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画文の人、太田三郎

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このマガジンで取り上げるのは、明治大正期にスケッチ画や絵物語で活躍した太田三郎という画家である。洋画家として名をなしたが、わたしが関心があるのは、スケッチ画の画集や、絵葉書、伝承…
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2023年7月の記事一覧

《新古小説十二題(二)》田山花袋『蒲団』:画文の人、太田三郎(11)

1 芳子の帰郷  『ハガキ文学』第4巻第2号(明治41年2月1日)の口絵木版、《新古小説十二題》の2回目は、田山花袋の『蒲団』を取り上げている。  『蒲団』は、雑誌『新小説』の明治40年9月号に発表された。太田はこれを読んで、《新古小説十二題》に取りあげたものと推測される。  中年にさしかかり人生に迷いを感じ始めている竹中時雄という小説家が『蒲団』の主人公であるが、文学を学びたいという希望を持つ横山芳子という若い女性を下宿させることから、単調な生活に波乱が起きることにな

太田三郎の絵葉書 《もも草の》

 太田三郎の絵葉書を紹介しよう。   1 雑誌『文章世界』の付録  宛名面の切手部分の表記で博文館の雑誌『文章世界』の付録であったことがわかる。『文章世界』は博文館発行の文芸投稿雑誌。明治39年3月創刊、大正9年12月まで、臨時増刊を含め全204冊を発行した。  太田は『ハガキ文学』で活躍した。『ハガキ文学』の発行元、日本葉書会は博文館の系列であり、その縁で太田は、博文館発行の『文章世界』や『女学世界』の付録絵葉書の絵を描いている。  付録絵葉書は雑誌巻頭に挟み込まれ、ミ

太田三郎の絵葉書 新収品から

 新たに太田三郎の絵葉書を入手したので紹介しよう。  使用済みのものであるが、花をモチーフにしたシリーズの1つであろうか。  花をモチーフにした絵葉書は、過去記事《絵葉書作者として:画文の人、太田三郎 (9)》で何枚か紹介した。 1 「郵便はがき」という表記について  今回紹介するものは、スミレを描いたものと推定される。   発行は日本葉書会である。宛名面に「日本葉書会製」とある。    葉を省略してスミレの花をのみ描いたものだろう。花の青紫色は褪色してしまっている。

《新古小説十二題(一)》森林太郎訳『即興詩人』:画文の人、太田三郎(10)

1 《俗謡十二題》と《新古小説十二題》  太田三郎は、文学と美術を交流させる試みを、雑誌『ハガキ文学』の木版口絵の2つのシリーズ連載で実践している。  1つは《俗謡十二題》といい、小唄・端唄など歌謡の一節に絵をつけたものである。歌謡の一節は、欄外に活字で示されることもあれば、絵の中に組み込まれていることもある。  第4巻第1号(明治40年1月1日)から、第4巻第13号(明治40年12月1日)まで12回連載された。ただし、第4巻第6号(明治40年5月15日)の増刊『静想熱語