爽快感と労り

健康診断を受けた。

採血の時、いつも困ることがある。
椅子に座り、台の上の、500ミリパック飲料サイズの枕みたいなやつに腕を置いて伸ばす。すると、目の前で血を採ってくれる人に届きそうになる。
採血をしてくれる人はだいたい女性が多い。リーチの差から、必然的に相手は距離を詰めてくる。実際に相手の服の一部に触れてしまうことも珍しくない。
自分の伸ばした腕が妙な所に当たってしまわないか、妙な所というわけじゃなくても見ず知らずの男から触れられて平気な部位なんて女性の体にはないが、と不安になる。かと言ってそれをわざわざ口に出すのも難しい。
手が当たるリスクをなくす方法はないものか。

胃カメラも受けた。
これまで2、3回受け、毎回苦しんできたが、バリウムよりも胃カメラを選びたくなる。台の傾きに耐えながら次々と体制を変えていくバリウムはスポーツ的な楽しさがあるが、胃カメラには爽快感と労りがある。今回もそれを楽しみにしていた。
ずんずんカメラが差し込まれていく。何度も嘔吐反射を起こし「あんまり喉動かさないで」などと言われたが、反射なので仕方がない。
期待を寄せていたのは後ろの人。「力抜いてくださいねー」と優しく声をかけながら肩から背中にかけてさすってくれた。
この優しさ、労りがめちゃくちゃ効く。身に染みてありがたい。見ず知らずの自分のためにこんなに優しくしていただき、ありがとう…ありがとう…という気分になる。
目、鼻、口と顔の穴という穴から液体を垂れ流し、無事に終えた。温かいおしぼりをいただき顔を拭く。うがいをして鼻をかみ手を洗うと、胃カメラ以前よりもスッキリしている自分に気がつく。

健診はいつもこの、病院ではなく健診専用の施設で受ける。
今回もてきぱきと回転が速く、待ち時間がそんなにない健診だった。
待合室に文庫本が何冊か置いてあるラックがあったけど、たぶん1ページ読むごとに番号を呼ばれると思う。手に取る人はいるんだろうか。
疑問がある。
診察をしてくれたのは医師で、レントゲンを撮ってくれたのは放射線技師で、受付にいたのは医療職というより事務職の人なんだと思う。じゃその他の、血圧とか聴力・視力とか心電図とかいう検査項目の大部分を調べてくれた人は、職種は何なのだろう。
看護師? 検査技師? 医師も含めて全員が女性だった。
対応は丁寧だがてきぱきしていて、胃カメラで優しさに感謝した勢いで聞いてみようかとも思ったが、そんな話に付き合ってもらえるほど暇そうな人は一人もいなかったので控えた。
いつもありがとうございます。

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