3.立憲政体維持の必要条件/ 尾崎行雄『憲政の本義』

三 立憲政体維持の必要条件

 立憲政体維持の必要条件は、外でもない、人民をして人類であることを自覚せしめるに在る。政治上において人類と称するのは、生命財産その他の権利を有する者を云う。これを有せないものは、人面を被《か》ぶる所の禽獣にすぎない。飼牧者のために、生殺与奪の全権を掌握せられる所の劣等動物にすぎない。
 人民をして、人類である事を自覚せしめ、また生命財産の所有主である事を自覚せしめ、またいやしくもこれが所有主である以上は、生殺与奪の全権は、これを主治者に掌握させるべきものでない事を了解せしめ、またこれを了解する以上は、[#「、」は底本では「。」]いやしくも生命財産に関係する所の法律規則は、予めその所有主である所の人民の承諾を受けた上でなければ、何人も、これを制定変改すべきものでないことを理解せしめなければならぬ。しかしてこれらの目的を達しようとすれば、必ず人民に授くるに、人類並みの知識をもってせなければならぬ。故に曰く「専制政体維持の必要条件は、人民を愚昧ならしめ、禽獣状態に安んぜしむるにあり。立憲政体維持の必要条件は、そのの民を智にし、生命財産及びその他の権利の所有主たることを自覚せしむるにあり」と。


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「憲政の本義」目次


底本
尾崎行雄『普選談叢 貧者及弱者の福音』(育英會、1927年11月2日発行)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1452459, 2021年5月21日閲覧)

参考
1. 尾崎行雄『政戰餘業 第一輯』(大阪毎日新聞社、東京日日新聞社、1923年2月19日発行)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/968691/1, 2021年5月21日閲覧)
2. 尾崎行雄『愕堂叢書 第一編 憲政之本義』(國民書院、1917年7月27日発行)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/956325, 2021年5月21日閲覧)

2021年5月31日公開

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