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【対談企画】 第3弾 | ブルーエゴナク 穴迫信一×万能グローブガラパゴスダイナモス 椎木樹人

ブルーエゴナク
代表・演出・脚本家
穴迫 信一  Anasako Shinichi
2012年に福岡県北九州市でブルーエゴナクを旗揚げ。以降、全作品の作・演出を務める。地域を拠点に新たな演劇の創造と上演を趣旨として活動。リリックを組み込んだ戯曲と、発語や構成に渡り音楽的要素を用いた演出手法を元に、〈個人のささやかさ〉に焦点を当てながら世界の在り方を見いだそうとする作風が特徴。これまでに市場や都市モノレールでのレパートリー作品を製作するなど、地域との共同製作も多数。近年の作品に『sad』(2018)、豊岡演劇祭2020フリンジプログラムにて豊岡市竹野町に滞在し、現地の盆踊り振興会の伴奏のもと上演した『ザンザカと遊行』(2020)。音楽にOlive Oil氏を迎えたオーディオ作品『Coincide 同時に起こること』(2021)、音楽にCOMPUMA氏を迎えた『眺め』(2021)、音楽にテンテンコ氏を迎え、盛岡市での滞在制作によって制作された『クラブナイト〜蟹は夜、きみをたすけにくる〜』(2021)、岩手県宮古市にてBaobabの北尾亘氏との共同制作を行った『1万年前に1cmだけ小さかった山』(2022)などがある。2022年6月には第七劇場へ戯曲『oboro〈第二幕〉』を提供。ロームシアター京都×京都芸術センターU35創造支援プログラム“KIPPU”選出。TOKAS OPEN SITE 5選出。セゾン文化財団セゾン・フェローΙ。2022年度よりTHEATRE E9 KYOTOアソシエイトアーティスト。桐朋学園芸術短期大学非常勤講師。

「ブルーエゴナク」と「ガラパ」の関係性とは


友田:穴迫さん、今日はよろしくお願いします!

穴迫:穴迫信一です。北九州を拠点にブルーエゴナクという団体で劇作と演出をしてます。よろしくお願いします。
椎木:万能グローブガラパゴスダイナモスで主宰と俳優をやってます椎木です。よろしくお願いします。

友田:2人は同世代じゃないんですか
椎木:違うよ。だって穴迫が10代ときから知ってる。
友田:穴迫さんっておいくつですか?
穴迫:31歳です。
椎木:5個も違うね。
穴迫:ガラパの旗揚げって何年でしたっけ。
椎木:2005年だね。
穴迫:僕は2012年エゴナクを旗揚げしたので、年歳も劇団の年数も5年以上先輩ですね。

友田:2人のそれぞれの印象とか、今まで活動してきたことに対して思ってることをちょっと聞きたいです。

椎木:ブルーエゴナクを最初に観たのは、枝光アイアンシアターができたばっかりの頃に若手が集まってやる作品『ムニムニ』だったなー。

✅枝光本町商店街アイアンシアターとは
北九州市八幡東区枝光本町にある劇場。
演劇だけじゃなく、さまざまなイベントを行っている。

椎木:ムニムニめちゃくちゃ面白かった!照明が当たらない舞台のツラ(舞台前のこと)で芝居やるとか、歌を丸々一曲歌うとか、普通の演劇だとやらないことをやってて、この人面白いなと思ったよ。
穴迫:ありがとうございます(笑)
椎木:それから北九州芸術劇場とかにも出演するようになっていったよね。小倉のライブハウスとかでも劇やったりとかしてて、めっちゃ精力的に活動してる印象。
あ!なんかさ、真っ暗のなかで芝居してたよね?
穴迫:やりましたね。2012年に震災の影響で福岡も計画停電の可能性があるらしく、劇場がある地域も範囲になるとのことだったので計画停電の回だけ電気を全く使わないでやろうってなったんです。音響も電池駆動のラジカセにして、照明もお客さんにLEDの手持ちライトを渡して付けてもらって。
椎木:あれめっちゃ面白かった!実験的でとんがってて。最初はめっちゃ面白い俳優だなっと思ってたら、どんどん面白い演劇を作る人になっていったよね。今や北九州を代表すると言ってもいいだろうし、北九州の中でもかなり精力的に活動しているイメージ。

友田:穴迫さんにもガラパや椎木さんについてお聞きしていいですか。

穴迫:ガラパを観る前に椎木さんには出会ってるんですよ。お互い俳優として出会ったのが最初で、その時からすごい経験の差を感じました。僕が19歳くらいだったから、椎木さんもよく考えたら24歳とかだったけど、全然24歳には見えませんでした。
椎木:いや老けてるだけやん。
友田:老けてた(笑)
穴迫:いや、もう疲れてた感じです(笑)24歳ですでに、演劇の光も闇も吸収し尽くした感じでした。
椎木:本当かわからんけど、北九州芸術劇場のオーディションシリーズで今まで最年少出演が俺だったけど、それを穴迫が抜いたんよね。俺が20歳で出演して穴迫が19歳で出演したんだっけ。
穴迫:たしかそうでしたね。全然いろんなことが分かってない状態だったけど。
椎木:19歳だったからね。
穴迫:劇場のことも分かってない時に椎木さんには色々教えてもらいました。それでいて友達みたいにフランクに接してくれたんです。それが有り難くて、一緒の現場の時は「椎木さんいないかな」ってずっと探してましたね(笑)
椎木:(笑)
穴迫:椎木さんと居ると楽だったんですよ。先輩の演劇人でもあるけど頼りになる兄ちゃんって感じもして。初めてご一緒したのは「ハイバイ」の岩井さんの現場だったんですけど、楽しかったですね。
椎木:岩井さんの現場は楽しかったね。

✅ハイバイとは
2003年に主宰の岩井秀人を中心に結成した劇団。向田邦子賞や岸田國士戯曲賞なども受賞。

穴迫:その後、ガラパの作品も拝見しました。最初に見たのは『すごくいいバカンス』という作品で、イムズホールでの上演でしたね。
椎木:おお!ありがとう!
穴迫:すでに僕の活動とは規模が全然違うところにいたんですよ。当時、自分たちがこれから5年とか10年かけてイムズホールでやれるかって言われたら全然想像もつかないなと思ったことを覚えてます。九州では一番お客さんを集めている劇団だったから憧れもありました。そして作品もだけど俳優さんがとにかく魅力的だった。やっぱり劇団が魅力的だから、そういう方々が集まってくるんだなあと羨ましく思っていました。
椎木:ガラパの俳優に穴迫が魅力を感じてくれて、エゴナクにも客演として呼んでくれるのが嬉しかったよ!

地方で演劇をする強みは「チーム力」


椎木:ブルーエゴナクは各地で活動してるイメージがあるけど、劇作へのこだわりとかはある?
穴迫:劇団ということにはこだわりたいですね。チーム力で戦っていくのが大事だと思っています。例えば、東京には自分よりも知識も経験値も教養もセンスもあるような俳優・作家・演出家の方が沢山いらっしゃって。そこにどうやって勝つかって考えると、個の力より集団やチームでしっかりしたものを作ることかなって。それが地方で活動する意味合いのひとつだと思っています。
椎木:たしかにうちも劇団で作るというのにはこだわっているし、東京でそれをぶつけに行ってるから共感できる!
穴迫:僕もガラパのチームで作品を作り続けているところをリスペクトしています。これからもチーム力で作品のクオリティを上げていきたい。
椎木:ありがとう。俺らも紆余曲折あったけど、これからも劇団にこだわる感じは変わらないかもしれんね。

ブルーエゴナク『クラブナイト〜蟹は夜、きみをたすけにくる〜』(2021)撮影:岩原俊一


演劇ファンじゃない人にこそガラパを見てほしい


友田:福岡と北九州での今の演劇事情について聞きたいですね!

椎木:福岡で小劇場と呼ばれる劇を見る人ってすごい少ないなと思うね。人口が結構いるのに、その割合がすごい少ないなと思ってて。
穴迫:わかります。
椎木:だからこそ、そういう人たちに劇を見てほしい!演劇とか見たことない人・苦手な人・偏見がある人・一度も触れたことがない人たちに、演劇を知ってほしいし、面白いと思ってほしいっていうのはガラパを始めた頃から変わってないんだよね。

友田:うんうん…。

椎木:だからこそ、ツアーを組んで他の地方に作品を持ってって、少しでも自分たちの現在地や自分たちの現状を客観的に見れたり、新たな刺激をもらえたりできたらいいなと思う。
穴迫:福岡で東京まで進出しているのって、ガラパだけ?
椎木:そうなんだよ。もっと外に出ていく劇団が出てきてもいいと思うんだけどね。
穴迫:ガラパのこの先の目標が気になります。
椎木:ガラパという劇団が、福岡という都市を面白くしている状態や福岡の魅力のひとつになっていくことだね。
福岡を盛り上げるコンテンツとしてのポジションのひとつをガラパが担って、ガラパを目的に福岡に人が来てくれるような存在になるのが目標。

福岡演劇界は「批評」が少ない


友田:穴迫さんは北九州の演劇事情についてどう思っていますか?
穴迫:自分たちも含めてもっと作品のクオリティが全国に通用するくらい高まると良いかなと思います。北九州市は福岡市と反対で人口が減少しているし高齢化も進んでいるので、演劇を北九州で広めるだけでは次の展開がなかなか見えて来ない。
椎木:だから全国に目を向けるべきってことか。
穴迫:そうですね。北九州芸術劇場をはじめ、色んな現場からいただいた今までの恩恵を北九州に還元しつつ、同時に全国に通用するクオリティ、純粋な作品の面白さや強度を担保しながら外に発信していければ広がりも出て来るかなと思っています。
椎木:たしかにそうだね。
穴迫:それにはやはり批評がもっとあってもいいと思うんです。北九州市や福岡市といった規模ではなくて、全国と比べてどうなのかっていう視点があればいいかなと。
椎木:作品をけなすとか悪意をぶつけるんじゃくて、ちゃんと”批評”するのが大事だね。
穴迫:そうですね!作家自身すら無自覚な作家性について言語化してもらえるとか、批評の中には作品のクオリティをあげるヒントが沢山あると思います。ここが気になるとかここがこの作品の面白さだよってちゃんと指摘してもらえる経験も地方にいるとなかなかないですもんね。
椎木:やっぱ見て思うことはあるし、伝えあってもっと切磋琢磨した方がいいと思うよね。互いの作品を「今回こうだったよね」って言えて、関係としても成立させられる状況になっていけばいいですね。

ブルーエゴナク『眺め』(2021)撮影:岩原俊一

地方劇団だから東京の演劇も俯瞰して見れる


椎木:穴迫は活動の範囲を広げてるけど、それでも北九州の劇団って言い続けるのはなんで?
穴迫:一つは、今から東京に拠点を移しても持っていけるものがそんなに多くはないと思っているんです。一から環境を作ることになるというか。
椎木:そうなの!?意外だ。
穴迫:あと、しがらみを避けているということもあるかもしれません。
椎木:どういうこと?
穴迫:仮に東京で続けていって評価されていったとしても、東京の演劇の文脈の中に制限されてしまうというか、相対化されてしまうというか。
椎木:ああなるほど。福岡も東京も規模は違うけど同じような事情があるよね。
穴迫:そこを打ち破る力があればいいんですけど、どちらかというと力を分散して色んな地点から演劇の文脈を見ることに豊かさを感じているというか。戦線からやや離れてやれているのが、自分のペースとしても合っているというか。
椎木:だから北九州の劇団、地方劇団っていう感じなんだ。
穴迫:そういう意味で、東京も俯瞰できる距離くらいの方がいいのかなって思っています。
椎木:とはいえ東京を意識するときはないの?
穴迫:あります(笑)実際に東京で創作したときも、技術も感性も磨き抜かれた魅力的な俳優やテクニカルの方と沢山出会って。そういう環境で創作する面白さはありますね。ただ、地域から全国に通用する作品や活動を考えるのも魅力的だなと思いますね。
椎木:なるほどなー。ガラパも東京とかにいくけど、結局は福岡に持ち帰るようにしているから考え方は同じなのかもね。

東京の演劇人が感じる「福岡の演劇」とは


穴迫:ガラパは東京でもよく公演されていますが、福岡と比べてどんな印象なんですか?
椎木:実は東京の方がガツっと芝居をやれるというのは逆にあるんだよね。
穴迫:アウェーだからこそ。
椎木:そう。きっかけは「福岡の演劇」がなんとなく分かったからかな。東京に行くと「作風に福岡っぽさを感じるところはどこか」って取材で聞かれるし、自分たちも考えるんだよね。ガラパはずっと標準語で劇作ってきたし、ずっとコメディだからなおさら。よく分からずに「東京の人と違うことやってることもない」ってずっと答えてたね。
穴迫:たしかに福岡色強めかって言ったら、そんなこともないですね。
椎木:でもあるとき、東京のお客さんから「雰囲気や劇団と作品に出てくるノリが、すごい福岡っぽい九州っぽい。このグルーブ感は東京にはないと思うよ」って言ってもらったことがあったんだよ。
穴迫:グルーブ感ですか、なるほど。
椎木:そのときに初めて、俺たちって福岡でやってる雰囲気あるんやと思えたんだよ。福岡の劇団っていう色やノリ、笑いの取り方みたいなのに、福岡のグルーブ感があるんだっていうのを逆に東京で教えてもらったよ。もちろん、面白くないとかこういうところが足りないとか言われることもたくさんあるけど、気づきを与えてくれて武器を明確にしてくれるのは、やっぱり批評のおかげだなと思う。

作品は役者の「声」から作ってる!?


友田:次に、表現者として今興味があるものや、どういう創作をしたいかなどお聞きしたいです。
椎木:あ!それめちゃくちゃ穴迫に聞いてみたい!興味があることや、演劇を作るとか表現するときに言語化できるものは何かある?
穴迫:ひとつは、これまでは演出にアイデンティティを持っていましたが、今は劇作にやや重心を置いています。形に残るものとしての戯曲の価値を考えるようになったからだと思います。
椎木:自分の作品をもっと形として残したいってこと?
穴迫:というより、自分の生きている時間を越えた”その先の時間”を考えるようになってから、そこに何かを残すことや届けることに興味が出て来て。戯曲なら出来るかもと。
椎木:なるほど。戯曲を書くときは、俳優や人に対して興味を持って書くの?それとも言葉?
穴迫:俳優を意識して書いていますね。特に「声」は意識したり想像したりしていますね。
椎木:声!?
穴迫:例えば声から台詞や役のイメージが出来上がっていくこともあります。
椎木:当て書きとはちょっと違う?
穴迫:どうでしょう。大枠のストーリーやプロットなどは決めた段階からなので半々くらいかと思います。役と俳優にある程度の距離があるからこそ、そこを埋めていくという作業が発生する。そしてそれは俳優に必要な技術だと思うので、当て書きばかりだともったいない気もしています。
椎木:なるほどね。たしかに。

ブルーエゴナク『ブレックファスト・マボロシ・クラブ』(2021)撮影:岩原俊一

フィクションだから伝えられることがあるのも演劇の良さ


椎木:戯曲のテーマはどうやって決めているの?
穴迫:直近の何作品かは、表面上は少し違うように見えても、通底したテーマを意識しています。自分の中の感覚や表現したいものが変わらないうちは無理に変える必要もないかなと。あと最近は、フィクション性をもっと高めたいと思っています。
椎木:日常をベースにするのではなく、フィクションにこだわる理由は何かあるの?
穴迫:今ってコロナや戦争も含めて現実のフィクション感が強すぎて。日常が非現実的なものなのに日常っぽいことを舞台上でやっても成立しにくいのかなって。これは直感でもありますが、現実的なものじゃ描ききれない、フィクションにしか託せない切実さがある気がしています。
椎木:俺も現実が壊れている気はしてる。だからこそ、劇場の中ではそうじゃない雰囲気や空気を感じられるようにしたいなと思っている。明るい芝居だけじゃなくて暗い芝居でもいいし、苦しんでいる心のよりどころとして表現や芸術があるといいなって思っているよ。

北九州芸術劇場で再演する『甘い手』はフルスペックで挑む!


友田:それでは最後に、次回公演の『甘い手』について聞かせてください。

椎木:2年前にやった作品で、ガラパ初の全編博多弁の学園コメディです。実は、2年前の公演はテクニカルな部分で力を出しきれていないところがあったので、北九州芸術劇場でやっとフルスペックの『甘い手』をお見せできます!
北九州芸術劇場は、いつもお願いしている照明さんと音響さんのホームでもある劇場なので、2年前よりもレベルアップしてるから楽しみにしていてほしいな。
穴迫:『甘い手』はどうやって作ったんですか?
椎木:ほぼエチュードで作ったね。

✅エチュードとは
設定や人物の役割のみで行う台本なしの即興劇。稽古などでよく使われる。

穴迫:どういう経緯でエチュードで作ることになったんですか?
椎木:今のガラパで作れる面白いと思う作品を作ろうと思ったのがきっかけかな。昔のガラパと今のガラパは人も違うし雰囲気も違うから、昔のガラパに寄せる必要はないなって思ったんだよね。

友田:遊ぶように作りましたよね。

椎木:そうね!漫画みたいな感じだしね!ひねりも一切なしにして、シーンごとのエチュードで生まれた小さな作品を組み合わせて作っていったよ。
椎木:穴迫は初演見てないんだよね?
穴迫:はい。劇団ヒロシ軍の宏志(劇団ヒロシ軍代表)が客演していると知って、ガラパとどう影響し合っているかが気になりますね!
椎木:めちゃくちゃ面白いから!期待してて!コメディをもう一回全力でやろうと思って作ったから、やれてよかったね。
穴迫:若い世代の方と一緒に遊ぶように作品を作れるっていいですね!
椎木:これまでは先輩としても役者としてもいろいろ言ってきたことはあるけど、今回は自分が面白いと思うことをそれぞれがやれてるから個性が爆発した良い作品になったと思う!
穴迫:僕もすごく楽しみです!本番まで頑張ってください!
椎木:ありがとう!

友田:穴迫さん、本日はありがとうございました!






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