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宝塚歌劇『ピンスポットライト』あれこれ(2022年6月)

みのおエフエムで毎月第4週目にお送りするコーナー『今月のMyスポットライト』は大好きな舞台やエンターテイメントを熱く語る時間。
今月のテーマは宝塚歌劇における「ピンスポットライト」。
スターを光り輝かせるスポットライトについて、思い出をまじえながら番組内で語ったものを文字化。
時間がたりず喋ることができなかった部分も含む。


まずはピンスポットライトについて。

特定の出演者に当てる照明。宝塚大劇場には9台のピンスポットライトがある。(客席情報のセンターピンルームに6台、その上部にあるトップピンルームに3台)。光の輪郭がくっきりとシャープな3kW(キロワット)機が3台、光の輪郭がフワッと柔らかくにじむ2kW機が6台。3kW機は主にショーで使用される。宝塚のピンスポットは、光の大きさや色を手元でコントロールできるように設計してある”宝塚オリジナル”だ。
(宝塚歌劇検定公式基礎ガイド2010 P41より引用)

● トップスターのピンスポットは格別
宝塚歌劇において、全てのものはトップスターを輝かせるためにあるといっても あながち間違いではない。それはスポットライトにも言える。9台あるというピンスポットはある程度スターにならないと当ててもらえない。トップスターの見せ場、例えば舞台上の主人公が衝撃的な死を迎える、といったシーンでは、一人に何方向からもピンスポットライトが当てられることがある一方で、大勢口で出ている人はピンスポットを浴びる機会はほとんどない。それどころか、舞台の端の方で踊る下級生には通常のライトすら当たらず、顔が判別しにくいくらい薄暗い中で踊っているようなこともままある。

ある時、下級生がダンスシーンで、誤って段取りの位置よりトップスターに近いところに行ってしまったことがあった。その際、トップスターが浴びているピンスポットの端の方をかすめるように踊ってしまったのだが「ピンスポットが当たった手の部分がカーッと熱く感じられた。スターさんのライトってこんなに熱いんだと思った」と語っている。もちろん、文字通りの高温ということではないだろうが、そう感じるほど、普段浴びている全体を照らすライトと、ピンスポットライトは違ったということだろう。

また、2014年宙組『ベルサイユのばら』の新人公演でアンドレを演じた実羚淳は、アンドレがソロで歌いながら銀橋を渡る際、ピンスポットを浴びた途端、あまりの眩しさに目が眩んで、自分がどっちを向いて立っているかわからなくなったと語っている。そのシーンでは舞台も照明を落としていて真っ暗、客席も真っ暗、アンドレ一人にピンスポットライトがあたっているのだ。歌いながら銀橋を渡らないといけないのだが、実羚さんは、自分が本当に銀橋に向かって歩いているのか不安になるほどだったというのだ。

トップスターはそんな強力なライトを全身に浴び、それを逆に跳ね返すほどの力を持っている。いや、ただ跳ね返すだけではない。自ら発光し、ピンスポットを増幅して客席に返しているように思う。それがトップスターの輝きだ。

●様々な色のピンスポットライト
昭和40年代から50年代、つまり旧宝塚大劇場の頃、お芝居の途中で歌が始まる場合、ピンスポットの色が変化していた。セリフの間は白っぽい光なのだが、歌が始まる時には薄いピンク色に変わるのだ。そして歌が終わるとまた白っぽい色に変わる。それに気がついてからというもの、オーケストラの盛り上がりと照明の色の変化で「来るぞ、来るぞ、歌が来るぞ」とワクワクしたものだ。

●この世のものならぬ白さ
1996年星組『エリザベート』は、同じ年の2月に行われた雪組の初演から1年経たないうちの再演だった。しかも、全編歌で紡がれるミュージカルを、はっきりいって歌が苦手な麻路さきに充てたことには驚かされた。しかし蓋を開けてみると、黄泉の帝王トートを演じる麻路さん の美しさが際立ち、評判となったのである。かくいう私もすっかり魅了されてしまった。
黄泉の帝王トートとして舞台に立った麻路さんは、洋物であるにもかかわらず、日本舞踊や歌舞伎などの白塗りの白粉(通称シャベ)でメイクをすることで、体温を感じさせない肌の白さを実現した。そしてトートに当てるライトも、通常のライトより白い光を当てていたと聞いている。

●ただひたすらゆらゆら揺れていた赤い花
2000年の月組公演『BLUE・MOON・BLUE-月明かりの赤い花』。トップスター真琴つばさの相手役は檀れい。
大変失礼ながら、真琴つばささんはダンスも歌も、ものすごく上手、という人ではなかった。ただ、元々かっこいい上に、自分をよりカッコよく見せるワザには相当なものがあり、ついつい引き込まれるトップスターであった。その相手役である檀れいさんも、ダンス、歌ともさしてお上手ではなかったが、あの美しさ。ビジュアル最高のトップコンビだった。
さて、このショーで檀れいさんの役は「赤い月」。あるシーンでの檀さんは赤いドレスを着て、ただユラユラ揺れているだけだった。そういう振り付けだったのだが、最初から最後までただひたすらゆらゆらしているのでびっくりしたことを覚えている。その際、赤いドレス姿の檀さんには赤っぽい色のピンスポットが当たっていたような……。
「これをダンスと言っていいのだろうか」と呆れる反面、なんて綺麗な人なんだろうと感心してしまう、なんともいえないシーンであった。

●ピンスポットライトからはみ出す手足の長さ
1988年から3年間花組トップスターだった故 大浦みずき。彼女は人一倍手足が長かった。1990年花組『ベルサイユのばら フェルゼンとアントワネット編』で大浦さんが演じたのはフランス王妃マリー・アントワネットの恋人であるフェルゼン。芝居のラストは、断頭台に続く階段に見立てた大階段を登っていくアントワネットと、その手前で悲しみに沈むフェルゼンという構図だった。このシーンでフェルゼンは、シュテファンという人形を持っている。シュテファンはマリー・アントワネットが故国オーストリアからフランスに輿入れしてきた際、オーストリア製のものを全て放棄するように言われ、泣く泣く手放したもの。オーストリアからアントワネットの目付け役として随行していたメルシー伯爵は、シュテファンを密かに預かっていたのだが、処刑が決まってしまったアントワネットに返し、その心を慰めようとした。シュテファンは最終的にフェルゼンの手に渡り、ラストシーンになるわけだが、舞台稽古で大浦さんが「王妃さまぁぁ」と叫び、両腕を広げたところでダメ出しが。
「思い切り手を伸ばさないで。(腕が長すぎて手に持った)シュテファンがピンスポットライトの外に出てしまう」
何気なく腕を伸ばしていた大浦さんは、以来、ラストシーンではちょっと肘を曲げ気味にしてシュテファンがちゃんとピンスポットの中に入るよう配慮していたらしい。

●就職サイトに宝塚歌劇の照明係募集記事が
2022年3月15日のマイナビサイトに、株式会社 宝塚舞台の募集記事を見つけた。
それによると、業務オペレーションはモニター画面を見ながら、一人で3台のピンスポットを操作すると書かれている。いくらスイッチ一つで動くとはいえ、一人で3台というのはすごい。
また、初日までの仕事の流れや公演日の仕事の流れなど、興味深い内容が記載されている。公演当日にライトを当てるだけが仕事ではなく、準備段階から作品作りに携わっておられることを知って感動した。
次回観劇の際には、照明スタッフにも想いを寄せて舞台を見たい。

<公演立ち上げの流れ>
・演出プランナーとの打ち合わせ・稽古見
・吊物電飾の電源の仕込み・照明機材の仕込み
・シュート・明かりあわせ
・舞台稽古(生徒をいれての明りやキッカケの調整)
・GP(本番前の通し)
<公演日の1日の流れ>
・ミーティング・公演準備作業・機材点検
・次公演の準備・仕込み作業
・公演のオペレーション
マイナビ2024より引用



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