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北里大学|ざっくり“たとえ”でわかる物理学講座!

定理、公式、方程式……。「物理学」と聞くと耳を塞ぎたくなる人、意外と多いのでは? そんな皆さんに朗報です。理学部物理学科の渡辺豪先生が、学生とともに、物理学をざっくり“たとえて”教えてくれました。それって、一体どんな内容?

渡辺豪 先生/北里大学 理学部 物理学科(TOP写真左から2番目)
橋本采佳 さん/北里大学 理学研究科 修士課程 2年(TOP写真一番右)
原英寿 さん/北里大学 理学部 物理学科 4年(TOP写真右から2番目)
聞き手:竹村友希 さん/北里大学 入学センター(TOP写真一番左)

難しい物理の話は、たとえて理解するのが近道!?

── 先生、今日はよろしくお願いします。でも、難しい物理学をざっくり何かにたとえるなんて、本当にできるんでしょうか……? 

渡辺 実はふだんから授業や研究室でもいろいろなことをたとえて説明しているんですよ。実験も料理にたとえるとわかりやすいですし。まずはイメージをつかむのが大事、そうだよね?

橋本 たしかに先生は説明するときによくそういう話をしていますね。そういえば原くんも、さっきノートに「運動量とは愛の強さ」って書いていたけど、あれはどういう意味なの?(笑)

 恋愛って、好きな異性の周りをグルグル回るようなものだよね。だからその愛の強さは、運動量の公式、つまり質量×速さで表現できるんだ!……って言ってたんだよ、友だちが。

渡辺 さっそくいいたとえが出てきたねぇ。そもそも人間には質量があるから、万有引力の法則に従って、必ず引かれ合うわけだ。

橋本 それわかります! 私が物理学科に入ったのって、万有引力の法則に感動したからなんですよ。

渡辺 もっといえば、あらゆる物質は電気を帯びていて、プラスの電気とマイナスの電気は引き合い、プラス同士、マイナス同士は反発し合う。これは男女関係に似ているよね。

 異性同士だと恋愛関係になりやすいっていうことか。それって「クーロンの法則」ですよね。

── なるほど、恋愛も物理法則に従うと……。でも、人間には同性同士の恋愛もありますよね?

渡辺 物理現象として、同じ符号同士が引き合う場合がないわけじゃないですよ。レアなケース(*)ですけど、そういう点でも物理現象と実際の恋愛関係は似ている気がしますね。

たとえば負の誘電率を持つ電子ガス中においては、正、負を問わず同符号の電荷同士に引力が働く。

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/ EXAMPLE 1 /
「運動量の公式」は、“愛の強さ”の表し方
ある物体の運動の激しさを運動量といい、その公式は「p=mv」と表現されます(pは運動量、mは質量、vは速度)。つまり運動量の大きさは、質量と速度を掛けることで求められるというのが「運動量の公式」。これを恋愛に置き換えると、質量はいわば「真剣さ」で、速度はいわば「行動力」。好きな相手への思いが強ければ強いほど、具体的な行動に移せば移すほど情熱的……。でも、愛が強ければ恋が成就するとは限らない、かも。

物理学をたとえようとしたら、なぜか恋愛トークに……

── 恋愛話が多くなってきましたね。やっぱり理系の人は恋愛も理詰めだったりするんですか?

渡辺 まさか。恋愛は科学でやっちゃダメです。理性ではなく感情でやるから面白いのであってね。

橋本 先生ってけっこう情熱的!でも、恋愛って「○○の法則」とか物理っぽい言い方で語られがちですよね。たとえば「カエル化現象」とか。夢中になっていた相手が、両思いになった途端にカエルみたいに見えて冷めるっていうあるあるなんだけど。原くん、経験ある?

渡辺 これは仮にそういう経験談があったとしても、イエスとは言いづらい質問だね……。

 じゃあノーコメント! 橋本さんは、恋の駆け引きみたいな物理法則って思いつく? 僕が言った「運動量は愛の強さ」みたいな。

橋本 私は「作用・反作用」の法則かな。押すと、押し返されるっていうやつ。恋愛っぽくない?

 「好き好き!」って相手に前のめりで向かうと、その強さのぶんだけ相手から押し返されるっていうことかな。経験談なの?(笑)

渡辺 それなら、もっと適切なのは「ファンデルワールス力」かな。ふたつの分子が離れると引力が、近づくと斥力(せきりょく)が働く現象だね。そもそも原子には大きさがあるから、どれだけ近づいても完全にはくっつかないし。

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/ EXAMPLE 2 /
「ファンデルワールス力」は、ツンデレ的な“恋の駆け引き”
分子と分子が結びついたり離れたりするのは、分子間相互作用が働くため。その作用を及ぼす力のひとつが「ファンデルワールス力」。分子同士の距離によって、引力として働くこともあれば、斥力として働くこともあるという現象です。同じように、たとえ恋人同士であっても、離れていれば会いたくなってデレデレするし、ずっと一緒にいればひとりになりたくてツンツンするもの。その押したり引いたりの駆け引きこそが、恋愛の醍醐味?

── 親しい関係でも距離を保ちたくなるようなものですね。身に覚えがある人、多そうです。 

渡辺 あと、これもあるあるだけど、ふと気づくとなぜか一緒にいる、腐れ縁ってあるでしょう?

橋本 そういう関係の友だち、たしかにいます! そして恋愛でもありそうなパターン……。

渡辺 腐れ縁的な関係を物理学でいえば「慣性の法則」が当てはまるよね。知ってるでしょ?

 外力を加えなければ、動いてる物体は動き続けるっていう。先生、まさかそれも経験談?(笑)

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/ EXAMPLE 3 /
「慣性の法則」は、同じ関係を続ける“腐れ縁”
「慣性の法則」とは、物体に外部から力が働かないとき、静止している物体はそのまま静止し続け、運動している物体はそのまま等速度運動を続けるという物理現象。これは人間関係でいえば、ダラダラと同じ関係を続ける腐れ縁のようなもの。きっかけがなければふたりの関係は変わらない、逆にいえば、ふとしたことがきっかけとなって関係が変化することも。何気ない一言が互いの関係を意識させて、急展開が起こるかも!?

人間も世の中も、すべてが物理法則に従っている!

── いろいろなたとえが出てきて面白いです。これなら、物理が苦手な人も興味を持てるかも!

渡辺 本当は逆なんですけどね。人間自体が原子や分子でできているんだから、人間関係だって物理現象の結果だといえると思うんですよ。

橋本 万有引力なんてまさにそうですね。だって、すべてのものに引き合う力があるんですから!

 そういえばこれも友だちから聞いたんだけど、時間が経つと整った状態が乱雑になるっていう「エントロピーの法則」があるでしょ?

橋本 コーヒーにクリームを入れると、だんだん混ざって濁っていくっていうアレね。

 その法則に従えば、家全体がきれいなら自分の部屋が汚くても勝手にきれいになる、だから掃除しなくていいなんて言ってたよ。物理学はいろいろなことを説明できていいと思ったな。

渡辺 そのたとえはなかなかの屁理屈だけど、物理学で世界の仕組みを説明することができるし、突き詰めれば哲学的な面もあるからね。サイエンスの根幹でもあって、この世のあらゆるものに使われている。私も役立つものをつくり出したいと思って研究しているよ。

── 先生は、さまざまな柔らかい物質の動きを分子レベルでシミュレーションしていますよね。この研究内容をたとえると……

渡辺 そのたとえにはとんでもなく時間がかかりますね。続きは研究室でやりましょうか(笑)。

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illustration / Yutaka Nakane
記事の内容は、2021年02月取材時のものです。