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名前も変わった成人式の歴史・意味 ~出ても出なくてもいい~

 対象年齢で出ない方は「大丈夫かな」と思うかもしれませんが、結論から言うと出るも良し、出ないも良しです。
 現代、成人式の出席率は大体6割。公表している自治体を見ると大体5割~7割に収まります(文献①)。2019年20-50代対象のインターネット調査でも参加率は63.0%でした(文献②)。
 昔はどうか。1966年の調査では、参加率は66.3%でした(文献③)。半世紀前から参加率は大体6割なのです。

 20才を祝う行事として定着している「成人式」、2022年に民法が改正され「成年」が20才から18才となったことで、各地で様々な名称となりました。「二十歳のつどい」「二十歳を祝う会」などが多く、「成人式」を維持する所も少なからずありました。(今回はこれら全てを成人式と呼びます)対象年齢はほとんどの自治体が20歳を維持しています。
 成人式に意味はあるのか、実は成人式が広まった当初からずっと言われ続けています。成人式は戦後すぐ始まり、形骸化以前に当初から曖昧なものとして続いてきたのです。今回は成人式の意味と歴史を見ていきます。


1.「通過儀礼」が消失した近代社会

 近代以前の社会では、各地域で大人になるための儀式(通過儀礼)がありました。大きな石を持ちあげるなど、各地域ごとに独自の形で一人前であるか試され、達成しなければ認められませんでした(文献④)。通過儀礼を経て成人になると、神事に参加することが許される、若者組など地域組織に加入するなど「地域の大人の仲間入り」が明確に表示されました(文献⑤)。
 しかし近代社会では、成人となり得られるのは法律上の権利義務です(文献⑤)。成人になっても共同体(周りの人)に広く存在が認められ、役割・社会的地位(仕事等)を得られるわけではありません。現代、成人になったことを近所の人みんなが知っているというのは極稀でしょう。
 成人の意味自体が薄れた上に、年齢が達すれば自動的に成人となります。式典出席の有無や「成人の日」の存在は何ら関係ありません。成人式はせいぜい「新成人に対する激励や期待の言葉が表明される」場(文献⑥)です。
 通過儀礼が消失したことは、価値観・生き方・人間関係の強制が無くなりよかったとも言えますし、形式的に周囲からの承認が得られる仕組みが消えて人間関係を自力で構築する必要が出て大変になったとも言えます。良し悪しはともかく、昔と今では成人の社会的な意味が違うのは確かです。

2.明治時代 法律による成人=20才認識の広がり

 近代以前、大人になったかは地域が認めるもので、その年齢はまちまちでした。しかし、近代国家が成立すると国が法律で区分するようになります。日本では1873年(明治6)徴兵令で満20才が対象とされた後、1876年の太政官布告で成人年齢「丁年」が20才と定められ、1896年民法第三条で「満二十年ヲ以テ成年トス」と定められました。
 徴兵制度は20才を大人と見る認識を広めたとされます。全国の自治体史754事例を調査した室井(2018)では、明治~戦前の成人・一人前の年齢は15歳頃が多いが、半数の地区が徴兵検査を基準にし、それ以前の成人認識を駆逐して広まっていたと考察しています(文献⑦)。

3.戦後 祝日「成人の日」と式典の成立

 現在の全国的な成人式は1949年(昭和24)に始まりました。1930年代から「成年式」が行われた地域もあったようですが、直接全国で成人式を行う契機になったのは、1946年に行われた埼玉県旧蕨町の「成年祭」とされます。翌47年の全国町村長大会でこの成年祭が紹介され、町での発案者が「国民の祝日に関する法律」審議に呼ばれました(文献④)。
 翌48年、国民の祝日に関する法律により「成人の日」が定められました。法律では「おとなになったことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」日とされ、各地で式典を行うとした都道府県教育委員会への通達でも「地方の慣習を尊重して成人としての自覚を持ちうる適当な年齢層と対象として計画を実施すること」(文献⑧)とし、必ずしも20才限定とはしていませんでした。各自治体は戸惑いながらも成人式を行うようになりました。
 56年の通達(文献⑨)では対象が全国的におおむね20才になっていることが示されました。また、20才に達する前の「青少年もともに参加させることが望ましい」とし、教育的な行事にする方針が出されていたが、広がりませんでした。66年の通知(文献③)では、成人の日への一般への関心は薄いとしながらも、成人式を実施する自治体は96.6%、対象者の参加率は66.3%であることが記されています。成人式は全国的な行事として定着しました。

4.当初は晴れ着制限

 今では着物を中心に着飾る参加者の多い成人式ですが、当初は全ての新成人を対象とする行事として用意できない人が参加しにくくなることを避けるため、晴れ着の自粛が呼びかけられていました(文献④)。先述66年の通知でも服装が過度に華美にならないことが示され、1980年頃まで「”衣装比べ”になってしまった」などと着飾ることに否定的な見解も少なくありませんでした。
 しかし、1960年代の高度経済成長で経済力のある家庭も増え、成人式における振袖など晴れ着が広まっていきました。

 成人年齢が変化し現在は、20才になった人を祝い励ます行事となっている「成人式」。当初からそれ以上でも以下でもありません。同窓会的に使うもよし、晴れ着の舞台にするもよし、もちろん行かないもよし、緩やかに捉えてよいでしょう。

横浜市では、二十歳を迎えた市民を祝い励ますとともに、成人としての社会的責任を改めて自覚し、横浜への愛着を深めてもらうことを目的として「二十歳の市民を祝うつどい」を開催します。

出典:横浜市HP

【参考文献】

①きものと宝飾社「平成30年成人式参加率全国平均推定値」2018年https://status-marketing.com/20180328-2876.html (参照 2023年1月8日).
②ゼネラルリサーチ「成人式に関するアンケート調査」2019年:https://general-research.co.jp/2019/02/20/report06/ (参照 2023年1月8日).
③文部省社会局長通知「『成人の日』の行事等について」1966年
④田中治彦『成人式とは何か』岩波書店、2020年
⑤石井研士「現代日本における儀礼文化の持続と変容の理解に向けて」『明治聖徳記念学会紀要』37、pp. 1–14、2003年
⑥及川祥平「『人生儀礼』考 : 現代世相への対応に向けて」『成城文藝』254、pp. 1–25、2020年
⑦室井康成「現代民俗の形成と批判:『成人式』 問題をめぐる一考察」『専修人間科学論集. 社会学篇』8、pp. 65–105、2018年
⑧文部次官通達「『成人の日』の行事について」1949年
⑨文部次官通達「『成人の日』の行事について」1956年
◆小針誠「『荒れる成人式』 考」『同志社女子大學學術研究年報』56、pp. 119–127、2005年

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