見出し画像

vol.6 【後編】建築もデザインも地域でつくる! 〜学大ローカルプロダクション〜

こんにちは。「みんなでつくる学大高架下」公式note、記録係のムラヤマです。

学芸大学の住民や事業者のみなさんと高架下の使い方や街づくりのアイデアを考える「みんなでつくる学大高架下」プロジェクト。

高架下の使い方に関わる議論だけでなく、建築やグラフィックデザイン面などリニューアルを想定した実業務の検討にも、学大を拠点に活動するプロフェッショナルな方々がチームを組んで参加してくれています。

地域を巻き込んだ共同設計の実績が豊富な横浜の設計事務所「オンデザイン」さんがファシリテーターとなり、集まった学大のクリエイターは、設計者やインテリアデザイナー、工務店、グラフィックデザイナーなど、6組。

前回に引き続き、そんな「学大ローカルプロダクション」のプロフェッショナルのみなさんを、その思いとともにご紹介していきます! 

参加してくれているプロフェッショナルのみなさん

04. 矢野大輔さん(照明デザイナー)

池尻大橋を拠点に活動する、照明デザイナーの矢野さん。高校生のときに見た光の作品に心を奪われ、武蔵野美術大学空間デザイン学科に入学。その後建築照明事務所を経て、よりアート性がありつつ、人との繋がりを感じられる環境で仕事をしたいと思い、Tokyo Lighting Design合同会社を設立。現在は建築照明に加えて、イベントのアートや商業施設の照明デザインなどをメインに手がけています。中目黒出身で、学大エリアは幼少期の遊び場だったんだそう。

ーー今回の「学大ローカルプロダクション」に参加を決めたときの、率直な気持ちを教えてください。

矢野さん:過去に別のまちの商店街で街路灯のデザインなどを手がけたことはありましたが、ここまでがっつりまちづくりに関わるのはほぼ初だったので、ワクワクしましたね。もともと中目黒のあたりで生まれたので、祐天寺や学大は自転車で走ったり遊んだりしていたエリアなんです。その後引っ越して転々としましたが、学大エリアは自分にとってオリジンの場所だから、ここで仕事ができるのは何だか感慨深くて(笑)。お話をいただいたときから、どうしたら当時の自分のような子どもたちに楽しんでもらえる光をつくれるかな、と考えていました。

ーー業種の近いプロフェッショナルが6組集まっていますが、一年間プロジェクトを進めてみていかがですか?

矢野さん:知らないことは誰かが知ってるという環境ですし、それぞれが持ついろいろな知識や感性がぶつかり合いながら交わっていく様を見て、単純にすごいなと思っていました。

僕ら照明デザイナーは、ものに対してどう光を与えれば最適な空間環境になるのかを考えますが、実際にみんなのアイデアを聞いていると、「こんな光がいいな」と片っ端から想像が膨らんできて、すごく刺激的でした。今までの仕事の中でも、特に想像力高めのプロジェクトだったと思います。大変ですけど、まちの未来をつくりながら文化を照らすことができると思うので、やりがいがありますね。

ーー矢野さんの場合は、ほかのメンバーと被らない「光」という明確な切り口があったと思いますが、プロジェクトを進める上で大切にしていた視点はありますか?

矢野さん:やっぱり「光でどうやっていいまちをつくっていくか」ですよね。建築と通ずる部分もあると思いますが、今回生まれ変わる可能性がる高架下の全長1kmを見て、それぞれにどんな役割を担っているか、どんな人が集まるのかをきちんと踏まえた上で、どう光を集めていくかを考えました。

難しいですが、光は上手く使えれば見せたくないところは見せないようにできるし、安全の視点からもできることがあるので、課題を突破できる力があると思います。

ーー実際にどんな形になるのかすごく楽しみです。高架下プロジェクトをきっかけに、学大のまちがどう変化していったらいいなと思いますか?

矢野さん:子どもたちやファミリーが遊びながら、楽しく暮らせるまちになったらいいなと思います。夜にこのまちを歩いたとき、寂しかったんですよね。真ん中は賑わっていますが、端の方に行けば人通りがないし、壁だけの高架下とか、公園までの道にもあまり活気がなかったりして。

それが今回、高架下エリアが南北に拡張することで道の流れが変わりますし、光や空間で賑わっている部分を広げていくお手伝いができたと思うので、寂しくないポジティブな印象のあるエリアに変わるんじゃないかなと期待しています。

05. 佐藤麻紀さん、​工藤尭さん(建築・設計施工)

佐藤さん(左)、工藤さん(右)

鷹番2丁目の路地裏文化会館「C/NE(シーネ)」を基地にしながら、空間を創造する合同会社ウェルカムトゥドゥの佐藤さんと工藤さん。同期だったふたりで2013年に建築チーム「todo」を立ち上げ、2016年に現「C/NE(シーネ)」館長の上田太一さんがジョインしたのをきっかけに学大に進出。店舗やオフィス、住宅の設計施工を中心に、店舗プロデュースやイベント企画まで「場づくり」全般を手掛けています。学大エリアでは「CHI-FO 台湾屋台縁食区」「Ri.carica ランド」など。ちなみに、工藤さんと上田さんは小学校の同級生なんだそう。

ーープロジェクトに参加することが決まったときは、どんな気持ちでしたか?

佐藤さん:「こんなにすぐにまちと関われるの?」という嬉しさがありましたね。私は神奈川から学大に引っ越してきて約7年になりますが、ここには楽しい場所が多くて、本当に遅れてきた青春みたいな感覚で(笑)。好きなまちに関われること自体が嬉しいですし、それが渋谷とか中目黒ではなく、学大だからこそ私たちにもできることがあるのかもと思えました。

工藤さん:僕も最初はあまりリアリティがなかったけれど、学大だったら規模感もちょうどいいし、近い感覚の人たちが多いから、一緒に実現していけるイメージが湧いたというか。もともと上田(「C/NE」館長)が加入して以来、ハードとソフトの両面を請け負えるまちづくりには関心があったなかで、チームとしてもすごくチャレンジングな機会だと思いました。

ーー普段から学大エリア内で手がけている仕事も多い「todo」ですが、おふたりはプロジェクトを進行していく上でどんな視点を大事にしていましたか?

佐藤さん:メンバーみんなに共通することですが、提案者でもありユーザーでもありますよね。加えて私たちは、「CHI-FO 台湾屋台縁食区」という台湾料理屋さんを運営しているので、事業者としての視点は大事にしていたかもしれません。これから先、実際に高架下で運用していくスタッフたちの使い勝手とか、お客さんが使い続けるうちにどうなっていくのか、こういう場で本当にお金を使ってもらえるのかという点は気にして考えていましたね。

工藤さん:僕らはいつも基本的に“つくる”ことをしているので、普段と同じように予算の中で工夫しながら既存のものを活かしつつ、それだけだと地味になりがちなので、バランスを取ることを意識していました。

ーーでは、今回の高架下のプロジェクトを通して、今後学芸大学がどう変わっていけばいいなと思いますか?

工藤さん:高架下が生まれ変わるのをきっかけに、改めて友達や知人が住みたいと思ってくれたらいいなと思うし、単純に面白い店やおいしい店が増えると嬉しいですよね。きっとそうなっていくでしょうし、楽しみです。

佐藤さん:今このまちにいる友達は自分に近い人が多いけれど、本当はもっと違う考えの人や、属性の違う面白い人たちがたくさんいるはずなので、これを機にそういう人たちとも知り合えるんじゃないかなと思っています。

あとは私自身が学大で暮らしながら働くようになってから、誰かに自己紹介するときに「設計や施工管理をやっています」ではなく、「学芸大学でお店をつくったり、『C/NE』でこんなことしたりしているんです」と言えることがすごく自信になっていて。まちに関われば関わるほどアイデンティティが深まるし、第2の故郷のように感じられるので、高架下で新しくお店を始める人たちにとっても、そんな場所になったらいいですよね。

06. 田久保彬さん(グラフィックデザイナー)

グラフィックデザイナーとして活動する田久保さん。中央大学在学時に、ダブルスクールで桑沢デザイン研究所に通っていたのだそう。その後、佐藤卓デザイン事務所(現:TSDO)を経て2014年にTakubo Design Studio 設立。広告やパッケージ、ブックデザイン、会場空間のほか、企業やプロジェクトのブランディングに携わっています。商店街のあるまちが好きで学大に惹かれ、居住歴は12年(西側6年+東側6年)。本プロジェクトでは、ロゴマーク制作やサイン計画を担当。

ーー「学大ローカルプロダクション」は6組共同のプロジェクトでしたが、一年間やってきて率直にいかがでしたか?

田久保さん:とっても面白かったですね。一つのプロジェクトに建築チームが複数いることって珍しいと思うので、最初は喧嘩にならないかひやひやしていましたけど(笑)。お互いに様子を見ていたところから、徐々に対話を重ねたり、一緒に過ごす時間を増やしたりするうちに、毎回の話し合いでも本当にいい相乗効果が生まれていったなと思います。

僕はグラフィックデザイナーですが、建築チームから出たアイディアもすごく刺激になりましたし、皆さん学大に縁の深い人たちだからいい加減なことは言わずに、本気のキャッチボールをしている感じにグッときました。こういう地元に根ざした熱い協業はなかなかないなと思いますね。

ーー本気のキャッチボール、いいですね。それぞれの得意技が少しずつ違うなかで、田久保さんが大切にしていた視点はありますか?

田久保さん:普段の仕事でもそうですが、自分事にしすぎずになるべく客観的に見るように意識しています。特に今回は、地元の方を巻き込んだ皆さんの思いの丈が詰まっているプロジェクトだからこそ、全ての声を聞いてしまうと方向性が定まらないですよね。だから普段ディレクションの仕事をする身としては、ヒアリングしつつも俯瞰して進むべき道を見極める役割でいたいと思っていました。「変えてほしい」という声と「変わってほしくない」という声の間で積極的に板挟みにあいながら頑張ろう、という意識ではいましたね。

ーープロジェクトを進めるなかで、普段の仕事との共通点や違いを感じたことがあれば教えてください。

田久保さん:長い目で見る必要があるというところは、企業のブランディングに共通するポイントだなと思います。短期的に目立ったりバズったりすればいいわけではなく、逆になるべく流行らせずに、10年20年先を見てどうなっていくべきかを考える必要がありますよね。

とはいえ、企業と違ってまちはヒアリングする声の数が圧倒的に多いですし、明確なターゲットはあるようでないので、一方では、10年以上このまちで暮らしている自分の感覚も大切にしたいと思っています。自分が変わらないでほしいと思う部分は、同じように思っている人がきっといて、でも全員がそうではないという意識も忘れずにいる、そのバランスが大事だなと思います。

ーー今年6月から工事が始まり、来年の春にはいよいよ形になりますが、このプロジェクトをきっかけに、どんなまちになっていってほしいですか?

田久保さん:より日常的に、かつ自然にコミュニケーションが生まれやすいまちになるといいですよね。まちでトラブルが起きたり、不安な出来事があったりするときはやはり、コミュニケーション不足が大きく影響している気がしますし、昔からいる方たちも若い方たちもバランス良く調和しながらまちが続いていくためには大事なことだなと。

それは気軽な挨拶かもしれないし、高架下のベンチでたまたま出会って話すことかもしれない。小さくてもそういうコミュニケーションが日常的になって、まちが活気づいていくことを期待しています!

取材を終えて

プロジェクトへの熱い思いや、自分の愛するまちに関わる面白さを改めて教えてくださった6組のプロフェッショナルたち。筆者は、昨年10月にこのまちに引っ越してきたばかりの超新参者ですが、一歩踏み込んで、もっともっと学大での暮らしを楽しくしていきたいと思わせてもらった取材でした。

2024年春に向けて、今まさに生まれ変わろうとしている、全長1kmの学高架下。そこでどんな新しい出会いやチャンスが生まれるのか、今からとても楽しみです。

文:むらやまあき


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?