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学校で教えない教育のこと【教育学】

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疑問こそ学びの原点なのに、学校の決まりや文化に関する「なぜ?」に、学校はほとんど答えてくれません。疑問や悩みに少しでも答えたい、そして疑問を大切にする人が増えてほしいと思い、教育…
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#小学校

「運動会の目的」の歴史 ~体育奨励・地域の祭り・規律忍耐・民主的協同~

 運動会は何のためにするのでしょうか。その答えは先生や学校ごとに違います。ハッキリ答えられない人も多いです。  運動会・体育祭は殆どの小中学校で実施されます。現在の学習指導要領上は特別活動として「集団行動の体得、運動に親しむ態度の育成、責任感や連帯感の涵養、体力の向上などに資する」体育的行事を行うと記されています(文献①)。別に運動会である必要はなく、球技大会やマラソン大会を行うだけでもよいのです。  それでも運動会が全国の学校で行われている理由は、歴史から見えてきます。そし

小中学校のチャイム着席(ベル着) ~半世紀以上の歴史、定義バラバラ、行き過ぎも~【教育学】

 問題:小中学校で使われる「チャイム着席」という言葉の意味は、以下のうちどれでしょう。 A.チャイムが鳴り始めるまでに着席する B.チャイムが鳴り始めたら着席する C.チャイムが鳴り終わるまでに着席する  正解は全てです。というより、学校によって違います。  授業の始まりや終わりの時間に鳴る学校のチャイム。チャイムがない学校は「ノーチャイム」とわざわざ銘打つことが多いことからも、基本的にチャイムが鳴ります。「チャイムを守ろう」という指導は良くなされますが、実は学校ごとに「

ミルメーク50年 ~給食には歴史と地域差がある~

 牛乳に入れるミルメーク、学校給食の定番です。  大島食品工業(名古屋市)が製造するミルメーク、1967年の発売から全国の多くの小学生に愛されています。たまに最近は粉末じゃなくて液体なんだと言われますが、実は1978年から液体タイプもあります(文献①)。  私の地域はなかったよという方もいるでしょう。よくこの全国地図が引用されますが、これはJタウンネットが2016年、1225人に実施したアンケート調査の結果です(文献②)。あくまで個人の経験で、学校に問い合わせミルメークの採

「静かになるまで5分かかりました」の意図と問題点 ~授業を成立させる先生は大変~【教育学】

 「皆さんが静かになるまで~分(秒)かかりました」  広く知られる言い回しです。学校の先生あるあるとして「静かにしろと言えばいいのに」と小馬鹿にされることも多い発言ですが、それは既に何度もやってきた上で効果がなかったため苦肉の策ということもあるでしょう。この言葉に違和感ある子ども側、静かにさせる必要のある教員側、どちらの視点も大切です。  今回は「静かになるまで」指導の意図と問題点を、まず授業開始時を前提に考え、それを踏まえて更に難しい全校集会についても考えます。 1.「静

「最近の学校は」を鵜呑みにしないで:30年前から定番「最近の運動会は手を繋いでゴール」【教育学】

 「最近の小学生は、運動会の徒競走で手を繋いでゴールする」聞いたことある人が多いと思います。この話は間違いです。正確に言うと、こうした指導を行った小学校がある可能性は否定できないが、少なくとも"最近"に限った話でもなければ"小学校一般"の話ではない、となります(※1)。  実はこの話、学校批判の定番として1990~2000年代によく使われました。30年前に批判された小学校を卒業した人は今や40代、未だに同じ話が使われているのは滑稽に思えるかもしれません。  こうした「最近の学

学校と鉛筆の歴史 ~筆・石盤・鉛筆・ノート~【シャーペンの教育学④】

 前回まで学校でのシャーペンの扱いを見てきました。シャーペンの使用禁止は「学校では鉛筆を使用する」ことを前提としています。学校におけるシャーペン及び筆記具の決まりを考える上では、鉛筆のことも知っておく必要があります。  学校の筆記具=鉛筆という印象は強いですが、鉛筆も古から学校で使われていたわけではありません。学校と鉛筆の歴史を見ていきます。 1.江戸から明治前半 毛筆から石盤へ  日本で用いられる主な筆記具は、江戸時代まで毛筆でした。寺子屋では半紙を重ねた「双紙」に書いて

学校とシャーペンの歴史 ~登場から1980年代の普及~【シャーペンの教育学③】

 小学校でのシャーペンの扱いについて2回ほど記事にしてきました(第1回はこちら)。今回はシャーペンの歴史を、登場から普及、そして多くの小学校で禁止に至るまで見ていきます。 1.高級品から普及へ シャーペンは1870年代に輸入され、日本国内でも製造されるようになります。1915年、後に家電メーカーシャープ創業者となる早川徳次が「早川式繰出鉛筆」として実用新案を取得、改良を続けながら「シャープ・ペンシル」として発売されます(文献①)。  しかし、戦前までのシャーペンは鉛筆のよう

鉛筆の濃さ指定?学校教育における筆記具の位置づけ【シャーペンの教育学②】

 前回、シャーペン禁止の実態と主に挙げられる理由を記しました(こちら)。シャーペンを禁止する法令などはありませんが、9割以上の小学生は学校でのシャーペン利用が禁止されています。  シャーペンに限らず、具体的にどんな筆記具を使いなさいという国レベルの規定はありません。学校では指定されがちな鉛筆の濃さについても、国の規定はないと国立教育政策研究所教育図書館が2016年に回答しています(文献①)。  ただし、学習指導要領では、主に国語の書写において筆記具に関する指導事項が記されてい

小学校シャーペン禁止の実態と理由【シャーペンの教育学①】

 小学校の謎ルールとしてよく挙げられる「シャーペン禁止」。特に法律や学習指導要領などで定められた決まりではありませんが、大多数の小学校で児童がシャープペンシルを用いることを禁止しています。  身近な存在でありながら、なぜ学校での使用が禁止なのか、なぜ鉛筆を用いるかといったことを整理した公的な文書は存在しないようです。  本記事含め4本に分けて「シャーペン禁止」の実態や歴史を整理していきます。学校教育での「決まり」というものを考えるきっかけになればと思います。 1.小学校では