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内申点”5”が出ない学校?通知表の「評定」の基準と公平性【学校教育】

 「あの先生は5をつけない」「あの学校は5を簡単に出すから有利だ」、こういった話が生徒間で広がる中学校もあるでしょう。
 そんなことを話していると、中には「そんな数字は社会では意味ない」「そんなものに振り回されるな」と言う人もいます。その主張もわかるのですが、一方で学校では数字をある程度気にかけることを求められており、実際進路に影響してきます。なので「気にせざるを得ない」状況と言えます。
 学校での「評価」と言えば「内申点」「通知表」というくらい影響力の大きな数値、しかしこの数値がどんなものか丁寧に説明されることはあまりありません。正体はよくわからないけど上げないといけないというプレッシャーだけがかかり、評価者である教員への疑心暗鬼を生んでしまいます。
 数値の意味を理解することは、不要に振り回され過ぎない助けになると思います。


1.調査書の「評定」 ~「内申点」は俗語~

 実は「内申点」という語は公的な言葉ではありません。
 内申点とは「内申書」に書かれる成績ですが、「内申書」は公的には「調査書」と言います。調査書とは、「入学者選抜の資料として、志願者の学業成績・性格・出欠状況などを記入して出身校の校長から入学志望校の校長へ提出する書類」です。
 内申点に当たる公式用語は統一されていないのですが、例えば東京都は各教科の評定数値に特定の倍率をかけて入試に用いる点数を「調査書点」という表現をしています。
 まあ、内申点および内申書は公式用語ではありませんが、広く使われている語であることは文部科学省も認識しており、資料によっては「調査書(内申書)」という表現も見られます。学校でも普通に使われている言葉でしょう。

 また、成績を伝える「通知表」ですが、実は学校に作成義務はありません。作成義務があるのは成績証明の原簿となる「指導要録」という書類です。(学校教育法施行規則第24条)成績に関しては卒業後5年間の保管義務があります(同第28条)。成績を子どもと保護者に伝える義務は実はないのですが、進路選択にも支障がでますし、実際にはほとんどの学校が「通知表」という形で成績を伝えます。
 そして、指導要録において「各教科・科目の学習の状況を総括的に評価」した数値を「評定」といいます。基本的には、この「評定」が調査書(内申書)にも通知表にも書かれることとなります。

2.なぜ学校ごとに差異が出るか ~基準と公平性~

 学校での評価は目標に基づきます。評定は、主に学習指導要領(国が定めた教育目標)をどの程度達成したか「目標に準拠した評価」であるとされます。学年と教科ごとに決まっており、例えば中学校1年生国語であれば、以下の感じで書かれています。

〔第1学年〕
1 目 標 
⑴ 社会生活に必要な国語の知識や技能を身に付けるとともに,我が国の言語文化に親しんだり理解したりすることができるようにする。
⑵ 筋道立てて考える力や豊かに感じたり想像したりする力を養い,日常生活における人との関わりの中で伝え合う力を高め,自分の思いや考えを確かなものにすることができるようにする。
⑶ 言葉がもつ価値に気付くとともに,進んで読書をし,我が国の言語文化を大切にして,思いや考えを伝え合おうとする態度を養う。
2 内 容
〔知識及び技能〕
⑴ 言葉の特徴や使い方に関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。 
ア 音声の働きや仕組みについて,理解を深めること。
イ 小学校学習指導要領第2章第1節国語の学年別漢字配当表(以下「学年別漢字配当表」という。)に示されている漢字に加え,その他の常用漢字のうち 300 字程度から 400 字程度までの漢字を読むこと。また,学年別漢字配当表の漢字のうち 900 字程度の漢字を書き,文や文章の中で使うこと。
ウ… <以下つづく>

出典:文部科学省『中学校学習指導要領(平成 29 年告示)』

 しかし、何を評価するかの方針はあっても、評定の数字をどのように決めるかは厳密には決まっていません。どのくらいの達成度なら5か、どのくらいなら1か基準は各学校・各教員の判断になります。文部科学省の通知(2019年)では、以下のように記されています。

 各教科の評定は,学習指導要領に示す各教科の目標に照らして,その実現状況を,
「十分満足できるもののうち,特に程度が高い」状況と判断されるもの:5
「十分満足できる」状況と判断されるもの:4
「おおむね満足できる」状況と判断されるもの:3
「努力を要する」状況と判断されるもの:2
「一層努力を要する」状況と判断されるもの:1
のように区別して評価を記入する。

出典:文部科学省「【別紙2】中学校及び特別支援学校中学部の指導要録に記載する事項等」2019

 「特に程度」とは?「十分」「おおむね」「努力を要する」「一層」とはどれくらいか?というのは明確ではなく匙加減次第ということになります。

3.全て「A」なら評定「5」とは限らない?

 また、評定の前には「知識・技能」「思考・判断・表現」など個別項目のABC評価「観点別学習状況の評価」があります。実は、これも決してAが揃えば5になる、といったものではありません。先ほどと同じ文章では、以下のように記されています。

 評定は各教科の学習の状況を総括的に評価するものであり,「観点別学習状況」において掲げられた観点は,分析的な評価を行うものとして,各教科の評定を行う場合において基本的な要素となるものであることに十分留意する。その際,評定の適切な決定方法等については,各学校において定める。

出典:同上

 つまり評定も段階別評価もその加減は「各学校で定める」のです。なお、観点別評価は新学習指導要領(小学校2020年度、中学校2021年度から)より「知識・理解」「技能」「思考・判断・表現」「関心・意欲・態度」の4観点から「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に順次改められます。評価の仕方は不変ではなく、時代で変わるということです。
  なお、十分満足できる状況:A、おおむね満足できる状況:B、努力を要する状況:Cとされています。(出典:国立教育政策研究所『学習評価の在り方ハンドブック』2019年)

 各学校で決めて大丈夫なのか、公平になるのかと思われる人も多いでしょう。例えば、東京都教育委員会は学校間で著しい偏りがないか、どのくらいの割合で5から1の評定を付けたか毎年調査して公表しています。
 これを見ると、例えば評定5については、おおむね1割強の生徒に与えられますが(令和4年度は9教科全体で12.8%)、学校・教科によっては全く与えられない場合や3割の生徒に与えられる場合も中にはあります。もちろん、現実として多くの教員が見ても5に値する生徒がほぼいなかったということはあり得るので、割合の偏りだけで不適切な評価か判断はできません。ただ、制度上教員によっての高評価の取りやすさ・取りにくさが生じる可能性はどうしてもあります。
 
 実際に自分が不適切な評定を受けたと思ったら、教員に指摘してみることを推奨します。そうすると、単なるミスだったということも意外とあります。私自身、高校時代、学年末に通知表をもらった際「これは低くないか?」と思ったことがあり担任に尋ねてみると、担任が通知表に違う番号の人の評定を書いていただけで、すぐ訂正してもらえたということがありました。
 残念ながら、尋ねられたとしても、全ての教員が理由を誠実に説明するわけではありません。しかし、適切な評価をつけているのであれば、堂々と疑問を持つ生徒に説明した方が、納得して評定を受け入れてその後の学習に活かすことができるでしょう。

【参考文献】

◆溝上慎一「(理論)アクティブラーニングと評価について v2」2020年7月8日溝上慎一HP:http://smizok.net/education/subpages/a00038(AL%20assessment).html
◆文部科学省初等中等教育局教育課程課「新学習指導要領の全面実施と学習評価の改善について」2021年10月
◆東京都教育委員会「令和3年度東京都立高等学校募集案内」2020年
◆東京都教育委員会「都内公立中学校第3学年及び義務教育学校第9学年(令和2年12月31日現在)の評定状況の調査結果について」2021年3月25日
◆東京都教育委員会「都内公立中学校第3学年及び義務教育学校第9学年(令和3年12月31日現在)の評定状況の調査結果について」2022年03月24日
◆文部科学省「高等学校における学習評価に関する参考資料」(2016年6月15日高等学校部会)
◆文部科学省『中学校学習指導要領(平成 29 年告示)】2017年
◆文部科学省「【別紙2】中学校及び特別支援学校中学部の指導要録に記載する事項等」『小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知)』2019年
◆国立教育政策研究所『学習評価の在り方ハンドブック』2019年

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