アトレティコらしさを探す旅〜あの試合から探すその定義〜 後編

後編になります。

前編はこちら


今日の試合はもちろんこれです。
読んでくださる皆様におかれましては2日連続でラモスのアレをご紹介する事になり恐縮です。耐えてください。産みの苦しみです。たぶん


●レビュー

■15/16シーズン CL決勝
マドリーvsアトレティコ

あれから2年後である。またもや立ちはだかるのはこのシーズンからCL3連覇を成し遂げるレアル・マドリーだ。会場はイタリアのミラノ。ジュゼッペ・メアッツァだかサンシーロだかだ。

ちなみに14-15のCLも、この2チームは準々決勝で対戦している。2戦合計1-0でマドリーが勝ち抜け、準決勝でユベントスに敗れている。
14-15も、15-16もラリーガ優勝はバルサ。現スペイン代表監督のルイス・エンリケ率いるMSN時代ですね。マドリーはどっちも2位。アトレティコはどっちも3位。マドリーはこのシーズンの途中からジダンの第一次政権。


●スタメン
・アトレティコ
オブラク
ファンフラン / サヴィッチ / ゴディン / フィリペ・ルイス
ガビ / アウグスト・フェルナンデス / コケ / サウル
グリーズマン / フェルナンド・トーレス

アトレティコはオブラクが加入2シーズン目。ミランダがインテルに移籍したCBはサヴィッチがこのシーズンから加入している。
チェルシーに移籍したものの1年で戻ってきたフィリペ・ルイスがこの年もスタメンだ。
中盤には現カディスのアウグスト・フェルナンデスがスタメン。2トップはグリーズマンとトーレス。サウルはバイエルン戦のアレのシーズン。背番号は17の頃。ラウル・ガルシアはこのシーズンからアトレティックへ移籍。
ベンチは2年前はスタメンだったチアゴ以外は様変わりしており、コレア、ヒメネス、トーマス、カラスコ、リュカがいる


・マドリー
ケイラー・ナバス
カルバハル / ラモス / ぺぺ / マルセロ
カゼミーロ / モドリッチ / クロース
ベイル / ベンゼマ / ロナウド

3連覇の一つ目である。見慣れたメンバーすぎて特に言う事はない。中盤3枚は今と一緒。そういえば3連覇の時ってGKクルトワじゃないんだね。ルーカス・バスケスはこの年まで18番だったらしい。カルバハルも次のシーズンから変更だったかな。イスコは2年前は23番だったけど22番。当時はディ・マリアが付けてた。
ぺぺはこの時期すでに引退間近みたいなイメージを勝手に持っていたがまだ33歳だった。モウリーニョ時代ですでに34歳くらいのイメージがある。


スタメン

主審は懐かしのマーク・クラッテンバーグ。


●前半
お互い球際で激しく入った。6分にはベイルの高速FKにベンゼマが合わせて決定機があった。


■この年のアトレティコ
アトレティコの2年前からの主な変更点は大雑把に下記2つ
・前プレ
・ビルドアップ
の2つ。というかこの2つを比較するために2試合見てるんだけど。

では一つずつ。
まずは前プレ。後述するマドリー側の要因もあって前からのプレスがかなり効いていた。
アトレティコの狙いは、

GKナバスに蹴らせる
→競り合いは無理に勝たなくても良い。背後を警戒。
→セカンドボールを受けたCH(モドリッチorクロース)を素早く囲む

という形。
アトレティコの2トップがマドリーの2CBに激しくプレスする。フェルナンド・トーレスは全盛期のスピードは失われているが、やっぱりCBとしたらトーレスが全力で迫ってくるってだけでかなり怖いだろう。たぶん。

前プレ

CB+ボールサイドのSBにプレス。ボールに近いSHがSBに寄せてCB同様に自由な保持を許さない。逆側のSHは絞って3CHのような配置になり、セカンドボール狙い。これを徹底した。GKナバスに戻させてロングボールを選択させる

前プレ2

蹴らせた
このロングボールの競り合いは弾き返せればいいが、背後へのフリックなどを警戒。後方に戻させる分には問題ない。中盤ラインはグッと下がって、胸トラップでキープなどの選択はさせないように

前プレ3

ここで囲む。マドリーのCHは前を向けず、平行サポートに来たSBに渡すのが精一杯。この時にはアトレティコの4–4-2ブロックは完成している。という流れ。

ラモスが遠いSBまでボールを送る場面もあったが、

前プレ4

その結果はセカンドボールを平行サポートとしたSBに渡したパターンと同じ配置になる。

画像6

結果は同じ


続いてビルドアップ。2014年には縦関係の2トップに当てて深さを取る以外の選択肢がほぼなかったが、この試合ではもう一つ準備。カギになったのは2年前はいなかった2人。アウグスト・フェルナンデスとグリーズマンである。

ビルド構造

まず"なんでお前は中国に行ったんだ2号”のアウグストは、2年前のチームにはなかった安定したボール保持の技術と縦パスの質があった。そしてグリーズマンは対応不可なレベルでライン間でボールを自在に引き出しまくった。ほぼ香川真司である
アウグストからの縦パスでの構築を狙っていたため、CBのサヴィッチ、ゴディンもロングボールに逃げる事なくどうにかショートパスで繋ぐ場面もあった。感動的。

縦パスを入れる事が目的なので、全体のポジションもそのために配置される。トーレスは相手最終ラインで駆け引きし、両SHは内側へ絞ってグリーズマンと近い距離に入り相手CHの注意を引くと同時にサポートの役回り(グリーズマンのサポートもアウグストのサポートも)、また縦パスが引っかかった際の即時奪回の役割を担った。攻撃も守備もこの2人のタスクの重さが半端じゃないが、普通にこなしているのが怖い
両SBは大外レーンに立って、グリーズマンのターンが不完全で前を向けなかった場合のサポート(すぐに近いSHと三角形を作る)をする。
両CBとガビはネガトラ要員、とハッキリとタスクを分けていた。


・ラモスリターンズ
あとは、試合開始から15分間くらいは特にSBが後ろ向きの相手にわざとファールする勢いで激しくプッシュした。球際の優位を譲らない強い意思を色濃く見せつけた。
が、15分にファンフランのファールで与えたFKからラモスのアレリターンズが決まってしまう。VARがあればオフサイドっぽいが。しかしラモスの嗅覚というか何というか。ベイルのフリックが落ちてくる場所が事前にわかっているかのような飛び込み方だった。ノーチャンス。

■マドリー側の都合
この日のマドリーは3連覇につながるチームであり、今のチームの根幹を担う選手もいたりとさぞかし強いんだろうなと思っていたが、何とも不安定で不恰好なチームである。

・ビルド
まずビルドアップだが、クロースのサリーダデバロンもなく、モドリッチもセカンドボール要員でしかなかった。いつ覚醒するんやこの選手は
後方7人はビルドアップにおいては前線3枚の足下にボールを渡すための存在でしかなく、前3人がワンツーなりドリブル突破なりで相手を押し込むまで何も出来なかった。というかSBが高い位置を取りすぎると3トップが窮屈になってボールを受けにくくなると考えていた可能性まである。
2年前はこのアンバランスをディ・マリアが1人で繋いでいたんだなと。

・非保持
そして非保持。アトレティコはアウグストの球出しを活かしたが、マドリーは前3人がほぼ守備をしない。そりゃアトレティコのCHはフリーになれる。フリーでボールを持って、グリーズマンが顔を出すタイミングさえ狙えばいい。もしかしてアウグストはそんなに上手くないのかもしれないが、まあこの際どうでも良い。良い縦パスが刺さっていたのは事実だ。他所は他所。



●前半終了
随分と2年前とは印象の違う45分間であったが、今度はマドリーがセットプレーから先制している。サッカーは難しい。
アトレティコの守備は特に問題点もなく、後半はシンプルにゴールを目指す戦いになる。
おれがジダンの立場だったら今すぐこのアンバランスな3トップを辞めたいところだが、この頃のジダンの凄い(とされていた)ところは”この3人を試合に使い続けながら勝つ”というところだったと記憶しているので、そういう選択肢はないのだろう。ベイルのゴルフ狂いが最大の補強だった可能性。
じゃあどこをテコ入れして守備を安定させますかと言われると難しいんだが、おそらくマドリー指揮官には”2点目を取って安定させる”しか許されないのだろう。大変な仕事だ



●後半
開始から形を変えたのはアトレティコの方。高校生みたいな顔をしたカラスコが出てきた。加入初年度、まだ10番になる前だ。アウグスト・フェルナンデスをあっさり下げた。
この変更は結構意外だ。今のシメオネがやっても意外なくらいの大胆なバランス変更になった。そう思った理由はコケとサウルの両SHのタスクが前半の形勢を決めていたから。彼らは非保持では前プレで相手SBへのハイプレスと絞ってのCHタスクを両方こなし、保持すると大外で前進のポイントを作りながら逆側にいる時はグリーズマンの隣まで絞ってきてセカンドトップに近い仕事をする任務があった。それと即時奪回。多忙すぎる。

後半

この交代で、アトレティコは実質4-1-4-1に変わる。そしてコケとサウルはIHになった。本当に多彩。ポリバレント。グリーズマンは右大外に回った。ボールの循環を中央の縦パスから別の方法に変える意図が見える。ここ、シメオネにインタビューしてみたいなあ。


・逃したビックチャンス
開始1分、いきなりアトレティコが仕掛ける。コケとの関係で前向きに仕掛けたグリーズマンが内側へ侵入。PA内のトーレスの足下へ。ペペが激しく潰してPKゲット。押し込みたいアトレティコは願ってもいないチャンスが訪れた。

しかしこれをグリーズマンがバーに当ててしまう。この日も天はアトレティコに味方しないのか

直後、カルバハルが負傷交代。ダニーロが出てくる。カルバハルはおれの知る中で世界一試合中に怪我して交代しているイメージなんだが。涙の途中交代。

押し込み


その後も押し込んでいたのはアトレティコ。右からはグリーズマンとコケ、左からはカラスコとサウルがボールを持って前進。
もちろんその分カウンターに晒される場面も多かったが、どうにか耐えた。リスク背負ってるじゃんシメオネのチーム、って感じ。マドリーの3トップに後方3枚なんて、むしろ無謀なほど勇敢じゃん。
60分過ぎからはマドリーはロナウド、ベイルも守備に戻ってくる我慢の時間に。ジダンの次の策はいかに、という展開。ここが展開のポイントだった。


なんとか2点目を、とロングカウンターを繰り返したマドリーだったが、守備対応に追われるロナウドとベイルの走る距離が極端に長くなり、マドリー3トップの方がむしろ疲弊していった。

・マドリーの交代策
72分にイスコin。交代はクロース。
クロースはほぼ特徴が出ない試合、というか出ないチーム戦術だ。この後よくこのチームに残留したなと思うほど。この試合だけ見ると、彼の球出しを活かすようなビルドアップが出来るチームにすぐにでも移籍すべきに見えた。

73分にはぺぺ得意の虫唾が走るほど気持ち悪い時間稼ぎも飛び出した。風物詩
彼は今でさえ経験豊富な大ベテランのような扱いをされているがどの面下げて?としか思わない。顔触られてただけで転げ回ってた

77分にベンゼマoutでルーカス・バスケスin
ベンゼマは、この年もまだこの扱い。後述する


■歓喜
79分、アトレティコに歓喜の時は訪れる。
右サイド深くにファンフランが侵入し低いクロス。ファーから飛び込んできたカラスコが合わせた。同点。

・同点ゴールの要因
このゴールには興味深い要因があった。まず、マドリーの選手交代が影響している点だ。
この時、マドリーの撤退は4-4-2で構えている。ベンゼマがいなくなり、ベイルとロナウドを前に残した形だ。これが失敗だった。さっきからバランスを取り戻せと何度も言っておいて申し訳ないが、この変更は凶と出た。

同点1

ロナウドがイスコに手で「お前が行けよ」ってやってるからまあそういう事なんだろう
マドリーは4-4で構えている。大外で局面の2対2。サウルがトップポジションに侵入し、マドリーはCBがPAに釘付けにされている。アトレティコは3人目のサポートが来れば突破できる。

同点2

ガビが来た。グリーズマンがポケットに抜けて大外が空く。そこにガビからファンフランへのロブパスが出て攻略。ダイレクトの折り返しに逆サイド大外から飛んできたカラスコが合わせた。


失点直後に4-5-1撤退に戻しているので、もしかするとこの時だけたまたまベイルが戻り切れていなかった可能性もあるが、少なくともベンゼマがいなくなった事で"ブロックから外れていいのはおれだな"とロナウドが判断した事はほぼ間違いない。指示があったかは知らん。いずれにしても彼から守備タスクを取り除くべきではなかった。もちろん「もう一点取らなければ」という彼の責任感がそうさせたのだ。それはわかる。だがチームとしてバランスをコントロール出来なかった事は事実。

ガビ、このシーン以外にも前半35分など複数あったが、中距離のロブパスがめちゃくちゃに上手い。ゴルフだったらアプローチの天才だ。テクニックに優れるわけでもショートパスの質が抜群なわけでもないが、展開を変える一芸を持っている。僕の部屋にはガビのユニフォームが飾られています。アイドル。

・リスクを減らし、勝利へ
この同点ゴールで、アトレティコは本来のバランスに戻った。4-4-2。中盤の並びは右からサウル、コケ、ガビ、カラスコの順。捨て身のリスクを負う事をやめ、引き続き優位に戦う。

・ラモスのギリギリのプレー
90+3分、カラスコの単独カウンターをラモスが後方からのスライディングで止めて、イエロー。センターサークル内とはいえ、抜け出して3対1の場面だった。決定機阻止のようにも見えたし足を狙ったチャレンジだった事もあり、赤でもおかしくないプレーには見えたが。
いずれにしてもこのプレーがこの試合を決めたかもしれない。あの位置で止めなければ決勝ゴールが決まっていたかもしれないし、退場でも試合は変わっていた。CL決勝はギリギリの戦いだと再確認させられる。そしてセルヒオ・ラモスという選手は、そのチャレンジが出来る男だ。


●後半終了
2年前と同じ、1-1での延長戦突入となる。
しかし2年前とは、アトレティコ側に残っている体力も選択肢も全く異なる。交代カードも2枚残した。

また、追う側追われる側の違いこそあれ、見ている側からしても永遠のように感じられた2年前の後半戦とは異なり、非常にテンポ良く試合を動かした後半だった。力強く押し込み、結果的にジダンが自らバランスを壊してしまった点も、アンチェロッティのチームと対戦した時とは状況が異なる。


■後半戦の攻防
両監督の、後半の思惑は以下だ
・4-1-4-1への変更
まずアトレティコがアウグスト→カラスコを交代し、4-1-4-1で押し込む。ボール保持を高め、チャンスをいくつも作った

・WG押し込み
アトレティコが両サイドにSH、SB、IHまで絡めた押し込みを繰り返すと、マドリーは4-3の守備ブロックでは枚数が明らかに足りず、やむなくロナウドとベイルが大外に落ちる対応でその場しのぎをする。
"その場しのぎ"とはマドリーの、もっと言えばマドリーの3トップの都合でしかないが。2014年のアトレティコは11人全員で撤退し残りの時間を過ごす事を勝利へのソリューションとした。別にマドリーはそのまま4-5-1で時間を過ごしても良かったはずだ。そして、2014年のアトレティコ、2016年のマドリーがどちらも逃げ切りに失敗したのも面白い。サッカーとは難しいスポーツだ。

・疲労
それでもマドリーの攻撃の選択肢はあくまでも3トップの質しかない。2年前はモドリッチとイスコの保持で押し込んだが、そういう様子もなく。なんとか2点目を、と全体で焦り、さらに縦に急ぐ展開が続いた。3トップは疲弊していった

・交代
クロース→イスコは、まあそういう時代だったんだなぁという。
で、ベンゼマ→バスケスだ。
引き続きロングカウンターでトドメを刺したいなら、ベイルは替えられない。ロナウドを替えるのはたぶん無理だろう。村八分にされそうだし、ロナウドが駄々こねて試合が中止になりそうだ。ちなみに3人のスペック考えた時におれならロナウドを下げたい。疲れてたし

・バランス崩壊
結果として、4-4-2に変更し、ファンフランに抜け出され、同点ゴールを献上。


どこまで、両チームが想定していた範囲なのかはわからないが、引き金を引いたのはシメオネのアウグスト→カラスコであった事は紛れもない事実。シメオネが起こした45分間の同点劇であった

・グリーズマンの配置について
後半開始時点で書いたグリーズマンの大外ポジションについての個人的な仮説を補足する。
シメオネの狙いは、ロナウドとベイルに守備をさせる事だったのではないか。
理由は、この2人の走行距離を長くする事でロングカウンターの脅威を取り除きたかったからだ。疲れさせたかったし、前線に残られたくなかった。その結果、上記のバランス崩壊を起こさせたのではないか。考えすぎだろうか。そもそもアトレティコのネガトラ要員は2CBとガビの3枚だけだ。ロナウドとベイルに前線に残られたら危険すぎる。逆説的だが、失点のリスクを減らしながら同点に追い付きたかったら、マドリーに守備的になってもらう必要があった。そして結果的にそうなった。
2014年の試合では2トップの一角のアドリアンが左大外にポジションする事で保持のポイントを作ったが、この試合では左右両方に、チームで一番単独突破能力のある2人を置いた形だ。これ、シメオネが保持を回復したい時の特徴なのかな。これから気にして見ていきたいと思う。

それにしても、普通は同点に追いつくソリューションを思案する時に"相手の3トップは守備をしないから大外から押し込もう"となるはずだ。しかしそれは凡人の発想で、シメオネは違ったのではないか。点を取るためにはまずマドリーの3トップを疲弊させる事、そのためにロナウドとベイルに守備をさせよう。と考えたとしたら。そしてまさか、ジダンの選手交代の選択肢がベンゼマになる事まで見えていたとしたら?

痺れる結果論だが、どうだろうか。
話は戻る。そのために、グリーズマンを大外に配置した理由は、マドリーの守備に大外対応の変更をさせるためだ。WGを前線から引きずり下ろすため、大外を押し込む役割はカラスコと、グリーズマンが担った。グリーズマンのサイドで大外を攻略し、そして同点ゴールは生まれた。決めたのはカラスコだ。考えすぎだろうか。考えすぎてもいい。ともあれ、延長戦だ。


●延長戦
双方ライン間がガラガラに空きながら、お互いに前線の動き出しもなくなり、いよいよ消耗戦に。
マドリーはロナウドとベイルがどう見ても限界だが、PK戦を考えるとこの2人は替えられず実質手詰まりに。
アトレティコは延長まで来てもまだコケとサウルが元気に動き回り、カラスコ周辺で突破を試みる。カラスコのクオリティは現在と変わらない。ぬるぬると抜けていく独特の感覚も今と一緒。コケは2年前はガス欠していたが、あの試合以上に走り回りながらまだ気を吐く。成長が見られる瞬間。


延長後半108分、サウルに替わってトーマスを入れようとしたが、同じタイミングでフィリペ・ルイスが足を痛め、この交代を取りやめ。フィリペ→リュカ・エルナンデスを交代する。
その後、116分にいよいよコケが立ち上がれなくなり、トーマスと交代。よくやった。
アトレティコにとっては延長戦、せっかく残していた2枚のカードを能動的に使えなかったのは痛恨だった。結局、2点目は生まれなかった。


●PK戦
ファンフランの失敗で敗戦。惜しかった。2年前よりも格段に。
ガビの涙が、おれの全てだ。

●試合結果
負けた。どうしても勝てない、超えられない。

見えた景色は2年前の試合とはだいぶ異なっていた。アトレティコは能動的にボールを動かし、グリーズマンという最強の武器を最大限に活かす戦術を取れていた。
引き続きCBの強度はバケモノ級で、SBの対人性能と上下動は過労死級。コケとサウルは3ポジション分くらいのタスクを当然のようにこなしてほぼ聖徳太子だった。
惜しむらくはFWフェルナンド・トーレスが120分間全くボールを収める事が出来ず、相手CBの脅威にもなれなかった事か。たぶんトーレスの名前だけで最終ラインを押し下げられていた部分はあったぽいが。その後ガメイロの獲得、ジエゴ・コスタの復帰へと続くグリーズマンの相棒問題であった。

アトレティコは狙った形で攻め続けて同点ゴールを奪い、最後まで熱く戦った。結果はほんのディテール。ただ、そのディテールこそが勝敗を大きく分けてしまうんだなという試合だった。


マドリーはチームが空中分解寸前なんじゃないかと思う出来だったが。このタイトルでチームがまとまった、みたいなところもあるんだろうか。この後、ペペ→ヴァランが替わる以外はほぼ変更なしのメンバーでCL3連覇を成し遂げる事となる。今度、翌年のユベントス戦もあらためて見てみよう。ロナウドのワンタッチゴールが凄かった記憶だ。モドリッチのクロスだったはず。



2016/5/28
エスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァ
マドリー 1-1(PK5-3) アトレティコ
得点者
【マドリー】'15 ラモス
【アトレティコ】'79 カラスコ


●ピックアップ選手
グリーズマン(アトレティコ)
シメオネのチームを間違いなく一つ上のレベルに押し上げた選手だ。そしてシメオネが一番彼を活かせる。あのPK失敗の借りをこのクラブで返すチャンスは、まだある

コケ(アトレティコ)
高い位置でボールを受けられるようになり、グリーズマンのおかげでさらにプレーがシンプルに。ネガトラのボールプレッシャーは絶品

ガビ(アトレティコ)
チームのバランスが変わった後半も安定感をもたらす働き。スピードでもパワーでもどうしようもない相手も何故か止める。これぞおれの探している気合根性、なのか?
判定に対するはっきりしたリアクションも非常に良かった。カピタン。

カラスコ(アトレティコ)
後半頭から出場。シメオネにシステム変更を覚悟させるドリブルセンスで試合を変えた。猛然と飛び込んだ同点ゴールは見事


ラモス(マドリー)
また決めた。なんと言っても後半ロスタイムのイエローをもらったプレーだろう。ワンタッチ遅かったら失点or退場だった。チームを救った。


●検証・考察


2つのCL決勝を見てきた。
まず、事前に準備していたアトレティコのイメージを検証していこう。

■事前イメージの検証
・4-4-2堅守

概ね、イメージの通りであった。
が、違ったのは2016年の試合の後半。アウグスト→カラスコの交代で簡単に4-4-2のブロックを捨てて攻勢に出た。
最近のシメオネがよくやる、選手交代で無理矢理ゲームバランスを崩して展開を動かす選手交代を、この頃から見せていた。別に4-4-2と心中していたわけではなかった事がわかった。あくまでも4-4-2は実家、システムは手段でしかないシメオネの発想が見えた。今と何も変わらない

・デュエル
強かった。中盤ではガビが圧倒的に地上戦に強く、チアゴも同様。2016年はサウルもコケもとにかく出足が速く、自由に前進させなかった。
CBはゴディンが圧倒的な存在感。こんなに凄かったのかとあらためて。当時世界最高じゃないだろうか。コンパニやボヌッチはもっと凄かったんだろうか。
現代的な文脈で言えばビルドアップ性能はほぼゼロに近く、オールドタイプではあるが局面の強さは圧倒的。1.5人分以上の性能だった。

現在のチームと一番違ったのはSBと思われる。今のアトレティコの補強ポイントでもあり、まさにヴァスやヘイニウド・マンダヴァのお披露目間近のアトレティコだが、ファンフランとフィリペ・ルイスの質が際立っていた2試合だった。走り合いで決して負けず、ヘディングが強く中央に入っても強度があった。この中央の強度のところが代替が難しい。ビルド性能はもちろん、単独でボールを持ち運べるフィジカルも持ち合わせた。これはトリッピア、ロディが持っていない強み。総合力が高く、カイル・ウォーカーのような万能性があった。現在のラリーガだとちょっと思いつかない。
あと全員謎にシュートブロックが上手い。なんでだろう。もう一歩寄せている、という事だろうか。気合根性という事でいいのだろうか。

・爆速ネガトラ
戻りが速いというよりも全体でリスクヘッジが出来ていた印象。特に2014年。ただ、これは攻撃でデメリットが出るのでやはり大事なのはバランスだ。ネガトラでファーストプレスに行く選手の対人能力も高かったが、これも起用する選手の特徴が軸になるので何とも。気合根性だけで乗り越えられる差ではないようには見えた。2016年はロングボールを蹴らせたセカンドボールは明確にデザインして狙い所に設定していた。

・ワンサイド完結攻撃
サイドチェンジはラストサードに限る。可能性が低くてもシュートで終わる。という約束事は明確に見えた。2014年に至ってはCB間でのパスのやり取りもなく、サイドチェンジに限らず横パスを減らす意図を強く持っていた。そもそも技術に乏しく不器用、と言ってしまえばそこまで。CHにもFWにも360度タイプの選手がおらず、どこかを経由して逆サイド、という選択がそもそも取れなかった。
2016年は真ん中を経由する選択が割とできた。マドリーの守備の圧力が弱くて参考にならないがCHは自由にボールを持てていたのも大きい。あとはグリーズマンが真ん中に立っている事で、彼のところから左右を選択できた。あらためてチームを変えてしまう選手だった。凄い。

・大事な試合で結局負ける
2つとも負けた。見返してよかったと思った事がある。この2つの敗戦こそが、今のシメオネの闘争心の源泉なんだ。それを確認できた。またこの舞台で、欧州の頂点で、戦わなければならない。もちろん相手は白い巨人がいい。と思えた。おれのモチベになった。


■文脈
・今のチームと劇的な差はない

技術レベルで劣った2014年は別としても、2016年のチームは現在のチームの構築と大差ない。4-1-4-1だった後半に至っては今季6節ヘタフェ戦でやっていた事とだいたい同じ。
もっと4-4-2に固執するのかと思ったが後半頭から簡単にシステムごと変えた。相手に先んじてシステム変更しペースを強引に握りに行く発想も今と同じ。4-1-4-1になって以降のネガトラの人数バランスも別に今のチームと変わらないし、マドリー相手にやってるという事を考えたら今の感覚でも無謀なチャレンジでもあった。グリーズマンとカラスコの質を活かすために大外に置く配置は、今同じ事をやっても何も違和感がない。


以上のように、選手のリソースが違い特徴も違うため、やっているサッカーが違ったにすぎないと思った。やはりシメオネ本人が言っているように”今の選手にあった最適な配置を見つけなければ”というだけなのだろう。安心した。別に彼は変わっちまったわけじゃない。おれはそんな事思った事ないけど。

■ということで結論。
今はチームが上手くいかない時期だが、最適なバランスを見つける事。あとは気合根性。願わくばCBの質だが、4バックでサヴィッチとヒメネスがCBを組んだらどんな強度なのかは今一度確認させてもらいたいところ。

正直、せっかく120分×2試合を2周も見たのに、結論が何もアップデート出来なかった。思ったより真新しいものがなかったというか。このリソースだとそうなるでしょうね、という選択が多かった。もしかしたらおれが"シメオネならそうするだろうな"と思っている通りに選択されていたのかも、とか言ったら自惚れだろうか。なんの違和感もなかった。今週末アトレティコがあのサッカーしても別に普通。

けれど、少し頭の中が整理されました。やっぱり良いチームだったしね。あとどっちも良い試合だった。

でも、"そしたらシメオネの凄いところって本当はどこなんだろう"という疑問も。4-4-2の仕込みは凄かったけど、どちらかというとガビが凄い、コケとサウルが凄い、CBが凄い、SBが凄い、という。120分間戦える集団を作ったのは見事。でも、シメオネじゃなきゃ出せないこのチームの特徴って、どの部分だ?それはこれからも日々探していきたいな。また楽しみを見つけちゃった

現在のアトレティコは、別に変わった事をしなくていいし、過去の戦術に逆行する必要も全然ないと思う。アトレティコらしさを取り戻せ!という懐古厨には"ヘディングが強い右SH目掛けてロングボール蹴ればいいのかよ?"と答えられるだけの情報をおれの中に蓄積できた。それだけでも書いた価値はあるのかな。今のままで十分だよ。SH目掛けてロングボールを蹴れば終盤の失点は減るんですか???


真面目な言い方をすると、当時は"ネガトラを発生させない事"が主題だった。この2試合は相手がマドリーだから尚更。他の試合は知らん
後方配置をいじらないで、カウンターリスクを減らす。そのために蹴っていた。でもそれだと主体的にボールを持てない。だからビルドアップをする。だから後方配置をいじる。だからロスト時の配置が悪い。だから以前に比べてカウンターを食らう頻度が増えた。その解決策は?

という文脈がある。それに対しての回答が"昔は良かった"だと、保持を放棄する事になる。それは解決とは言わない。忘却。責任転嫁だ。
今シメオネがやっている事は、これまでのアトレティコとは違う文脈で、"ネガトラ対策を一から考えなければならない"という段階。
ここで一つ気づいた。それならば、「シメオネにネガトラ対策を構築するのは不可能だから解任すべき」という批判だったら受け付けよう。それならリプライ返します


もちろんタイトルを取れた方がいい、終盤の失点をしない方が絶対いい。でも、だからって今のチームの何かを劇的に変えよう、監督を変えよう、とは絶対にならないねおれは。気合と根性で解決してほしい。理由はCL決勝でもチームを支えていたのは気合と根性だったように見えるからだ。

おれ今の選手達好きだし。発展性のない批判をする気は全く起きないです。勝ってほしいなというだけ。それだけなのだ。その方法をいつも探していたいし、当たり前だけど選手も、シメオネも探している。当たり前。

皆、もがいてる。批判するのも諦めるのも自由。
でもおれは応援するね。その方が楽しいから。

代表ウィーク明け、新加入の両SBが新しい刺激になりますように。ヘイニウド・マンダヴァはたぶんフィリペ・ルイスではないと思うので、ヴァスにはファンフランになってもらいましょう。


じゃ、また次のレビューで

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?