宝塚歌劇『エトワール』あれこれ(2022年10月)

みのおエフエムで毎月第4週目にお送りするコーナー『今月のMyスポットライト』は大好きな舞台やエンターテイメントを熱く語る時間。
今月のテーマは「エトワール」。
宝塚歌劇独特のフィナーレで一際輝く「エトワール」について、思い出をまじえながら番組内で語ったものを文字化した。今月は、時間の都合上、番組内で語れなかったことも掲載する。
なお、芸名は敬称略で失礼する。


まずはエトワールについて。

宝塚歌劇団の公式サイトには
エトワール:オペラでいうプリマドンナにあたる歌手で、いわゆる「歌姫」を指す。
と書かれている。
宝塚歌劇団 公式サイト「これがわかれば、もっと楽しい。宝塚用語辞典」より引用)

とはいえ、普通の場面でのソロを歌っていてもエトワールとは呼ばない。フィナーレのパレード(出演者全員が大階段から降りてくる)のきっかけ、最初に登場する歌姫のことを特別に「エトワール」という。
 
大学のフランス語の時間に、エトワール(étoile)が「星」を意味する単語だと知って驚いた。子供のころから、公演プログラムで「エトワール」という役名を見慣れていたため、てっきり宝塚の用語だと思いこんでいたのだ。

ショーやレビューの最後に、大階段のセンターに立ち(実際には真ん中より少し上の段だと思う)主題歌のひとふしを高らかに歌い上げ、パレードの先導をするエトワールは非常に目立つ役だ。

私が初めてエトワールを認識したのは、月組の娘役 潮はるか。
まだ中学生だった私は、あまりに伸びる高音にびっくりして背筋が伸びた。
鳥肌が立つ歌唱だった。
私の記憶では、潮はるかの声は、まろやかというよりは、鋭く直進的な声だったように思う。ガラスが割れそうな。人間はこんなに高い声が出せるのか、と本当に驚いた。もちろん音程が正確であることは言うまでもない。
当時(ざっくり言って昭和)のエトワールは純粋に歌のうまさで起用されていたように思う。潮はるかは失礼ながら「美人」ではなかったと思う。ちょっと不思議な風貌の娘役さんだった。のちに衣装の任田幾英さんの奥様になられたと聞く。私にとって伝説のエトワールが退団後も宝塚歌劇と縁があることが嬉しい。

次に印象に残っているのは、花組の娘役 峰丘奈知。
雪組時代、平みち主演のバウホール公演『イブにスローダンスを』でヒロインを演じ、歌の上手い人だと認識したが、その後花組に組み替えとなって『キス・ミー・ケイト』や『ザ・フラッシュ』でエトワールを勤めた。少し艶っぽい声質で、高音が綺麗に伸びて、聴いていてスッキリ。
エトワールとしてだけでなく、『遙かなる旅路の果てに』の群衆の中で、一人高音部を歌っていたときの声量、迫力なども忘れられない歌姫だった。

1990年、花組『ベルサイユのばら フェルゼン編』で、純名りさ(当時の芸名)が初舞台生でありながらエトワールに抜擢された時には本当に驚いたものだ。
私は当時花組の大ファンだったので、下級生の顔も知っているつもりだった。しかし、フィナーレでエトワールが大階段を降りてきた時には頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになった。見たことがない顔の娘役だったからだ。たまたま友人と一緒に見ていたので思わず小声で「誰?」と聞いたところ「初舞台生」と短い答えが。
初舞台生がエトワール?そんなはずはない。だって、初舞台生は全員ラインダンス
を踊った後は、フィナーレで大階段に散りばめられた飾りのようにシャンシャン踊るだけが通常の出番ではないか。
イントロが終わるとエトワールは繊細ながら綺麗な声で、堂々と歌いはじめた。大階段には同期生である他の初舞台生がロケット(ラインダンス)の衣装でエトワールを囲むように立ち、音に合わせて揺れている。同期全員に守られながら一人ドレス姿で歌う初舞台生。それが純名りさだと知った。私がこれまで宝塚歌劇を見てきた中で、一二を争う抜擢だったと思う。

最後に、比喩ではなく、本当に鳥肌が立ったエトワールを挙げておこう。星組の千琴ひめか。現在の はいだしょうこ だ。2001年星組『ベルサイユのばら』のフィナーレで、アカペラでしかも通常より長く歌ったのだが、高音で澄み切った歌声、確かな歌唱力、圧巻であった。多分、客席で鳥肌を立てていたのは私だけではなかったと思う。もしよかったら実際に聴いてみてほしい。彼女を超えるエトワールはなかなかいない。


平成以降、なぜこの人がエトワールなのか、と思う公演がたまにある。また、私個人の好みとして、エトワールはいくら歌がうまくても男役ではなく、ソプラノの娘役に勤めてほしい。鳥の刷り込みのように、初めて意識したエトワールが娘役だったからそう思うのかもしれないが。
現代の日本で、もしかしたら一番男尊女卑ではないかと思う宝塚歌劇。
(正確には男役尊娘役卑)
堂々と、その場を圧するエトワールは、日頃報われることの少ない娘役さんのものであってほしい。


上にあげたエトワールの歌唱をYouTubeで聞いていただけます。
お時間がありましたら是非。
アップ主様、ありがとうございます。

●潮はるか 1976年月組『バレンシアの熱い花』

●峰丘奈知 1988年花組『フォーエバー・タカラヅカ』

●純名りさ 1990年花組『ベルサイユのばら』

●千琴ひめか 2001年星組『ベルサイユのばら』


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