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死んだら貨物?

葬儀会社に入社し、会社に慣れた数日。

「そろそろ電話とってみましょうか?」とセンパイに言われる。そこは元本屋、日々何本もの電話をとっていたし、問い合わせもお得意だ。

「搬送電話のときはこれ、聞いてね」

「ハンソウ?」・・・あ、ご遺体を運ぶことか。

渡された書式をみて今更ながら戸惑う。お迎え先・お送り先・宗旨・・・ええっと・・・。「どこで亡くなるか?」考えたこと、なかった!

考えたことなかった その1 「どこで亡くなるか?」

病院で死ぬということ

「お迎え先」って病院だよな。これまでの人生、ヒトの臨終に立ち会ったなんてそうそうないが、そういえば病院だった。だけと渡された紙には「自宅」という単語もある。あー、そうか、ヒトはどこで死ぬかわからない。自宅や施設で死を迎えることだって当たり前にある。(ホント今更、気がつく)

「お迎え時間って、どう答えるんですか?」

「病院で亡くなったらそこから処置に1時間くらいかかるから、だいたい亡くなって1時間後のお迎えでお伝えするかな?まわりの看護師さんに依頼者から寝台車を向かわせる時間を聞いてもらって」

病院で亡くなると「エンゼルケア」といってご遺体を拭いたり、病院によってはお風呂にいれたり、緩んだ身体から体液が漏れないように処置をしたり、死化粧をしてくれたり。対応はさまざまだが準備をしてくれる。

その間に遺族は葬儀社に電話をし移動先、自宅や葬儀をする場所を決めないといけない。病院によっては「葬儀社リスト」を提示してくれるところも多いらしい。あー、なんだか悲しむ暇もなく決めなきゃいけないんだ。

「え?あの、自宅で亡くなった場合、えっと、どうなんですか?」

自宅で死ぬということ

「自宅の場合はまず葬儀云々の前に、死亡診断書もらわないといけないから。かかりつけ医からもらえているか?急死の場合、警察に電話してもらって検案書かもらわないと」

「かかりつけ医がいないと、いきなり警察ですか?」

明らかに亡くなっている場合、救急車を呼んでも救急隊員は帰ってしまうらしい。医師以外は死亡宣告はできない。呼んだとしても警察へ連絡がいく流れになる。

警察が介入すると、事件性はないか調べるため基本そのまま、お風呂やトイレで倒れていても勝手に動かさない方がいいらしい。いや、突然死なら触りたくなるし、救急車を呼ぶかも。

事件性がないとわかれば、それから検案書。死因がはっきりしない場合は警察の施設で改めて調べた上、死体検案書が発行される。アンナチュラルとか監察医とか、頭に浮かぶ。「死体検案書」単語だけでもドキドキする。


旅先で死ぬということ

深く考えたことがなかったが、ヒトは病院や自宅以外でも死ぬことがある。出張先・単身赴任先・旅行先で死んだら・・・葬儀、どうするんだろう?

「例えば、私が旅行先で死んだら・・・え、どんな流れに?」

「まぁ、検案書もらってから、家族がどうするか、だよね」

旅先から地元に搬送してもらって地元で葬儀火葬。旅先で葬儀してもらって遺骨で帰る。旅先で火葬のみしてもらって遺骨で葬儀。

「え?遺体を運ぶ場合、こちらから迎えに行くんですか?」

多くの場合、旅先の葬儀社経由で搬送だけしていただいて地元で葬儀することが多いらしい。そりゃそうだ、時間もお金もかかる。

「めっちゃ遠いところで死んだら、寝台車料金がとんでもないですね!」

「陸送より空輸の方が安いこともあるよ」

「死んでるのに飛行機乗れるんですか?」

「遺体は貨物だから」

・・・衝撃。いや、冷静に。座席に座れる訳でもないし、そういえば海外で亡くなられた人の空輸ってみたことがある。


そして遺体はナマモノである

生きているということは熱があること。考えると不思議だ。熱があって腐らない。亡くなった人を触ると冷たい。そして硬い。そして遺体はナマモノである。ドライアイスを当てたり、冷蔵庫に入れないと腐るのだ。

海外でなくなったら「エンバーミング」といって火葬を行うまで遺体が傷まないよう加工する。都会だと葬儀・火葬までの時間がずっと先になる場合、エンバーミングすることもあるらしい。不謹慎な言い方だが「加工遺体」は長持ちする。お別れまでの時間が伸ばせるならそれも選択肢の一つだろう。

身体が機能不全になって呼吸が維持できなくなったら、ヒトは死んでしまう。思うと脆い構造だ。熱があって呼吸をしている限り、ヒトは温かい。

どこで亡くなるか、考えてこともなかった。

死んで冷たくなった自分を想像してみた。カチコチに冷たく腐っていく自分をみて家族は、今までみたことのない自分をみて、戸惑うのだろう。悲しみと戸惑いと現実感のなさにどっぷり浸ることになるのかもしれない。死んだ後のことはどうでもいいというと思う人もいるかもしれない。私は生きてる間に熱と会話を伝えることが自分らしさを遺すものかもしれないなぁと思う。

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