嶺上開花の話。

これでもかと言うほど詰め込んで脚本を書いてみた。
「伝わらないだろうな」という細部にまで血を巡らせた。
そしたら、全てか、それ以上の何かが伝わった。

無情報 本公演 第7弾『嶺上開花』が6/26に無事終幕した。
無情報としては番外公演をあわせて10本目となる記念スべき本作は、メンバー始め座組全員の意欲作だった。だからこそ、今コレを読んでいる人も含め「ロス」に悩まされているのではないだろうか。
僕も正にその1人。だからこそ、ここに今、本作の想いを少し残しておこうと思う。脚本家は脚本に全部書け。言葉で飾るな。後出しジャンケンは卑怯者。僕も普段はそう思っているのだけど、今日だけは目をつぶって欲しい。
少し長くなるけど、ぜひ最後まで読んで頂けたら幸いです。

※一応今週末からアーカイブ配信が始まります。
 ネタバレを多分に含むコラムになるので、まだ観てない人はぜひ本編をご覧になってから読んで下さい。


実はアイディア自体は2年前から温めていた。
2020年に上演された『スリッパ・ウェスタン』の本番中に、
「麻雀をモチーフにした架空のチャイナストーリー」という今回のアイディアが浮かんでいた、らしい。メンバーの前川曰くである。自分ではいつ思い付いたが定かではないが、タイトルの『嶺上開花』も、すでにこの段階から決まっていた気がする。
そこから具体的に企画が始まったのは昨年2021年の11月。
前作『そこまでだ悪いやつ!』が終わってすぐに制作に取り掛かった。

『スリッパ・ウェスタン』で作った騙し合いの面白さと、
『そこまでだ悪いやつ!』で作った悪役ドラマの面白さをかけ合わせたい。そんな事を考えている内に、
『4人の国王を騙し、4股愛人となった女が、4人の王と一同に介する話』
という、今回書きたいシチュエーションが決定した。

架空の国や世界の話は、その世界観を伝えるのが難しい。
名前や固有名詞も、どうしても聞き慣れない物になってしまう。
その上国が4つも登場する。一体どうすれば、解りやすく作れるのか。

そこで「衣装を各国で色分けしたい」と、衣装のKnockKnock!!に相談した。
チャイナ、という言葉だけでテンションが上がっていた彼女の目は更に輝き、こんな事を言いだした。
「だったら陰陽五行説を使いたい!!」
恥ずかしながら陰陽五行説の「い」の字も知らなかった僕は「あぁ良いと思う」と生返事をしながら、とりあえず書店で本を買った。

読めば読むほど面白かった。
ものすごく簡単に説明すると、
▼「この世は火・水・木・土・金の5つの物で出来ている」
▼「水が火を消し、土が水を堰き止める様に、互いに邪魔しあえる」
▼「しかし流れを変えれば、木が火を生み、火が金(灰)を生み、そこから木が生える様に助け合う事が出来る」
これが陰陽五行説の中心だ。
邪魔し合う物も、流れを変えるだけで助け合える。
本作を観た人ならもうピンと来てる筈だ。
この物語はまさに、陰陽五行説に則っているのだ。

これにより「4つの国の物語」に、滅んだ国「中(チュン)」を追加し、
5つの国の物語が出来上がった。
それぞれが違う価値観を重んじ、睨み合っている中、この愛人計画はどう転がっていくのか。書く前からワクワクしていた。

物語の「序破急」が完成した時点で、キャスティングも同時に動き出した。

「4人の王を口説き落とせる」「しかし、4股がバレないように右往左往しなくてはいけない」「心優しい八方美人な姫」という主人公像が見えた時点で、主演は長谷川かすみしか居ないと思った。
冗談抜きで、もし彼女の出演が叶わなかったら、『嶺上開花』という物語ごと引っ込めていたかも知れない。それ程に大事なキャラクターであった。
実際に出演が叶い、稽古が始まる段階で確信した。
「あぁ、やっぱり彼女で良かった」と。
一歩間違えば「小悪魔を通り越して大悪魔な女」に見えかねないこの『チュンルー』が、長谷川かすみの手にかかれば「愛せる優しい姫様」に見える。
これが俳優のチカラ。感服した。
ちなみに、あの絞首台のシーンは殆ど稽古していない。
鮮度を保ちたいと思い、あまり回数をやりたくなった。
だからこそ、アノ時に出る彼女の「生きてみたい」という叫びは、常に新鮮で、本気で、恐ろしかった。彼女の叫びがまた、本作の想いを1段階上へ押し上げた事は、言うまでもない。

そんな姫様に密かな恋心を抱きながらも、責任感と真面目さから不器用に「仕事」しか出来ない参謀というのも、本作におけるもう1人の主人公。
無情報から橋詰龍に演じてもらう事にした。彼の吐く台詞には「自信のなさ」と「根拠なき自信」の両方が垣間見える。そのアンバランスさが、正にぴったりだと考えたのだ。他の演者からは「ちょっとカッコ良すぎません?ずるくないですか?」と言われた。僕もそう思う。ちょっといい男に書き過ぎた。

この2人を中心に、物語の中核となる「中」の国を考え始めた。
物語上、唯一すでに戦で滅んでいるという悲しさを孕む国だ。
だからこそ、そこに生きるキャラクターは底抜けに明るい集団が良いと思った。

僕は本当に「おバカ」を書くのが大好きだ。『スリッパ・ウェスタン』ではジェリコというおバカを生み出し、更に自分で演じまでした。が、僕は俳優では無いのでお世辞にも上手な芝居だったとは言えない。
せっかく好きなおバカなら、上手い俳優に演じてもらいたい。
僕は過去に出会った俳優の中で、誰よりも一番「おバカ」が上手い人を知っている。名を田辺未佳。
彼女以上におバカを乗りこなせる人は居ない。
実際に舞台を観た人なら解る筈だ。表情1つで喜怒哀楽の見える、あの可愛いシャルルは、彼女だからこその発明品だ。

また別の角度の「おバカ」も欲しい。口先だけは上手いけど、どこか抜けている愛すべき「アホ」。責任感だけが一人走ってしまう、そんなキャラクターなら、やはり藍が外せない。
無情報としては3回目の出演。しかし今までの2作ともまた違う、彼にしか出来ない男が生まれた。
余談だが、あの「肉まんをじっくり蒸したポーズ」は彼による発案。
稽古場で大笑いしてしまったので、採用した。
ちなみに彼は、結局ほとんど変更となった『初稿』を読んでいる。
「まだ初稿だから結構変えると思う」と言ったのに、もうその初稿の台詞を覚え始めており、大幅に変更となった時ショックを受けていた。
本人もアホなのだ。

次に欲しくなるのは「戦バカ」だ。強く逞しい、けれど戦場でしか輝け無い。強さや暴力は、時に無意味になってしまう。そんな「やり場のない怒り」を持つキャラクターを、あえて女性で置きたい。
そこで過去に別作品で観た事があった実月いまが浮かんだ。
「みづはこうやって輝かせるんだよ!解ってるのか!」みたいな
気持ちでサートンというキャラクターを作った。以外にも本人は
「こんな役やったことないです」と序盤は困惑していた。が、稽古が進むにつれあんなにも素晴らしいキャラクターが出来上がったのだ。

更に欲しいのは「真面目バカ」だ。真面目が故なバカ。バカ故な真面目。なんとも憎めない愛すべきキャラクター、リュハに採用したのが、佐藤才哉だ。あの顔立ちや素敵な低音ボイスを持ちながら、芝居は3枚目が得意だ。顔も良いのに笑いが取れるなんて何だか嫉妬する。だから、臭くしてみた。
結果的に、どんなに周りが臭がっても嫌な感じがしない、「臭くても可愛いイケメン」なキャラクターが完成した。作戦失敗だ。あ、いい意味でね。

「おバカ」と「アホ」が揃ったら、今度は「賢いのに何もしない人=トンマ」が欲しくなった。これは難しい。ただの怠け者なら簡単だが、その中に芯がいる。「出来る人がサボっている」と見える必要がある。こういう難しい役と言えば、やはり市原一平だろう。彼の「道化」は只者じゃない。軸があるのだ。その思惑どおり、彼は正に「中の国の軸」として居てくれた。
「ガクちゃん、演出家っぽくなったね」と言われた。
少し照れくさいが、悪い気はしなかった。

さぁこうして中の国が完成した。
周りはどう作ろうか。

4つの架空の国を差別化する為にも、それぞれに「信念」を持たせた。
何を重んじる国か、という事だ。どれも大事な物だが、何か1つだけを抱えてもいけない。そんな物を「信念」にしたかった。
まずは「金」だ。

まるで悪役のような「嫌味」を言いながらも、作品としては決して悪役ではないという難しい強欲男を金の国の王にしたい。
ならば無情報には前川昂哉が居るじゃないか。彼の手にかかれば、ヒトラーでさえ愛せる気がする。嫌いになれない悪が出来る。
実際の彼は全く金に強欲でもないが、芝居や作品に対しては強欲だ。度々見えたイーピンのしたり顔は、無情報の作品を作る現場で度々目にする彼の顔でもある。絶対全部手に入れてやる、という想いがあるからこそ出来るのだ。

ではそんなイーピンの妻はどんなキャラクターにすべきか。
同じく「金」を重んじながらも対になっていたい。
だからこそある意味逆の「守銭奴」なキャラクターを作ろうと思った。
作品であまり「守銭奴」な一面は登場しなかったが、その発想のお陰で「言いたい事を言えない」「守りがち」なキャラクターが見えた。
でも最後にはそんな彼女にも想いを語って欲しい。守銭奴がたまに買う、奮発した買い物を観たい。そういう悩みと決意を覗かせる事が出来るだろうと、安里奈を採用した。
お芝居は勿論だが、笑い上戸な彼女の存在は稽古場自体も明るくした。実際僕も密かに救われていた。コメディの現場で怖いのは、稽古場ですら笑いが起きない事だ。その点安里奈は、サクラなんじゃないかって位笑ってくれた。ありがとう。

「金」と同じく溺れてはいけないのが「力」だ。
力はもう考えずとも、芳賀勇が浮かぶ。どう見ても力だ。
登場シーンだけでもう力だ。っていうか、なんであんなに鍛えてるんだ。
その疑問は、台詞の随所にも現れた。
何なら名前もパーワンにした。
ただのパワーキャラでは面白くない。相手はあの長谷川かすみだ。
だとしたら、彼をドMにして、長谷川かすみのドSを観てみたいと
思った。
実際に僕の屈指のお気に入りシーンは「豚踏んづけ占い」だ。踏まれても尚、気持ち悪くなりすぎない。それが芳賀さんの魅力。
ちなみに、あの「弾鈴(ダンベル)」の小道具を作ったのも芳賀さん。
自分で「軽すぎちゃだめだ」と勝手に重くしていた。
馬鹿なのかなと思った。

そんな「力」の横には、ぱっと見て弱々しく、小動物のような可愛い女王が欲しいと思った。東条澪、まさにこの人だ。
弱い人間だからこそ「強さ」が解る。強さの意味が解る。強さの怖さが解る。作中ではずっと泣いたり嘆いたり心配したりと大忙しだが、そのちょこまかと動き回る姿は、なんとも愛らしい。
パイナップルのシーンの最後、「もうどうなる事かと思いました」の台詞は「泣きながら言える?」と言ったら一瞬であれに、
「私より筋肉のほうが大事なんでしょ?」の台詞は、稽古中に「メンヘラっぽく言える?」と言ったら一瞬であぁなった。恐るべし嗅覚。
これで今回はたった2回目の舞台出演というのだから、今後が楽しみで仕方ない。
余談だが、名前の「チートイ」は麻雀の「七対子(チートイツ)」から
来ている。麻雀で唯一、つがいを作る役だ。正に王を愛する彼女にぴったりなのだ。

「金」「力」ときたら僕は「美」が浮かんだ。
驕れる者は久しからず。美もまた、飲み込まれてはいけない物の1つ。
美の王様と言ったらもう即座に赤間直哉が浮かんだ。
天才劇団バカバッカさんとは、コント番組やYouTubeドラマでお仕事もさせて頂いていたし、実は個人的には学生時代からの憧れ先輩劇団でもあった。
そんな赤間さんを無情報にお呼び出来るのは感慨深い。
圧倒的に美な顔を持ちながら、甘えん坊な弱い心をもつ王・ウーソーを書きたい。それを、赤間さんにやって欲しい。
先輩、カッコ良いの1つ、お願いします。
そんな想いで書いたキャラクターだ。
あの甘えん坊に豹変するシーンは、稽古初日からガンガンに飛ばしていた。
常に稽古場を笑わせる、何というか頼れる兄貴であった。

その妻にもこれまた「美」でありながら、心に中にドロドロした「嫉妬」のような闇を抱えている、裏を持つ女王・ドーラが欲しくなった。
美しく、且つどこかに憂いがある顔立ちに、僕はもう1つ「目」がポイントだと思っていた。ギョロっとした目、と言うのも少し違う。上手く説明出来ないが、僕のイメージにぴったりな「目」を持っていたのが紺野栞だ。
他国の王と笑いあう時の笑わない目の奥も、チュンルーの正体を掴んだ時のあの迫りくる目も。彼女だからこそ乗りこなせた役なのだ。
ちなみにドーラは僕のお気に入りの台詞が多い。
少しキザな台詞の数々も、彼女の口から発せられると自然と耳に入る。不思議な魅力の持ち主だ。
稽古場が進み、紺野栞をより知る様になってビックリした。ドーラとは真逆な、柔らかくおっとした女性だった。俳優はやはり凄いなと再認識した。

この2人を支えつつ、心の中に「疑問」を抱きる続ける家臣・チャンタには、林光哲を採用した。彼の出で立ちはまさに「忠義」を感じる。その上で、コメディシーンも外さない。コメディは笑わせようとしては途端に笑えない。本気でやるから面白い。それをまさに、体全身で披露してくれた。
実際、彼は稽古の本当の最後まで悩み続け、度々相談をしてくれた。
彼の相談に乗る時間が好きだった。彼の芝居が、1つずつ積み上がって行く様を隣で見せてもらった気分だ。
ちなみに、パンフレットを買った方はチャンタとウーソーに少しの○○があると、設定資料集を見て驚いただろう。そんなシーンあった?と。
思い返して欲しい。あの「同時会話」のシーンを。どうしてあの家臣の2人は、背中合わせで想いを語るのか。まるで互いが表裏、言えない裏側同士の様に…。

「力」「金」「美」に並ぶ物として僕が選んだのが「歴史」だ。
伝統には勝てない。亀の甲より年の功という奴だ。
そんな歴史がある国だからこそ、新しい陛下・ランファにはあえて歴史の無いピュアな目線が欲しかった。無情報でピュアと言ったら、やはりもう倉沢しえりしか居ないだろう。今回で3回目の出演となる彼女だが、年々その腕を上げていて、毎年驚かされる。
実際今年は特に、彼女には殆ど演出をつけていない。彼女から出てくる自然なリアクションをコチラが選びとっていく、という感じだった。
稽古中に「さっきのあそこ、良かったよ」と褒めたら「褒められたら出来なくなっちゃうから、褒めないで下さい!」と言っていた。
だからもう褒めない事にした。
僕はあの「膝踏んづけ占い」こそ、長谷川かすみと倉沢しえりじゃないと成立しない、再現不可能なシーンだと自信を持っている。彼女にしか出せない無垢な心だからこそ、あのシーンで我々は揺さぶられるのだ。
あれ、褒めない事にしたのに。おかしいな。

そしてそんなランファを支える秘書・リーズーには西本銀二郎が浮かんだ。
前作「そこまでだ悪いやつ!」を見た彼本人から「無情報に出して下さい!」と連絡を貰った。またまたご冗談を、と想いながら馬鹿なふりをしてそのままオファーしてみた。
簡単に言えば板挟み。序盤から絶えず登場しているのに、自分の想いを語れるシーンは少ない。なのに最後は、想いを溢れさせなければならない。
こういう役は良く言えば美味しい、悪く言えば難しい。俳優泣かせでもある。しかし彼は、1度たりともその「波」を途切れさせる事なく演じきった。先輩風を吹かせば、彼にとっても新しい発見だっただろう。良いシーンを演じられるのが良い俳優ではない。
最初から最後まで生きる事が出来るのが、良い俳優なのだ。

そしてこの国を支える「歴史」という重圧に負けまいと必死にもがく女王・チューファに浮かんだのが、八幡夏美さんだ。昨年も出演してもらい、なんともひょうきんなお母さんを演じてもらった。その時、「私悪役やった事ないんだよね」と語っていた。そんな勿体ない話があるか!ぜひ、悪役をやって欲しい…!
そんな想いで作ったキャラクターだ。
「姉さん、ほら見て?最初こんなに笑わせるよ。だから後半、バチッと決めてね」僕の言わぬメッセージが脚本に込められ、実際に八幡さんはすぐにそれを読み取ってくれた。
あんなに上手く「豚踏んづけ占い?」と言える人は、世界広しといえどこの人だけだろう。
八幡さんは1つ1つの言葉を疑い、咀嚼する。僕もその相談に乗る。アイディアが沢山生まれ、何よりも楽しい時間だ。脚本が脚本通りで演じられては何も面白くない。脚本を超えるから面白い。だからこそ、皆の意見を吸い上げたい。そういう意味で八幡さんは、物凄く頼りになる姉さんだ。
そして、あの涙も。あの涙の正体はどういう想いなのか、どうして去り際に少し笑うのか。僕と八幡さんの中にはハッキリと答えがある。が、ハッキリと見せすぎない様にしようとも決めた。ぜひ、垣間見てくれたら嬉しいところだ。

以上のメンバーにより『嶺上開花』は演じられた。
だけど、舞台はその上だけじゃない。
裏もあるのが舞台。

メインビジュアルを担当したのは無情報のリーダーである岸本学。
『スリッパ・ウェスタン』でのこっそり出演、『そこまでだ悪いやつ!』での映像出演に続き、今回は肖像画出演もしてくれた。
『嶺上開花』という作品の全体像をきゅっとまとめられたのは、何よりあのタイトルロゴデザインのお陰。オリエンタルで、でも少し可愛げのある空気が生まれたので、作品の演出もそっちに付いていった。
いつもありがとう。来年はどうやって出すか、楽しみにね。

前述もしたが、今回衣装を担当してくれたのはKnockKnock!!。
彼女の感性が正に爆発した、完璧な衣装であった。
豪華絢爛でありながら性格や思想が垣間見え、何より一見してその所在が解る。ドーラの髪飾りは、あぁ見えて実は結束バンドで出来ている。『ハリボテの冠』も、なんだか彼女らしい。
実際衣装やビジュアルから思いがけず生まれる設定や性格も増えた。ただの飾りでは無い。これもまた、そのキャラクターを演者と共に作る物なのだ。
一緒に作ってくれて、ありがとう。

美術は毎年恒例の薫ちゃん。僕からのオーダーは1つ、「マットを緑にして、台を白・オレンジにした麻雀卓みたいなセット」。だったこれだけ。
これだけであそこまでの王宮が完成した。玉座まで回る始末だ。
舞台公演の感想で、こんなにも舞台美術に言及される現場も珍しいのではないだろうか。それくらいに彼女の美術は素晴らしい。1つのアートだなとすら思う。その上での「隠し無」も愛に溢れていて嬉しい。来年はどこに隠してくれるのやら。

音響は、一番付き合いの長い銀ちゃん。「年々機材が増えますね〜」と、なんだか嬉しそうに語っていた。彼は僕が選んだ音楽を、誰より一番良い形で舞台上に染み込ませてくれる。信頼出来る職人だ。今年も色々お世話になった。来年もまた機材を増やさなくては。

照明は、若き天才こーだい。圧巻の照明。全てのシーンが美しい。
「提灯を垂らしたい」と言っただけで、あそこまで上手く提灯を使えるだろうか。「ダイヤを持ち上げたらぴか〜って光りたい」と言っただけで、あそこまでの照明が生まれるだろうか。ただの光では無い。演劇という、情景の限られてる世界を無限にする技。それがこーだいの照明だ。

舞台監督は今回から無情報初参加のようこりん。果たしてどんな人だろうかと、ポンコツ5人組はまた怒られるのではないかと戦々恐々としていたが、蓋を開けたら何度も笑いあった。「舞台上にゆっくりこの絵画をおろしたい」を言って画像を見せたら爆笑しながら、最適な方法と位置を模索してくれた。面白いと思ったら全力で。そんな優しい人だった。これからもよろしくです。
急遽だったけど演出部で助けてくれた鳥巣ちゃんもありがとう。
舞台裏が円滑に、様々な仕掛けが動かせたのは他ならない、彼女のお陰だ。正に縁の下の力持ち。舞台上には、もっと力持ちな化け物が居たのだが。

制作はもう無情報のお母さんと言うべき花ちゃん。
もう無情報には欠かせない人だ。メンバーより欠かせないかも知れない。
本来なら別現場が重なっており、今年は参加出来ない所を「私を置いてかないで〜」と無理して参加してくれた。置いてく訳ないじゃないか。お母さん、ご飯まだ?
更に現場には同い年で盟友・戦友とも言うべき吉乃が来てくれた。
こちらも心強い。嬉しい悲鳴として年々増えていくお客様に、ご不便なく舞台を観て頂く。簡単に聞こえて難しい。我々は言わば厨房の料理係、彼女は給仕長なのだ。それも、隠し味を聞かれても答えられる様な、凄腕の給仕長。

他にも、ここには書ききれない数の方にお世話になった。
「舞台袖から中央まで伸びる急須が欲しい」という無茶なお願いに答えてくれた金澤さん。「今までの演劇映像とは一味違うクオリティの映像で撮りたい」というワガママに答えてくれたTsuyokichi君。制作を手伝ってくれた方、仕込み・バラシを手伝ってくれた方、ビジュアル撮影のカメラさん、ヘアメイクさん…皆様、本当にありがとう。

そして何より、本作を観てくださった皆様。本当にありがとう御座います。
出来る限りすべての想いを込めておきました。どれを持って帰って頂いても結構です。お口に合えば、幸いです。

ついご時世柄、世界の話ともリンクするのだけど、あれは本当にたまたまです。たまたまでフィクションに現実が近づくのも恐ろしいけど。でも僕はもっとシンプルに「ワガママを肯定したい」。ただそれだけです。
皆さんもぜひ、ワガママに。

SNSでの感想、出来る限り読んでいます。
想いがけない細かい部分が伝わっていて、嬉しい事もしばしば。
やはり細部に神は宿る。再認識。

さ。来年は何をしよっかな。




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