準公務員でありながら歌手を目指す道

0.始めに

以前より、大学時代の友人の話やアベプラの某コメンテーターの勧めからnoteを書くことに興味を持っていたが、自分の書く内容に興味を持つ人などいるのかと躊躇していた。しかし、SNSを眺めていると、多くの人がブログ感覚で気軽にnoteを書いていることを知り、この度書くことを決意した。

今回は初回ということもあり、自分だからこそ書けるテーマについて述べていく。転職を考えている人、準公務員が気になっている人、夢を追いかけたい人がいたら、是非読んでいってほしい。

1.準公務員になった経緯

まず、僕が準公務員になった理由を端的に説明すると“なんとなく“である。しかし現在は、なって本当に良かったと思っている。準公務員は存在があまり知られていないと感じているので、これから就活をする人、転職を考えている人の参考になったら嬉しい。

順を追って説明しよう。
約1~2年前、僕は就活を行う修士課程の理系大学院生で、菓子メーカーの商品開発職に絞り受験しまくっていた。結果はどこも不合格だったので、途中で志望する業界を広げ、なんとか3社から内定をもらうことができた。

1社目は地元の大手スーパーの総合職。条件は悪くなかったが、実家から離れたいという気持ちが第一にあったので、候補からは真っ先に消えた(筆者の地元は東北)。
2社目は大阪に本社がある中堅アパレルメーカーの総合職(販売ではなく本社勤務)。この中では本命。実は4月に大阪に本社がある某音楽事務所のオーディションを受け、オンラインでレッスン生として通うようになっていたことも、後押しの1つとなっていた(レッスン代を非常に多く取る事務所もあるので、事務所選びはお気をつけください。)。
3社目は現在勤務している独立行政法人の理系事務職(準公務員)である。ここについての詳細は後ほど説明するが、元々「ここなら応募締切にギリギリ間に合う」と父親に勧められたところであり、商品開発ができないのであれば理系職じゃなくていいやと考えていたので、行くつもりはなかった。
以上のように、僕は大阪のアパレルメーカーに就職すると、各社に内定辞退の連絡を入れるギリギリまで決めていた。

アパレル業界の現状を知っている人なら容易に想像できると思うが、当然両親・祖父からは猛反対に遭い、教授からも「ギリギリまでいろんな人と話して悩んだ方がいい」と諭された。
とりあえず、教授の言うとおりに友人に相談すると、自分の就職先の決め手は一番年収が高いところだと言っていた。やりたい業種・職種であれば、年収なんか関係ないと思っていた僕には、あまりに斬新な考え方だった。

大阪のアパレルメーカーは親切なところで、内定を貰った後、リモート面談を行ってくれた。いくつかの質問に答えていただいた後、時間が余ったので、ちらっと年収について訊いてみた(初任給は示されていたが、会社の平均年収は公開されていなかったため。)。すると、アパレルメーカーにしては高い方で日本の平均年収※1よりちょっと高いくらい、という返事が返ってきた。決して悪くはないが、せっかく大学院まで進学したのに※2、世の中の平均くらいしかもらえないのかと、“なんとなく“不満な気持ちが芽生えた。

※1 民間企業正規雇用の平均給与は、男性569.9万円(平均年齢46.9歳)・女性388.9万円(平均年齢46.8歳)(国税庁、2022)。
令和3年度分 民間給与実態統計調査
第8表
※2 平成28年度の大学進学率は全体のうち男子55.6%・女子48.2%(内閣府、2017)。
男女共同参画白書 平成29年度
Ⅰ-5-1図
※3 令和2年度の大学院進学率は大学を卒業したもののうち男子14.2%・女子5.6%(内閣府、2021)。
男女共同参画白書 令和3年度
Ⅰ-5-1図

調べてみると、国家公務員は日本の平均給与※3よりも高いらしい。基本的に準公務員の給与は国家公務員に準拠する。

※4 国家公務員の平均給与月額は41万3064円(平均年齢42.5歳)で(人事院、2023)、賞与を現行の4.40ヶ月分で計算すると平均給与は667.4万円。
令和4年 国家公務員給与実態調査
p.2

最終的に、僕は準公務員になる道を選んだ。理由は“なんとなく“給与が低いのが嫌だったからである。性差別的な意図はないが、もし僕が女性だったら違う結論を出していたかも知れない(周りの就活状況を見ても、男子学生は転勤を気にせず年収や職種にこだわっていたのに対し、女子学生は年収を気にせず勤務地(地元か都会)や業種にこだわっていた傾向が高かった。)。もっと言うと、理系を選び且つ大学院進学までしようとはしなかったと思う。

結婚相談所界隈ではよく、男性は女性の実年齢を重視し、女性は男性の年収等を求めると言われている(多少誤差はあるが、女性には30歳の壁、男性には400万円の壁がある。)。もちろん、昔からこの知識があった訳ではないが、年収の低い男性は女性から求められにくい※5※6ことを潜在的に知っていた。

※5 結婚相手の条件として経済力を重視・考慮する割合は、男性が48.2%だったのに対し、女性は91.6%だった(国立社会保障・人口問題研究所、2022)。
第16回出生動向基本調査
図表3-2
※6 年収別の有配偶率を見ると、25-29歳の女性は年収が150万円未満のとき及び700万円以上のときに高く、それ以外は年収との関係がなかったのに対し、25歳-29歳の男性は600万円以上700万円未満の60.3%をピークに年収が上がるにつれ有配偶率も上がった(独立行政法人 労働政策研究・研究機構、2019)。
若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状③―平成29年度版「就業構造基本調査」より―
図表1-4

ここまで聞いて、そもそも準公務員の試験に受かることが難しいのではないか、と思われるかも知れないが、僕はそう感じなかった。試験は一次試験(筆記+面接)と最終試験(面接のみ)であった。大学院の専門とは異なる分野だったため、1から勉強が必要だった。しかし、あらかじめ出題される試験問題の概要が提示されており(提示された中から2問選択する)、僕は日付が変わった試験当日の布団の上、移動中の新幹線の座席でしか勉強しなかった。一応地方の国立大学出身だが、普通自動車免許の筆記試験に1回落ちたことがあるほどの人間なので、とりわけ勉強が得意という訳ではない。面接も、受験に至る経緯を徹底して正直に話したくらいで、特に対策をした訳でもなかった。
HPを確認すると、受験倍率は男性7.8倍・女性4.8倍だったそうだが、公務員と併願している人もいるため、実際はもう少し低いと思われる。また、これは一般職の倍率であり、専門職の倍率はもっと低い。そして準公務員は、それぞれの法人において個別に試験を開催しているので、業種を絞らず複数受験すれば、合格可能性は上がる。

2.準公務員の待遇と職場環境

僕の働いているところでは、学部卒・院卒に加え、再就職組の人も多い。給与はおよそ前述の通りで、もちろん一般企業でより多く稼ぐ人はいるが、平均よりは高い。また、景気の変化による給与の変動が少なく、倒産リスクが低い。
残業は少なく、公務員宿舎に住むかアパートを借りて家賃補助を受けることができる。ちなみに僕は公務員宿舎に住んでいるが、築年数が経っていることを除き、近い・安い・広いと非常に快適だ。また鉄筋コンクリート造なので、防音性が高いことは歌手を目指す身として嬉しい。田舎であるため、自動車は必須となるが、自動車と電車を上手く乗り継ぐと、3,000円ほどで東京まで往復することができ、特に不自由を感じることがないどころか、むしろ便利である。
準公務員は公共性の高い業務を行っており、基本的には会社の利益を考えなくて良いので、心に余裕のある職員が多く、社内の雰囲気はとても良いように感じる。離職率は低く、有給も取りやすい。業務は通常体験できない(或いは体験しにくい)ことを行っている上、空いている時間に業務に関係のある専門雑誌や論文を読むことができるため、個人的には非常にやりがいを感じている。

今回紹介した内容はあくまで僕の例であり、他の法人にいる友人から聞いた話を踏まえると、必ずしもこの通りではないので、事前の確認は重要である。例えば、宿舎は単身者用があるところでは狭いし、残業時間は業務内容や本部・支部でも違う(公務員の兄から聞いた話も踏まえると、一般的には支部より本部の方が残業時間は長い。)。

3.準公務員と歌手の両立

僕はあくまで準公務員なので副業はできない。したがって、現在TikTokやnoteを更新しているが、この仕事を続けている限り、本業以外で収入を得ることができない。
しかし、それはデメリットであるのと同時に、メリットでもあると考える。お客さんに対して一円も要求することなく活動し、評価され、役に立つことができる。
僕にとっての音楽はあくまで自己表現であり、藝術である。ちやほやされたい訳ではないし、お金儲けしたい訳でもない(専業になることで、より多くの時間を音楽に割くことができるので、お金を取ること自体が悪だとは思っていない。)。

いつか専業になる日がくるかもしれないし、準公務員のまま音楽活動を続けているかもしれない。ある程度の収入を確保したまま、自分で収益化するタイミングを決められる(専業へ移行することができる)ので、いずれにせよお金に困ることがなく、将来の不安を感じることもなく、夢を追いかけることができる。もちろん、今の仕事は今の仕事として大事で、真剣に取り組んでいる。

4.最後に

準公務員でありながら歌手を目指す道。僕にとってそれは、安定の上の挑戦である。

5.参考文献

国税庁長官官房企画課(2022.9).「令和3年度分 民間給与実態統計調査」.国税庁.
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2021/pdf/002.pdf,(参照:2023-01-15)

国立社会保障・人口問題研究所(2022.9).「第16回出生動向基本調査」.国立社会保障・人口問題研究所.
https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/JNFS16gaiyo.pdf,(参照:2023-01-21)

人事院給与局(2022.9).「令和4年 国家公務員給与実態調査」.人事院.
https://www.jinji.go.jp/kankoku/kokkou/03kokkoulink/2021houkoku.pdf,(参照:2023-01-21)

独立行政法人 労働政策研究・研究機構(2019.6).「若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状③―平成29年度版「就業構造基本調査」より―」.独立行政法人 労働政策研究・研究機構.
https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2019/documents/217.pdf,(参照:2023-01-21)

内閣府男女共同参画局(2017.6).「男女共同参画白書 平成29年度」.内閣府.https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/pdf/r03_genjo.pdf,(参照:2023-01-21)

内閣府男女共同参画局(2021.6).「男女共同参画白書 令和3年度」.内閣府.
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/pdf/r03_print.pdf,(参照:2023-01-21)

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