか。この日見せたパフォーマンスは間違いなく、それに足る物であった。彼の未来にアトレティコの未来を重ね合わせたくなる。ワクワクできる若手が出てきた。さあ期待しよう。パブロ・バリオスは、アトレティコ・マドリーの救世主になれるか。



・一年間の感謝
ホームで最下位のエルチェとの試合。2ヶ月ぶりの勝利。まずは抱きしめて、次へ進む。
さて、2022年もたくさん書いてきましたが、いつも応援してくださってありがとうございます。助かります。励みになります。来年もやっていきましょう。来年はちょっとセリエAに手を出す予定です。暇なんだよ。CLねえから。
個人的には、別に2021年と同じ気持ちとテンションで書き続けておりますが、人の目に触れる機会も大幅に増えていたようで。1.8倍くらいのpv数となりました。ありがとうございます。どこかで還元したい。皆様に。どこで?

てなわけで、来年も何も変わりません。移籍候補の各選手については1月末に全部決まったらまとめるつもりでございます。

てなわけで。年始は駅伝見ます。明治頑張れ。良いお年を!


12/29
シビタス・メトロポリターノ
アトレティコ 2-0 エルチェ
得点者
【アトレティコ】’56 フェリックス ’74 モラタ


●ピックアップ選手
フェリックス
ライン間で躍動。ボールを触りにライン落ちする動きも効果的に仕組みに組み込まれた。

バリオス
申し分ないパフォーマンスでチームを動かした。もっと見たい。

ジョレンテ
前半はやるべき仕事を計り損ねて右往左往。5バック相手も難しかったがスペースができた後半は先制点を演出。

グリーズマン
なんだその頭は

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