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松田 法子「人と大地の相互益(シンビオシス)—―生環境構築史の立場から」

松田 法子(まつだ・のりこ)——京都府立大学准教授。
建築史・都市史。人が大地に棲み着き、住み継ぐふるまいについて考える。水と陸地が交わる領域「汀」(みぎわ)の人文史や、ヒトによる生存環境構築の長期的歴史とそのモードを探る生環境構築史などをテーマに活動。

◉太古の火山に住む

 先日、初めて島根県の隠岐諸島に行った。中ノ島の海士町で、生環境構築史をテーマにしたフォーラムをひらいていただいたからである(「生環境構築史」が何かは後で紹介する)。
 中ノ島は、西ノ島・知夫里島と三島一体で、島前どうぜんという島を形作る。この三島は、火山が陥没してできたカルデラの外輪山。海上に頭を出している部分の山の直径は、東西約十八キロメートル。京都で言うと、東の比叡山と西の愛宕山の間の距離とほぼ同じ。京都のまちが、すっぽり内側に収まる大きさだ。
 北条義時に挙兵して敗れた後鳥羽上皇が約八〇〇年前にこの地へ流されてから、隠岐は流刑地としての長い歴史を持ち合わせることになった。本州から海で隔てられていること、脱出が容易ではないこと(後鳥羽上皇の111年後に隠岐へ流された後醍醐天皇は、脱け出して南朝をつくるに至ったが)など、遠流の地、遠島としての遠さと隔絶性とはしかし、あくまで京都という“中心”からみた時の大地的条件による。
 海水面が今より約一二〇メートルほども低かった約二万年前の最終氷期、隠岐諸島と本州は地続きだった。黒曜石製の石器は、一万六千年ほど前に終わる旧石器時代から約二三〇〇年前に始まる弥生時代にかけて作られたが、隠岐の良質な黒曜石でできた石器は新潟でも見つかるという。

―『學鐙』2023年秋号 特集「共に在る、共に生きる」より―

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