好きなものを好きと言わなければならないか?

わたしは好きなものを好きと言うこと、発信することがあまり得意でない。得意でないし、あまりしないようにしている。特に好きなアーティスト、お気に入りの本、映画、アニメ、こと「作品」に多いかもしれない。でも、美味しいごはん屋さんなんかを紹介するのは全然苦にならない。

なぜだろう、と考えてみると、たぶん「好きなものによってグループ化されること、ラベル付け、レッテル貼りされること」が怖いからだと思う。

例えばAという今流行りのアーティストが好きだといえば「ミーハー」だと思われるかもしれない。仮にデビュー当時から応援していたとしても。

例えばBというあまり万人受けしないアニメが好きだといえば「特殊な趣味を持った人」だと思われるかもしれない。仮にそれに出てくる声優が好きだったり制作会社が好きだとしても。

つまるところ、自分の意図しない形で他人に勝手に自分を「こういう人間」だと思われる、時に誤解されることが好きでないのだと思う。でも最近、「このままでいいのかな?」と思うことが何度かあった。好きなものを好きだということのメリットに気付くことがあったからだ。当たり前のことかもしれないけど、気づいたことなので、少し書き留めてみることにする。

1.自分の好きなものを好きな人に出会える

自分の好きなものを内に秘めたままでは、それを共有する機会も得られない。知らないだけで、あなたの周りにもあなたの好きなものを好きな人がいるかもしれない。同じバンドが好きで、一緒にライブに行ってもっと仲良くなれるかもしれない。お絵描きが趣味の人が見つかって、一緒に創作活動を楽しめるかもしれない。わたしだって好きなものを発信するのは苦手だけど、もし共通の好きなものがあるならもっとその人と話してみたいと思うし、好きなもので盛り上がりたいとも思う。

2.自分の周りに自分の好きなものを好きな人が増える

これは、1と似ているけれど、自分が好きなものを好きだ、と発信することによって、周りの人がそれを好きになる可能性があるということである。簡単に言ってしまえば「布教」だ。これが苦手だ。コンテンツにとって新規の顧客が増えることは喜ばしいが、古くからそれを好きでいる人にとって、時折新規の顧客が鬱陶しく感じられることがある。老害古参というやつである。根がめんどくさいオタクなのだと思う。でもやっぱり、布教は大切である。特にまだあまり世間に知られれていないアーティストなんか、「自分だけが知っている特別感」が好きなのだけれど、真にそのアーティストのことを応援するなら、今後も活動し続けてほしいのなら、真っ先にファンがすべきことはそのアーティストを広めることのはずだ。自分が十分に貢げないのなら、貢げる人の母数を増やすしかないのだ。それが回りまわって自分が好きなものが続いていくということなのだ。至極当たり前のことなのだけれど、今自分の好きなアーティストが「いつ辞めてもおかしくないアーティスト」と「実力があるのに、あまり世に知られることなく辞めてしまったアーティスト」の2組であることに気付いてしまった。後者の新曲にもう出会えないことを憂いてみるが、よく考えれば前者がいつ後者になってもおかしくないのである。いつまでもいると思うな推しと親。

3.周りに好きなものを好きだと知ってもらえる

当たり前すぎるが、その当たり前はどんな風に役立つのか、考えたことはあるだろうか。現金な話ではあるが、例えば好きなものがよくわからない人と、好きなものが分かりやすい人だったら、後者にプレゼントをあげやすい。あげる側からすれば「これが好きだからこれをあげれば喜んでもらえるだろう」と思える人への方がプレゼントをしやすいはずだ。少なくとも私はそうだ。私は人にプレゼントを贈るのが好きだ。人に喜んでもらうのが好きだ。もっと言ってしまえば仲が良い好きなものが分かりにくい人よりも、仲はそんなによくないけど好きなものが分かりやすい人がいたら、もしかしたら後者にプレゼントをあげてしまうこともあるかもしれない。プレゼントだけではない。例えば夢は口に出したほうが叶いやすい、というのと同様に、「Cという小説家が好きだ」と公言していればTwitterのエゴサーチで目に留まることがあるかもしれない、Cはあなたの友人の知り合いかもしれない。そこからつながることがあるかもしれない。だけど、好きなものを好きと言わない限りそんな機会を、可能性を0にしてしまうのだ。そりゃあ大層もったいない。私は発信するのは苦手だけど、つながることが嫌いなわけじゃない。

ここまでで3点のメリットについて話してみた。何も特別なことは言っていないが、こうやって挙げてみると、話さないことが自分にとって損であるような気も結構してきた。話さない理由は漠然と自分のポリシーみたいなもので、きっとそういう風に感じる人は自分以外にもいるのだろうけど、今こうやって書いてみると「人にどう思われるか」を気にして、自分に得られるはずのメリットをどぶに捨てるのもなんだか勿体ない気がしてきた。

これからは、少しずつでも自分の好きなものを好きだと発信していこうと思った。

それは、自分の好きなもののために。そしてそれを好きな自分のために。

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