学振副業挑戦記#2
はじめに
令和3年度から始まる大きな変革、学振特別研究員の研究専念義務の大幅緩和について、前回に引き続き、記していきたいと思います。
まず大前提として、今回の改革は「研究専念義務の緩和」であって、「研究専念義務条項の削除」ではないことです。
https://www.jsps.go.jp/j-pd/data/tebiki/r3/r3_henko.pdf(p1)
このように「研究専念義務」に関する条項は残っているのです。つまり、なんでも好き勝手にやっていいわけではありません。
そこで、今回の改革の範囲内で何が可能で、何が可能ではないのか、その境界線はどこにあり、誰が決めるのか、について調べていきます。
まずは今回調べて疑問に思った点について、直接学振の窓口に問い合わせをした結果得た回答を先に箇条書きにします。
(1)個人事業主の開業届の職業欄・事業内容の記載について
⇒税務署に聞いてください。
(2)副業可能な職種の範囲について
⇒原則制限はない。受入研究者の承認を受けることができれば良い。
(3)副業の収入と時間との上限について
⇒雇用されている場合は、収入および時間に関しては雇用保険・社会保険の加入条件に達するラインが上限。会社に雇用されるわけではない個人事業主の場合は収入の上限に関する規定は特に定めていない。時間に関しても研究遂行の妨げにならないように自分で管理することが求められるが、投下した時間の記録などを申告する必要はない。
※学振窓口とのやり取りの内容はあくまで今回得た回答を私の理解の下で表現したものです。必ずご自身でご確認下さい。
個人事業主の開業届
まず学振特別研究員による個人事業主の開業届ですが、研究遂行費として受給額の3割程度を経費計上できる(つまり所得控除できる)制度がありますので、学振から主な収入を得て、週1~2コマの非常勤や時折の原稿料などの収入程度でしたら、開業届の提出は必ずしもマストではありません。
しかし、学振特別研究員が副業を行う場合、副業の収入に対する経費計上をするためには個人事業主の開業届が必要となります。その際に迷うのが、開業届の職業欄の記載内容です。
こちらの記事を参考にすると、個人事業主として複数の職業を持つ場合(学振と副業)、収入の高いものを開業届の職業欄には記載するとよいということです。私の場合はいきなり学振PDの収入を超える副業ができる可能性は極めて低いですから、学振の身分を職業欄に記載することになります。そこでまず疑問になるのが
「学振特別研究員の職業ってなんだ?」
ということです。ここもまた話がややこしいのですが、機構としての日本学術振興会と学振特別研究員の間には雇用関係がないことになっています。
https://www.jsps.go.jp/j-pd/data/tebiki/r3/r3_tebiki.pdf(p1-2)
すると開業届の職業欄に「研究員」と書いてよいのかという疑問が出てきます。
この質問を窓口にしてみた所
「学術振興会として決まった職業名を設定しているわけではない。税務署に聞いてください」
とのことでした。副業の収入が上がってきたら事業の概要欄に少し詳しめに事業内容を記載する必要が出てくる、といったところでしょう。
副業可能な職種の範囲
これまでの研究専念義務に関する規定では、報酬を受給する条件として以下のように定めていました。
https://www.jsps.go.jp/j-pd/data/tebiki/r3/r3_henko.pdf(p.3-4)
今回の改革では➁と③が削除されました。
https://www.jsps.go.jp/j-pd/data/tebiki/r3/r3_henko.pdf(p.3-4)
削除された条項である「特別研究員の研究課題の研究遂行に資する職であ
ること」及び、「 将来大学等の教員・研究者等になるためのトレー
ニングの機会となる職であること」は、具体的には非常勤講師やTAなど大学内で従事した仕事に対する収入が想定されていました。
それゆえ今回の改革での学振以外からの副収入を得る職種の範囲については、原則として制限を受けることが無くなったということです。
その上で、具体的な職種について可能か否かは「受入研究員の判断に拠る」ということになります。そのことに関する規定が③「従事する前に受入研究者に「報酬受給報告書<様式 5-2>」の内容を報告し、受入研究者が ①~②に該当すると認めていること」です。
「報酬受給報告書」については別記事に譲りますが、副業可能な職種の範囲は「受入研究者」が決めるということです。
副業の収入と時間との上限について
副業の収入に関しては雇用関係の有無によって扱いが異なります。
雇用関係のある場合は雇用保険や社会保険への加入要件に達することを以て、収入および労働時間の上限にしています。
https://www.jsps.go.jp/j-pd/data/tebiki/r3/r3_tebiki.pdf (p.23-24)
一方で雇用関係を結ぶわけではない個人事業主の場合ですが、副業の収入に関しての上限はないとのことです。
副業にかける時間に関しても結論的には上限はないようです。しかし厳密な規定ではないものの「① 特別研究員の研究課題の研究遂行に支障が生じないこと」に抵触しない限りという条項がついています。学振窓口では、念のため副業に投下した時間を記録しておくことに越したことはない、という回答でしたが、特別に時間の記録を書類で提出するということは現状では検討していないとのことです。
おわりに
今回調べた内容については以上になります。
概括すれば、大きな方針として生活の中心は研究としながら副業も解禁するが、細かい具体的事項については税務署なり受入研究員との間で取り決めをしてください、というのが学振側のスタンスのようです。
次回は実際の開業届の税務署への提出や、受入研究員とのやりとりについて、進捗をご報告したいと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?