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博士論文 中間発表ーその研究は誰を幸せにするのかー

2015年4月に入学して、気づけば6年半…。
合間に海外赴任などによる五月雨式に4年半の休学を挟んでいるので、実質的な学びとしては2年目の終わり。このタイミングで、ようやく研究の中間報告を行いました。

所属する慶應義塾大学メディアデザイン研究科後期博士課程においては、学位取得の9ステップのうちの2ステップ目。まだまだこれから。

この発表に対する質疑応答で非常に気づきが多かったので、改めて学びを深めるべく、今回の発表とその後の質疑応答を整理することにします。

現時点における研究テーマ

4月から6月にかけて設定していたテーマは「マルチユースを前提としたコンテンツの企画制作のプロセス及びそのマネタイズの構造の解明」でした。

この問題意識をベースに、その後の主指導教官の砂原秀樹先生からのご指導を踏まえ、対象をより限定したテーマにしました。

現状は(そのままを示すことは、研究過程ゆえ避けますが)「メディア業界の特定の業種におけるコンテンツの新たな制作・伝送のプロセスとそのマネタイズの可能性の解明」としています。

発表内容

研究の概要は「現状、研究対象は、ユーザーにコンテンツを好まれているものの、コンテンツはリアルタイムでかつ特定のデバイスでしか視聴できなかったり、一方的に送られてくるという制約があるから、接触時間の減少や、広告収入の低迷という状況が生じていることについて、インターネットを活用した対応策を探求する」というものです。

これについて、方向性、概要、今後の研究の流れについて報告しました。
その後、副指導担当の大川恵子先生、ご同席の杉浦一徳先生から、次のようなご指導をいただきました。

質疑応答① 研究の型に対する認識

ー質問
アクションリサーチをどのようなものとして捉えていますか?」
質疑応答は、大川先生のこの質問から始まり、その後のコメントに続きました。

ー質疑応答の前提
我がKMDの論文はリアルプロジェクトを通じて得た知見を、次の4つのいずれかのカテゴリーで書くことが求められます。

a) 科学・工学(Science / Engineering)
b) 社会科学・人文科学(Social Science / Humanities)
c) アクション・リサーチ(Action Research)
d) デザイン(Design)

よって、修士課程の皆さんは修士論文の執筆に入る際の「論文の書き方」の講義の中で、それぞれの論文の「特徴」を学びます。僕は修士は別の大学院(早稲田大学商学研究科(早稲田大学ビジネススクール:WBS))だったので、修士の講義をオンデマンドで受講し、この型を理解しました。その上で「アクションリサーチ」による論文の計画を進めています

なお、その講義におけるアクションリサーチは、Kathryn Herr and Gary L. Anderson, The Action Research Dissertation (2005)を踏まえ、次の通り説明されていました。

1.The inquiry research done by or with insiders to an organization or community
2.Whom is the research is conducted towards? (cannot be to or on themselves)
3.What action cycles process that organizational or community members have taken, taking, or wish to take

具体的なaction cycles process は次の通りです。

1.Develop a plan of action cycles
2.Act to implement the plan
3.Observe effects in the context
4.Reflect effects for further planning 

ー回答

上記のアクションリサーチのあり方を踏まえ、僕はこのように回答しました。

研究対象とユーザーとの関係において、ユーザーに対し今までとっていなかった行動をとり、その結果、ユーザーの態度がどのように変容し、かつそれが研究対象にとって望ましい結果を得られるか、を実験・調査し、結論を導くもの。

ーコメント

特定の研究対象にとって良いかどうか、あれば、特定の対象の事業として取り組めばよい。特定の研究対象での実験で成功することが、悪いことではないが、アクションリサーチとして成立させるには、内容を抽象化し、その成功事例を論文にした時に、その結果が誰に役に立つのかをはっきりさせる必要がある

アクションリサーチでは、まずフィールドの定義と分析を行うこと。
チャレンジがなぜ大切かを整理した上で、チャレンジを記録し、観察し、どういうシチュエーションにある対象にとって大切な知になるか、を示すこと。

質疑応答② 研究対象

(コメントは続きます)

どういう特徴のある対象についての研究なのかを、特定の企業名を上げずとも説明できるようにしておくとよい

その対象には、どういう問題を抱えており、解決方法が想定されるのか
その存在の前提として、現状想定されているものを取っ払えないのか。それを取り払えば、市場を限らずにすむ可能性もある。しかし、そのアプローチは取らないことには、何らかの理由があるはず。

現状をどこまで所与とするのか。どこまでristriction(制限)を外せるのか、外せないのか、というdefinitionが、まずあるべき

質疑応答③ 研究の進め方

(さらに続きます)

研究なので、最終的にその論文をどんな人が読むと幸せになるのか、をはっきりさせること。

今あるristrictionは、本当にristrictionなのか。どれだけ大変なristrictionなのか。それを外せないから、今のような状況なのではないか、と言ってもいい。そのristrictionを外せないから、新たなイノベーションは出てこないのではないか。

研究としてのしつらえとして、研究対象のどこに制約があり、どこに挑戦があるから、こういうところにアクションをとり、リサーチするか、を研究骨子としてまとめること。どこが研究になっていくのか、価値をはっきり。

枠組みを決めた上で、先行研究を。どの解を見つけたいのかを、もっと共有したい。

質疑応答④ 研究対象の今後

ーここで杉浦先生からも一言

研究対象が「10年後にどうなるのか?」と思う。10年後にどう解決し、さらにどういう問題が生じるかが気になる。今はいい、アドホックでその場しのぎにならないとよいが…。

ー最後に主指導教官の砂原先生より

この問題は、10年間あぐねている。その理由がわからないと解決しない。このままいくと、気づいたら誰も使わないインフラになりかねない。インターネットからすると、その対象の持つ特徴への憧れもある。ristrictionから離れることは難しいと思うが、いろいろと検討できるだろう。

まとめ

「その論文をどんな人が読むと幸せになるのか」…これを考えるためにも、対象を明確にし、制約を整理した上で、挑戦を記録し、そこからの気づきをまとめなければ、と改めて思いました。

今回のご指導のポイントは、その特定の研究対象によりすぎないように、そして、その対象に現存する「制約」は本当に外したり捨てたりできないものなのかをよく考えよ、の2点だったと思います。

「まだまだ」のこの段階まで、なんとか来ることができたのは、入学時からお世話になっている中村伊知哉先生石戸奈々子先生、そして、お二人がご指導くださる「ポリシープロジェクト」の皆さん、そして何より、この半年にわたりお忙しい中、1ヶ月に1度、直近では2週間に1度のペースでお時間をいただきご指導くださっている砂原先生のおかげです。ありがとうございます。

今回の発表を終え、改めて、このタイミングで、このテーマで、このように研究できるありがたさを痛感しております。引き続き、よろしくお願い申し上げます。

追記

指導教官から、テキストでフィードバックをいただきました。
引き続き、このご助言を踏まえて、研究を進めます。

いろいろこれまで挑戦してきたにもかかわらずできなかった理由がどこかにあるわけで、それは何かをまずは調べておくべきだと思われる。 

プロジェクトプランから一歩進んだ研究の骨子を作ってください。
誰がこの論文を読んだら幸せになるのか?ということを整理してみてください。




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