見出し画像

アラサー、全力疾走す。

前編:息子の運動会はこちら


一つのテントの下にギュウギュウに大人たちが詰め込まれている。
全ての演目を終えた園児たちは、少し大きめの中央テントに移動してワイワイキャッキャと園庭を見つめている。
最後の演目は、
「 保 護 者 リ レ ー 」。


息子のクラスは他のクラスよりも人数が少ないらしく、ご両親お二人とも走っていただけませんか、と前日に先生から打診されたものの、夫に聞くと「わしゃ走ったら召されてしまうでよ」と断られた。我が家はまぁまぁ年の差夫婦なのでそう言われたらもう黙るしかない。


というわけで、自分がリレーで走ることになった。最後に全力疾走したのなんて大学入学してすぐの運動会以来なので、10数年ぶりに走ることになる。
アラサーの筋繊維のもろさ…こわいなーこわいなー。(cv:稲川淳二)


入場し、クラス別に分かれ、走る順番を挙手制で決めていく。ここはあんまり順番に影響されない中頃の辺りで…と思っていると、やっぱりみんな同じ考えだったらしく、夕方の半額シールが貼られたスーパーの惣菜のようにどんどんとゼッケンがとられていく。あぁ…。(気弱)

アンカーは元陸上部のパパさんがつとめることが決まっていたので、結局最後から3番目になってしまった。あぁぁぁぁ…。(絶望)


同じクラスの三つ子ちゃんのパパは、広い背中に連番のゼッケンを3つつけている。おぉ…そうか…。お子さんが3人だから3周走るのか…。頑張ってください…。


先生たちの「よーい…どんっ!」の声と共に最初のランナーのパパさん達が走り出す。じゃんけんに負けた息子のクラスはアウトコースだったので、3クラス中3位でスタートを切った。


保護者リレーはここからが恐ろしい。

なにせ0歳から6歳までの子どもたちのために作られた園庭は、大人には手狭すぎる。


カーブ角度がえぐい。


本来なら足が速いであろう、チーターのようにしなやかなフォームをしたパパさんたちが、カーブで曲がりきれずに豪快に転けてゆく。そしてそれを避けられる十分なスペースもないので、後に続くパパさんママさんたちもよろけて失速していく。


子どもの頃、なんで大人のリレーはこける人が多いのだろうと思っていたがなるほどこういうことか。親の心子知らずとはまさにこれ。違う

抜いたり抜かれたり、デッドヒートを繰り広げながらついに自分の番になり、白線の上に並ぶ。息子のクラスはまだ3クラス中3位のままだ。


他のクラスの子達はもうランナーが走り出している。
たまに迎えの時間が一緒になるママさんから「お願いします!」と、バトンを受け取り、走り出す。
カーブで転けないよう、空いた手の方でバランスをとる。

園児たちのテントの前を通る時、多くの園児たちの声援の中で「ママがんばれーっ」と決して大きくはないけれど少し舌ったらずな聞き慣れた声が聞こえた。

頑張るよ。
ママ頑張る。
とりあえず転けて息子が恥かかないくらいには頑張るからね…っ!
テントの方を向いて笑顔でピースを送ると、園児たちもぴょこぴょこ飛び跳ねながら「がんばれーっ」とダブルピースを返してくれた。


ラストの直線。眼差しを次のランナーが並ぶ白線に向けると。



バトンを渡すお父さんが……おらへんやないか。



え。うそじゃん。
私2回走る予定じゃないんですけど。
ゼッケンも1枚しかつけてないんですけどぉ。


先生たちは「もう1周!すみません!もう1周!」と大きな声で謝りながらぐるぐる腕を回して走れとジェスチャーを送ってくる。
よくわからないが、どうやら次走る予定だった人が急に走れなくなったらしい。


なんっっっでやねん……っ。



とにかくもう1周走る。
バトンの受け渡しがない分、タイムラグがないので年中さんのランナーを追い越す。客席でちょっと歓声があがった。お。ママやったよ息子。

園児たちの待機するテントの前を通ると「○○くんママがんばれーーー!」と黄色い声援が聞こえた。

おぉ。認知されている。
でもごめん。
アラサーにはもう手を振る余裕はないよ。

保護者席の前を通ると「がんばれママー」とベンチに腰掛けて一眼レフをこちらに向けてひらひらと手を振るゆるーい夫の声がした。いつの間にか同じ保育園にお子さんを通わせている会社の人たちも集まってこちらにスマホやカメラを向けて「○○ちゃーんがんばれがんばれ!」と手を振っている。


いや。
髪振り乱したパーカージーパン日焼け防止全振り装備薄化粧アラサーをデータフォルダに収めんといてくれ。
せめていつもみたいに化粧ちゃんとしてるオフィスモードで記録しておくれ。
そして止めろ夫。


そんなこと言える余裕があるはずもなく、最後の直線。
よかった。次は白線の上にちゃんと人がいる。

アンカーのパパさんにバトンを渡す。



閉会式後。

息子はホクホク顔で運動会のご褒美のお絵描き帳とタオルを、私は保護者リレー2等賞のサランラップを持ち、家族3人で手を繋いで仲良く帰宅した。


どうやら次に走るはずだったお父さんは、上のお子さんのクラスとゼッケン番号が被っていたらしく、先にバトンをもらった年長さんの方で走り出したのでこちらのクラスの走者がいなくなってしまったとのこと。そりゃしょうがない。


息子は大好きな寿司をたらふく食べた後、スイッチを切ったかのように爆睡している。
少し汗ばんだ頭を撫でる。今日のためにたくさんたくさん練習したんだろうな。

ドキドキしたし、悔しかったし、嬉しかったし、めちゃくちゃ疲れただろう。
それでも、明日もまた元気に外を駆け回るのだろう。



筋繊維がブッチブチにちぎれたバッキバキの下半身を引きずる母と違って。


回復用にプロテイン飲んで寝よう。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?