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樂翠亭美術館 ~White or Green〜

地方に住んでいると、時々東京が羨ましくなる。都内の美術館で面白そうな企画展が開催されたとしても、北陸からでは「ちょっと行ってみるか」とはいかない。何せ相応の時間と金と体力を消費させられるのだから。1回の上京で得られる楽しさの最大化すべく、他に梯子したい美術館やギャラリーを探すなどしてようやく「東京さ行ぐだ」と決心するのだ。だからかがやきでの2時間ちょっとの移動中、自分が投じたリソースを思いながら「東京の人はこんな手間かけずに沢山の美術館を巡れるんだろうな」などと羨むこともある。

とは言え隣の青い芝生には別の悩みが存在する訳で、擬似引っ越しがてら23区内における今と同程度の物件などを探してみると、お家賃は最低でもら現状の3倍以上。港区女子なんて夢のまた夢。それならグランクラス乗った方がマシだわ。

結局のところ、私は今の街に満足してしまっているのだ。確かに東京や京阪神と比べれば文化施設の質も量も貧弱である。しかし地方にだって面白い美術館は探せば案外存在する。例えば以前取り上げた島根県安来市の足立美術館。金沢の21世紀美術館、岡山の奈義町現代美術館なども有名だ。しかしながらこういう美術館は、都市部の愛好家は存在を知っていても中々訪れた事がなかったりする反面、地元民でも美術鑑賞に興味がなければ存在すら知らなかったりするものである。

富山市の樂翠亭らくすいてい美術館もそういう館の1つに含めていいだろう。同館は先に名前を挙げた3館に比べて小さく、知名度も低いと言わざるを得ない。ですが私はこの美術館が大好きなのだ。今回はそんな樂翠亭美術館について、少しでも多くの人に知ってもらえればと思い、紹介の真似事などを試みるのである。

同館は富山駅北口徒歩10分くらいに位置しており、周囲を名前の通り緑に囲まれている。現代工芸、特に陶磁器に力を入れているようで、鯉江良二や黒田泰蔵から加藤委、内田鋼一、新里明士などまで現代陶芸にスポットを当てた様々な企画展を開催している。ただし開館時期は1年のうちでも限られており、いつ行っても何か見れるという訳にはいかない。

同館最大の特徴は、日本家屋を転用した館内に作品を剥き出しで展示していることだろう。美術館といえば無味乾燥な白い壁の印象があるかもしれないが、それは「作品だけを純粋に鑑賞する」という意図の下でそうなっているに過ぎないのである。作品を他の作品や展示環境と接続することによって生まれる面白さを見せようとするなら、白い箱が全てではないのだ。ましてや茶道具や軸装された書画のように取り合わせて楽しむものであれば、こういう展示方法の方が向いていると断言して差し支えないだろう。


伊藤慶二『剣』および『人』
飾られている場所は床の間
今日においては鋼の刀も陶器の剣も人を斬ることはない


新里明士『translucent transform』
光は波なのか粒子なのか


茶室碧庵にて 七人の茶碗
お茶の飲みにくそうな形をしていても茶碗なのだ


桑田卓郎『茶碗』
上の写真右奥の方にある黄色い茶碗がこれ
舐め回すようなガチ恋距離でご覧ください


先日も同館を訪れ、開催していた企画展「伊藤慶二と薫陶を受けた作家たち」を見てきた。トップ画像を含め上に掲載した写真はその時に撮影したものである。展示作品としてはオブジェ陶が中心で、その他にいくつか茶碗や食器などもあるといった感じであった。人のあまりいない時間帯ならば作品の前に腰を降ろしてじっくりと鑑賞することもできるだろう(あまりに近過ぎたら係員さんに注意はがされるだろうけど)

とは言え、この独特な展示方法は周囲からの影響に邪魔されることなく作品そのものを鑑賞するには向いていない。そういう方は同館から歩いて十数分の富山県美術館や、お隣石川県の国立工芸館の方が楽しめる。しかし、作品の存在する空間を楽しんでみたい、と思うならば樂翠亭美術館はあなたをきっと飽きさせないことだろう。

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