今後の投稿―『憲政の本義』復刻と『民主政治読本』一時停止

 ご無沙汰しております。今後の投稿についてご案内したく、執筆します。

 単刀直入に申し上げれば、『憲政の本義』の復刻を始めるかわりに、『民主政治読本』の方はお暇を戴きたいということです。この理由は、衆議院議員の任期満了が近づいてきた、言い換えれば、、選挙が迫ってきたということにあります。

『民主政治読本』の更新状況

『民主政治読本』の更新は既に12章まで終わり、13章「国家主義より世界主義へ」の更新に着手しておりました。
『民主政治読本』の各章の内容に関して、12章までが咢堂先生の国内政治について説いた内容なのに対し、13章と14章は世界における日本の立場を説いた内容であり、15章~17章は日本の教育・文化の改造を説いた内容になっています。13章以降が国内政治とは関係が薄い内容であるため、ここで一旦お暇をいただき、今年の選挙を見据えて、「選挙権の貴重な理由」や「選挙権をどのように行使したらよいのか」などを、咢堂先生の他の書物から「選挙権の貴重な理由」補ってみようと思った次第です。
 ただし、更新を後回しにはしますが、『民主政治読本』の13章~17章は、加筆修正の上、『わが遺言』に収められているほど重要な章であるという事も付け加えておきます。

『憲政の本義』について

『憲政の本義』は咢堂先生が、東京市長時代の1913年に執筆した『人類と禽獣』と題する本を、改題の上、加筆修正した本のようです。『咢堂清談』では、東京市の小学生に「人間というものは、生命・財産の持主である」[1]ということを分かってもらうために書いて、各学校に配布した、と記述があります。

 『憲政の本義』の内容としては、

1. 専制政治と立憲政治の違い(後年の『咢堂清談』には「新憲法(引用者注:日本国憲法のこと)の下に立憲政治をやり直すことになった」[2]と記している)

2. 立憲政体維持の必要条件として、人民の政治知識の増進を挙げる

3. 選挙権の貴重な理由

など、『民主政治読本』においてもリフレインされている、咢堂先生の根本思想が凝縮されています。特に選挙権については「人畜の相異は選挙権の有無に在り」という章を設け、次のように記しています。

 立憲国民は、生命財産の権利ある人類であるが、専制国人民は、之を持たない禽獣的動物であることは、前にも数々之を説明した。而して法律上に於ける二者の相違は、一は其生命財産の保管人則ち代議士を選挙するの権利を持ち、他は之を持たないと云う一点に外ならない。故に政治上に於ける人類と禽獣の差異を煎じ詰めれば、選挙権を持つと持たぬとに帰着する。然るに人類唯一の政治的資格とも云うべき、此選挙権を売買するに至ては、其無智不徳、少しも禽獣と異なる所がないではないか。

尾崎行雄「憲政の本義」『普選談叢 貧者及弱者の福音』(育英會、1927年11月2日発行)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1452459, 2021年5月21日閲覧)

 このように、人間と禽獣(禽獣とは、犬猫やニワトリなどの獣と鳥のこと)の政治上での区別は選挙権の有無で決まるというのが、咢堂先生の選挙権に対する考察の根本です[3]。だからこそ、選挙権の使い方を間違えてしまえば(例えば「金銭や,ごちそうや,因縁や,情実」につられて投票する)、人間の形をしていても、獣と同様であると説いているのです。
 咢堂先生のこの考え方が、近年の選挙の投票率の低下に対して、一つの処方箋になることを願って、『憲政の本義』の復刻を始めようと決意した次第です。


 なお、底本には国立国会図書館デジタルコレクションにて「インターネット公開(保護期間満了)」となっている「尾崎行雄『普選談叢 貧者及弱者の福音』(育英會、1927年11月2日発行)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1452459, 2021年5月21日閲覧)」を使用し、
判読不能の箇所は、同じく国立国会図書館デジタルコレクションで「インターネット公開(保護期間満了)」となっている「尾崎行雄『政戰餘業 第一輯』(大阪毎日新聞社、東京日日新聞社、1923年2月19日発行)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/968691/1, 2021年5月21日閲覧)」と「尾崎行雄『愕堂叢書 第一編 憲政之本義』(國民書院、1917年7月27日発行)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/956325, 2021年5月21日閲覧)」の表記を参考にしました。
また、底本はすべて旧字旧仮名ですが、公開にあたっては新字新仮名にあらためます。

新日本76年5月21日 咢堂ファン/ガガガーガ・ガークドー


References

[1] 尾崎行雄「咢堂清談」『尾崎咢堂全集 第十卷』(公論社、1955年9月1日発行)の中の「人間を作る教育」

[2] 尾崎行雄「咢堂清談」『尾崎咢堂全集 第十卷』(公論社、1955年9月1日発行)の中の「序に代えて」

[3] 尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)の中の「犬と人間」にも同様の記述がある。


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