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青黒軍団、2021年の船出。

 2021年のJリーグの開幕は来週なのだが、その前に、毎年恒例の楽しいキックオフイベントがある。
 そう、スーパーカップ。念のために言っておくがカップラーメンやアイスではない。
 「FUJI XEROX SUPER CUP」という大会が、毎年Jリーグが開幕する前の週に行われているのである。ちなみにこの大会、富士ゼロックス社の社名変更に伴い、この名称で行われるのは今年が最後である。
 この大会に出られるのは前年のJ1リーグ優勝クラブと天皇杯優勝クラブであり、まさに昨年の日本サッカー界を席巻したクラブ同士の頂上決戦の趣がある。そして実に嬉しいことに、今年の舞台には、我らがガンバ大阪が実に5年ぶりに登場するのである。

 …え?お前らJ1リーグも優勝してなければ天皇杯も優勝してなかっただろって?

 はあ? うっせぇわ。 

 とにかく、毎年首都圏のスタジアムで行われるこの大会、東京在住ガンバサポとして今年のこの舞台には行くしかない!と思っていたら、なんと緊急事態宣言の影響でチケットはごく僅か。当然、Jリーグチケットは発売前から固まるという事態になり、ごく一部のラッキーな人々と転売ヤーに敗北するという残念な結果になってしまったのである。

 せっかく愛するクラブが素晴らしい舞台に立てる年にこんな事になるなんて、実にあのcovid-19(およびそれを取り巻く政策)というのは憎いとしか言いようがないが、こればかりは致し方ない。スタジアムでは声を上げられないし、テレビの前で大声で応援することにしよう。

 さて、そんな今年のガンバ大阪は、どういうクラブなのか。
 昨年、就任3年目の宮本監督は、美しいパスサッカーとか派手な打ち合いというより、しっかりと相手の長所を消し、最後まで1点を守り切るという、実に勝負強くていやらしいチームを作り上げてくれた。他クラブからしたら決して目立つ存在でもないのに、なんと最終順位は2位という素晴らしい結果を残してくれた。
 かつて西野監督が指揮を執った時の、美しくて鮮やかな殴り合いサッカーで天下を取った時代、そして、得失点差プラスという前代未聞のJ2降格を経験し、しかし乗り越えて長谷川監督のハードワークサッカーで再度の栄冠を獲ったと思えば、そんな時代も長く続かず、あの地獄のようだった2017年後半~2018年中盤までの暗黒時代を乗り越え、再びここまで強いクラブを作り上げてくれた。宮本監督の手腕には脱帽しかない。

 そんな宮本監督が今年も率いるガンバ。
 まず、攻撃陣については充実したと言えるだろう。昨シーズンは5人交代制という制度を活かして、前線では主にパトリック宇佐美・アデミウソン・渡邊というFW陣が入れ代わり立ち代わり90分間出場するという布陣で相手チームの脅威にはなったが、肝心の得点力自体はあまり高くなかった。
 今シーズンは、アデミウソンがあの愚行により契約を解除されてしまい、渡邊は横浜FCに移籍してしまうという残念な出来事はあったが、その横浜FCからは大きく成長した一美が帰ってきて、さらに広島からレアンドロ・ペレイラを獲得。昨シーズン途中からは事実上アデミウソンが不在だったということを踏まえると、昨シーズンからパワーアップした布陣になったと言ってよいのではないか。
 勿論、U-23で大活躍した天才唐山や、2種登録の中村もいる。彼らがレギュラー争いに絡んできたら、間違いなく脅威の前線を形成できるはずだ。
 さらに、両サイドの攻撃陣についてはかなり充実した。左サイドはベテラン倉田・右サイドには小野瀬という布陣が昨シーズンの基本線だったが、どちらもこなせる福田の存在もあるし、左サイドでは川崎が昨シーズン後半に大きく成長した。そして皆忘れてるかもしれないが、ファイター小野裕二もいる。彼がリハビリから帰ってきたら、左サイドの布陣はまあとてつもなくなる。
 そして右サイドには、サガン鳥栖からチアゴ・アウベスを獲得。昨シーズンいまいち力を発揮できなかった小野瀬にとっても大変大きな刺激になるだろう。しかも、ウェリントン・シルバ獲得という噂もあり、これが実現したら果たしてどんな攻撃的な右サイドが出来上がるのか。想像しただけでワクワクである。

 チームのコンダクターとなる中盤は、昨シーズン、かつての輝きを取り戻すどころかさらなる狂犬となって暴れまわった井手口が君臨する。昨シーズン後半は怪我で不在となってしまったが、今シーズンは開幕から暴れまわってボールを狩りまくるはずだ。
 その井手口とコンビを組む最右翼が、韓国代表チュ・セジョン。韓国稀代のパサーがついにガンバに登場である。ボールを狩るボランチと試合を組み立てるボランチという、サッカーの教科書に載るような理想のボランチコンビが高いレベルで君臨する中盤は、相手チームからしたら脅威でしかないだろう。
 そして忘れてはならぬ山本。ルーキーながら昨シーズン天才的な働きをした彼が、今年更なるレベルアップを魅せてくれるのが楽しみである。矢島は岡山時代から大好きだった選手だけに、昨シーズン軽いプレーが多かったのがすごく残念。鮮やかなパスセンスや攻撃参加能力が発揮されれば脅威になるはずだ。急成長を見せている奥野も忘れてはいかんね。

 DF陣は、まずCBはどう考えても強い。屈強な韓国代表キム・ヨングォンを中心に、かつてレアルマドリードとバチバチの1対1を繰り広げた米子北高校の誇り昌子、ロングフィードが魅力のキャプテン三浦、高さとビルドアップの菅沼と、強さと個性があふれるCB陣が揃っている。昨シーズンは若干不調になる選手も多かったが、コンディションが上がってくれば間違いなくJ1トップクラスの布陣と言えるだろう。
 SBについても、左サイドは藤春が相変わらず走り回る。年齢を全く感じさせない走りは脅威でしかない。成長してきた黒川にも期待したい。そして右サイドは、素晴らしい攻撃参加センスとクロス、相手への対応力と、サイドバックとして必要な要素を全て兼ね備えた高尾が君臨する。かつての加地さんの如く、安心して見ていられる布陣である。

 GKについては言うまでもない。東口という神が降臨している。さらに、山口からはが帰ってきたし、昨シーズンU-23で安定したコーチングを見せた一森だっている。まあ、充実している。

 …と、ここまで書いてくると、どう考えても今年の優勝はガンバだ、と思わせるような文章になってしまったが、不安要素も実は結構あったりする。

 もちろんその最大要素は久々に出場するACLという地獄。しかも、今年の予選ステージは集中開催ということで、長期間の海外遠征を強いられることになる。選手たちのコンディションが大いに不安になるのは当たり前のことである。
 そうなると怪我等のリスクも増してくるわけだが、そこで特に怖いのが、若干の層の薄さのある守備陣、特にSBとGKである。
 
 SBについては、右サイドがどう考えてもバックアッパーが弱い。ここを専属とするのは高尾であり彼の存在はものすごく大きいのだが、残念ながらここを主戦場とできる選手が他にいない。昨シーズンはU-23で活躍した松田陸を今年金沢に放出してしまい、補強もなかったためバックアッパーが不在なのだ。万が一のことがあれば、福田をここに回すか、奥野をここに回すか。あるいは三浦をこのポジションで起用するという選択肢もあり、決して選択肢がないわけではないのだが、残念ながらパワーダウンは否めなくなる。
 左サイドも若干の不安がある。藤春もあんなに走り回っているので皆忘れがちだろうが、もう32歳である。コンディション的に不安なところが出てきてもおかしくないだろう。このポジションには昨年までU-23でさんざん森下監督に鍛えられた山口という存在もいたのだが、残念ながらヴェルディに移籍。となると黒川がバックアッパーになるが、彼もJ1経験が乏しいため不安要素とはなる。

 GKについても不安がないわけではない。昨シーズン、何度もよぎった守備陣の不安をひたすらかき消してきたのは東口の神がかり的なセーブだった。東口が神がかっているのは昨年だけでなくここ数年平均的に神がかっているので、我々も感覚が麻痺してきているところではあるが、言うて彼も34歳。このハードスケジュールの中で少しばかり動きが落ちてくる可能性は十分に承知した方が良いだろう。バックアッパーたる林は、充分実力があるのは承知の上だが、残念ながら昨シーズンの山口では何故か出場機会に恵まれず、なんでレンタルしたんだ…としか言いようのない状態だった。そのような中で、試合勘に不安がある。もしかしたら一森がバックアッパー最有力なのかもだが、彼、J1経験はまだないため、その点では不安である。

 さらに、もう1点だけ不安を述べておくと、今シーズンの前線の守備である。昨シーズン、攻撃の選手たる宇佐美が後ろのポジションに下がって、組み立てに加わる場面がかなり多かった。これは批判的な声もあったが、個人的には悪くはない選択肢だと思っていた。試合を組み立てるセンスは間違いなくあるし、中盤に数が多いのは安心できる。何しろ、パトリックもアデミウソンも渡邊も前線でしっかり守備ができるので、宇佐美が前線不在でも十分に戦えたのである。
 ただ、今シーズン、特にレアンドロペレイラについては、確かに得点力はあれども、前線で守備をするイメージがない。そうなると、宇佐美が前線で守備をせざるを得なくなるわけである。宇佐美のタスクが過剰になってしまうことで、彼の持ち味が失われないか…という心配は実は大きいのである。宮本監督がどれだけ厳しくレアンドロペレイラに守備を仕込めるのか。ここが肝心だと思っている。

 いろいろと書いてきたが、いよいよシーズンが始まる。その高揚感は言うまでもないだろう。
 今シーズンはまだCovid-19の影響もあり、満員のスタジアムにはならないし、スタジアムで声を出すこともできない。俺自身も、今年は仕事の関係で相当忙しくなることも想定されるので、前半戦から夏ごろにかけての試合は、足を運ぶことが難しいかもしれない。いや、本当は去年こうなるはずだったが、打ち上げ花火の打ち上げが延期になったもんでねえ。

 でも、信じていたい。今シーズンのどこかでは、満員のスタジアムが見られることを。あるいは、声を出すことができるようになることを。当然、両者ともに叶うことができればそれは最高だ。

 今季最終戦、今年も吹田での試合になる。その場でシャーレを掲げながら、皆で肩を組んで大声で喜び合いながらチャントを歌いたい。そんな光景を夢見ることは自由である。

 激しい叫びを一つにして、大空にこだまさせよう。