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大洗枝道案内 大洗文学全集 第4巻おまけ

 某ガールズ&パンツァーファンの御多分にもれず、私も大洗観光がすっかり癖になってしまっていますが、あいにくそうそう気軽に足を伸ばすということもできず、じゃあせめてということで、エッセイや小説に大洗が登場するものを読んで高ぶる欲求を抑えようとしています。
 ただ読むたびに、うらやましいうらやましいうらやましいねたましいうらやましいと感情が渦巻きまして、「もしかして逆効果なんじゃないの?」と思うこともままありますが、それはそれといたしまして、再訪がかなった際には、文章で読んだ個所がどういうところなのか、足を運んでみるのも楽しみのひとつになっています。
 そんな感じで、実際に大洗を舞台とするミステリと作中描写の場面を以前に紹介させていただきましたが、

 その際には書ききれない、というよりは「大洗が登場します」と公言するのもどうかなあと思えたために割愛したものがありました。
 とはいえ、他にいい機会もないでしょうから、以前の「大洗迷宮案内」のオマケとして今回改めて書き出させていただきます。
 もちろん、あくまで大洗が大きく扱われていないというだけの話ですから、作品自体の内容や評価とはまったく無関係ですので、そのあたり念のため。

愛川晶「芝浜もう半分」

「大洗の名前が出てくるものの……」のうち一つ目は、愛川晶「芝浜もう半分」です。
 昭和50年代を舞台に、名人八代目林家正蔵が探偵役となり、落語の演目をなぞるような事件を解決に導いていく「高座のホームズ」シリーズ。その中編連作『芝浜の天女』に収録されている1編となります。

愛川晶『芝浜の天女』(中公文庫、2020)

 本編の語り手として登場する落語家三光亭鏡治は、妻を自分には過ぎた相手と惚れ込みつつも、寄り添うこととなった奇妙な縁に引っ掛かりを覚えてもいた。やがて彼女の過去がひとつひとつ明らかにされていくつれ、思いもよらなかった連鎖が鏡治を巻き込んでゆく。その行き着く先は喜劇か、はたまた……

 娯楽のひとつとして落語が知名度と注目を持っていた時代を扱い、ミステリと落語を組み合わせてあたかも新たな噺を展開させるようなシリーズと聞けば、両方とも大好物な私としましてはたまらないところに、そこにさらに大洗が登場すると聞いては、もうワクワクが止まりませんよ!

 結果としましては、登場人物の一人が大洗で働いていた経験があるという設定のみで、特に舞台として登場することはありませんでした……

 まあ、これは教えてもらったことを話半分に聞いて、よく調べもせずに読みはじめた私が悪いんですけど。

西村京太郎『十津川警部 鹿島臨海鉄道殺人ルート』

 池袋警察署に勤める刑事横井哲は、その年に開催された全国剣道大会で見事優勝を果たし、祈願をかけた鹿島神宮にお礼参りを行うことにした。ところがその帰り道、水戸で突発的に起こった乱闘騒ぎでの死亡事故に巻き込まれてしまう。その数日後、上野寛永寺では有志による歴史研究会のフィールドワーク中に、羽織袴装束の男が真剣で斬りかかるという事件が発生する。一見なんのつながりもない二つの事件だったが、そこには剣の道にまつわる因縁が横たわっていた。

西村京太郎『十津川警部 鹿島臨海鉄道殺人ルート』(小学館NOVELS、2010)

 ご存知十津川警部シリーズです。
 渡瀬恒彦ですね。

 鉄道あるところに十津川警部ありという印象通り、しっかりと鹿島臨海鉄道も取り扱われていました。
 タイトルも直球ですし、これは水戸から鹿島神宮までの路線を濃厚に扱ったトラベルミステリに決まってるじゃないですか!

 まさかメインがほぼ東京とは思わないですよね……

 大洗は何度か本文中にも登場していますし、十津川警部も訪れています。
 ただ、

 横井は、終点の水戸まで、行くつもりだったのだが、途中で気が変わって、三つ手前の大洗で、電車を降りてみることにした。
 大洗は海に近く、大型のフェリーが発着する港がある。
 子供の時、横井は、そのフェリーが見たくて、大洗で降りては、港まで、よく歩いていったものである。
 横井は、子供の頃を思い出しながら、港まで行き、停泊している、一万五千トンクラスの大型フェリーを見たあと、バスで、水戸に向かった。

 冒頭のこの場面が最も描写に文字数を割いているのですが、大洗行かれた方はご存知だとは思うのですけど、大洗駅からフェリーターミナルまでって結構距離あるんですよね。のんびり歩いたら半時間はかかるくらい。

 その間の描写がすっぱり抜けてるんです。で、特に海やフェリーを見ての感慨もなく、ついでに言うとこの寄り道が別に後の物語展開にもつながるわけでもなかったり……
 例えば、以前に別のオマケ回で紹介した椎名誠の『あやしい探検隊 北海道乱入』みたいに、北海道へ渡るフェリー利用するために大洗まで車で来たっていうのなら、フェリー港しか描写なくてもわかるんですが。

『あやしい探検隊 北海道乱入』(角川文庫、2014)

でもやっぱり、せめてマリンタワーくらい書いていてほしかった……

 その後、十津川警部にいたっては、大洗駅に隣接している鹿島臨海鉄道の本社を訪れるだけですので、駅から外へ出ることすらありません。
 さすがにこれで大洗舞台にしているとするのは憚られる。
 そう判断したのも、そんなに無理のある話じゃなかったと思うんですよね。


 そんなわけで、前の大洗を舞台とするミステリ紹介に、どうしてこの2作を組み込むことができなかったのか、ご理解いただけたのではないでしょうか。

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