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日常:書評依頼(2)

前回の記事のつづき。書評を書くことになったので、その本を紹介しておきたい。

書評を書く本

今回書評を依頼されたのは小方先生の本。
「岩手の歌舞伎オヤジ」と呼んでいるのは僕だけだが、歌舞伎をターゲットにしつつ、人工知能による物語の生成を研究していらっしゃる。泣く子も黙る大御所である。

いま新曜社から出ている二冊は物語研究(ナラトロジー)に関する研究書で、物語やその骨格になるストーリー、コンテンツをどのように生成するかという話。
領域としては認知科学、人工知能の研究を取り入れ、物語が文学理論を援用しながら、AIを活用して物語を生成するシステムを解説する。

物語とは

ポストナラトロジー(直訳すると「物語論以後」、あるいは「新物語論」「物語論の展開」)は、小方の提唱する学問領域だ。ここで扱われる物語は、一般に思われているよりはずっと多くの射程をもつ。引用しつつ列挙すると

  • 小説、語り物、歌謡、演劇、絵画、音楽、マンガなど

  • 広告、宣伝、歴史、報道、学術、記録など

  • 社会的創発現象:噂、伝承、民俗芸能、祭礼、儀式のなかの物語

  • 政治における神話、事件、イベント、スポーツなど

  • 精神現象の物語:夢、発達障害、感性的な内容の表現

といったジャンルが「物語」の具体例である。

AIの話なのでエンジニアじゃないとわからないかというと、そういう本ではない。むしろ物語とはなにか、物語を生成するとはどういう営みかという、人文科学寄りの理論が展開されている。

どんな人が読むといいか

・文学部で物語論を学んでいる人
・人工知能の物語生成に興味がある人
・星新一プロジェクトがすごいと思ってしまった人(本書で頭をうちのめされてください)
・物語が何かわからない人
・ポストナラトロジーって時代遅れのネーミングだなと思った人(そんなことはない。理由も書いてある)

一冊目は、物語の生成にまつわるいろいろな研究者が、物語を生み出すという共通のテーマを持って議論を持ち寄った本。いわば「ポストナラトロジー」の外延的定義といっていい。僕も一章書いていて、味を言葉にする、という事例のように、認知的な内容をどう語るかを物語生成の一例として論じている。

AⅠが物語を語る時代。再び「大きな物語」が一回り成長し世界を覆い始めた。ポストナラトロジーはナラトロジーが本来持っていた潜在力を発揮することを志向し、物語生成の側面を強調する。世界を物語るための可能性を集合し実践するための試行集。

新曜社HP 書籍紹介文

大きな物語生成が欠落した時代、それでも意志的な物語の生成が行われなければならない。認知科学と人工知能による文学と物語への構成的方法を示し、ナラトロジー自体を次の段階に移行させる新しいナラトロジーの生成をめざす反/非・研究的な言説の集成。

新曜社HP 書籍紹介文

最後に

最後に、一冊目の本の目次をあげておこう。錚々たるメンバーが物語生成の事例を論じたすごい内容である。

序 言 ポストナラトロジー、その様々な試み
――物語生成のポストナラトロジーとの関わりにおいて 【小方孝】
1 ポストナラトロジー/物語生成のポストナラトロジー
2 多重物語構造を貫くポストナラトロジーの諸試行の概観
3 各章の要点

第1章 映像と現実、その異化 【金井明人】
1 映像の物語における同化と異化
2 映像と現実の関係と異化
3 現実を題材にしたフィクション
4 現実を題材にしたドキュメンタリー
5 ドキュメンタリーにおける同化と異化
6 フィクションにおける同化と異化
7 異化の実践

第2章 比喩を生成する人工知能は可能か? 【内海彰】
1 比喩とは
2 比喩を生成するとはどういうことか
3 比喩を生成する行為の認知過程
4 比喩を生成する人工知能
5 人工知能による比喩生成の可能性

第3章 笑う人工知能 【荒木健治・佐山公一】
1 はじめに
2 駄洒落の種類と収集方法
3 人工知能はユーモアを理解し笑えるのか?
4 人は駄洒落をどう理解し面白いと感じるか?
5 笑う人工知能はできたのか?

第4章 詩を計算機で自動生成してみる 【阿部明典】
1 はじめに
2 作品は過去の作品の断片からできている――間テキスト性
3 間テキスト性を使って和歌を生成してみる
4 人間が創造を行うときに行う推論――アブダクション
5 アブダクションを使って詩を生成してみる
6 おわりに

第5章 物語自動生成ゲームにおける驚きと物語
――驚きに基づくストーリー生成のためのギャップ技法 【小野淳平・小方孝】
1 はじめに
2 本研究の背景――TRPGと驚き
3 物語自動生成ゲームと驚き/ギャップ技法に基づくストーリー生成
4 進行中の試み――ギャップ値の最大化を目指す実験
5 ギャップ技法の使用方法の検討――世界設定における制約の変形
6 従来の成果に基づく研究の将来展望
7 おわりに

第6章 インタラクティブ広告映像生成システムの開発
――点在する生活映像から個人のための映像を生成する 【川村洋次】
1 インタラクティブ広告映像生成とは
2 広告映像の生成過程とインタラクティブ技法
3 生成実験と評価
4 インタラクティブ広告映像生成システムの高度化に向けて

第7章 未来を創るために、ストーリーテリングを解明する
――Creative Genome Projectにおける解析方法とその応用について 【佐々木淳】
1 Creative Genome Projectに至る経緯
2 「体験」の成分を解明する――Creative Genome Projectの解析方法
3 新たな体験を創造する
――CCTモデルの拡張による「未来の気分・価値観」創造

第8章 認知的コンテンツ生成への招待
――味覚の多相的なコンテンツ生成の研究事例紹介 【福島宙輝】
1 はじめに――認知的コンテンツ生成とは
2 味覚の多相的なコンテンツ生成
3 味わいの表現支援の現在
4 味覚の非言語的表象の研究手法
5 本章のまとめ

第9章 美術館の中の「ことば」 【只木琴音・阿部明典】
1 はじめに
2 ミュージアムの基盤――「思い入れ」に向けて
3 ミュージアムでの「思い入れ」について
4 美術館の中の「ことば」へのアプローチ例――感想
5 美術館の中の「ことば」へのアプローチ例――物語
6 おわりに――鑑賞の「成功」と「楽しさ」

第10章 障害者支援のための情報学的物語分析の提案
――テキストマイニングと物語論による混合研究法 【清野絵・榎本容子・石崎俊】
1 はじめに
2 物語とは?
3 2つの物語論
4 テキストマイニングとは?
5 発達障害のある学生の就労支援
6 発達障害のある学生の就労支援のための情報学的物語分析と物語生成
7 障害者支援における物語論と物語生成の意義と可能性
8 おわりに

第11章 物語受容における「ストーリー」と「背景」への注目
――物語生成論による自閉スペクトラム症の理解 【青木慎一郎】
1 はじめに
2 自閉スペクトラム症理解の課題
3 ASD者の認知行動傾向の新たな理解
4 ASD者支援における「物語」への注目
5 物語生成論によるコミュニケーションの分析
6 物語生成における「ストーリー、前景」と「背景」
7 ASD者の手記による物語生成の検討
8 物語生成論によるASD者支援の可能性
9 おわりに

結 言 本書のまとめからポストナラトロジーと物語生成の多層的な研究・開発構想へ 【小方孝】
1 本書のまとめとポストナラトロジーの将来方向
2 ポストナラトロジーと物語生成の多層的な研究構想――研究構想α
3 もう一つの研究構想――研究構想β

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