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ギャラリートーーク!

学芸員は、お客さんの顔が見えません。これは実はやばいことです。

美術館に限った話ではありません。商品やサービスの受け手の存在が希薄になると、どうしても独りよがりのものを生み出しがちです。
店主のこだわりが行きすぎた独創的なラーメン。
開発者のセンスを見せつけることに意識がいって使いにくいアプリ。
巷にあふれる「これ何で作ったの?」という商品は、たいていお客さん不在という原因が隠されています。

展覧会もこれと同じで、学芸員がずっと机にむかって頭をひねって企画を立てていると、どうしてもそれを鑑賞する人のことを忘れてしまいます。そして「これは画期的だ!」という自己満足の展覧会を企画して、いざ開幕してみれば閑古鳥という悲しい結果になりがちです。

その時に「来館者数を気にしていたら意義のある展覧会なんかできないさ」と自分で言い訳するようになったらもはや手遅れです。おそらく次の展覧会も、その次の展覧会も鳴かず飛ばずの結果になるでしょう。

それではいかんな、と自戒を込めて対策を考えるわけですが、一番の解決策はもうおわかりでしょう。
そう、お客さんと触れあうことです。空想の中のお客さんだと自分の都合のいいように作り上げてしまうので、実際に生身のお客さんと接する機会を作るべきだと考えます。

私がその機会として活用しているのが、ギャラリートークです。

ギャラリートークと言えば、展覧会関連イベントの中では、比較的カジュアルなものですよね。基本的に担当学芸員がいれば開催可能なので(美術館によっては、学芸員以外のスタッフやボランティアの人が行う場合もあり)。ゲストスピーカーを呼んでの講演会だとこう簡単にはいきません。

予定していた時間に会場に集まってくれたお客さんを対象に、学芸員が展示についての解説を行うのがギャラリートークです。
お客さんは少ないときで5、6人、多いと3、40人。あまり事前予約という形はとらないので、蓋を開けてみないとどれぐらい集まるかわかりません。

さて、ギャラリートークは何が良いって、やっぱりお客さんの顔が見えることです。そして話ながら反応が確認できることです。
どれぐらいの年齢層の人が多いのか。どの作品が一番興味を引くのか。どうやって伝えるとわかりやすいのか。そうしたことが自然とつかめてきます。

一通りギャラリートークが終わった後でも、しばらく会場に残って自由に質問を受け付けるのですが、その時に投げかけられる質問で気づくことも多いです。お客さんの声はアンケートだけでは広いきれませんからね。

もちろんギャラリートークに参加してくれるようなお客さんは、かなり積極的な部類の人ですから、それだけで来館者全体の総意をつかんだと思うのは早計でしょう。ただ少なくとも学芸員が頭の中だけで何となく鑑賞者イメージを作り上げるよりも、具体的な人の顔が思い浮かぶようになる方が断然確度としては高くなりますよね。

このギャラリートークの経験がストックされていくことで、次の展覧会を企画する時に鑑賞者目線を意識して考えられるようになっていくんだろうな、と思っています。