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やさしい

tender; gentle; mild

定義

▶味や香りの程度の弱いさまを肯定的に表す.
▶強い主張がなく,穏やかで,飲みやすい酒質を表す.
▶味の印象は穏やかだが,いくばくかの余韻とともに,口の中での時間経過を楽しみたくなるお酒.
▶酒自体の主張がマイルドで,料理に合わせやすい酒.
▶温めて呑むことが期待される.
▶時に,味が薄いことの美化表現.「――酒質」「雄町にしては――印象ですなあ」.
▶全体の印象について言うときには,時に,「嫌いじゃないけど,期待よりもパンチが弱い」の美化表現.「嫌いじゃない」に主眼が置かれる.

用法

味と香り,ともに修飾して了解表現となる,使い勝手の良い語です.コーパスでは,香りよりも味について言い表すことが多いようです.
味の中でも,特に甘味との相性がよいようです.甘味はしつこさや重さにつながることもありますが,そこを「優しい甘味」としておくことで,甘味の存在感が程よく,いやらしさのない甘味であることを表現できます.
口中感覚を表現するというのは,「やさしい」のお家芸と言えます.「口当たりがやさしい」「やさしいタッチ」などは,この語の定形表現とできるでしょう.
口の中での「やさしい」感触を表すには,酒が大きく手を広げたような表現を持っておくと有用です.「包むような」「包み込むような」「包容力のある」など

関連語

同様のニュアンスをもつ表現としては「穏やか」「緩やか」「線の細い」「ソフト」「なめらか」「クリーミー」などがあります.これらの表現は,「味が穏やかでやさしく,ソフトな印象」というように重ねて使ってもあまり違和感はありません.「なめらか」と「クリーミー」には液体のテクスチャの印象についての意味合いが乗りますが,「やさしい」はテクスチャについての意味合いを抑え気味にして,全体的な印象に焦点を当てることができます.
「優しい」というのは人の性格についての表現が一般的ですので,酒を擬人化して表現することもできます.日本酒についてやさしい酒というのは,「女性的」と表現されることが多いようです.「男酒・女酒(おとこざけ/おんなざけ)」という酒造業界の(やや古い)用語がありますが,女酒というと,ミネラルの少ない軟水を用いて甘口に醸された,線の細い酒のことを言います.そうすると対の意味の語としては,男性的筋肉質なしっかりした,というような語になるでしょう.
味の要素が少ないということで,「きれい」と一緒に使われることがあります.語感の話になりますが,「きれい」「クリア」「透明感のある」「清涼な」などが,味の要素が少なくシャープな印象を表現する一方で,「やさしい」は味の要素が少ないけれども,舌の上である程度の時間をかけて体温を移しながら味わいたくなるような,包容力のある印象のお酒ということになるのではないでしょうか.もちろん,これは私個人の語感です.


文献
「男酒・女酒」については『灘の酒用語集』
http://www.nada-ken.com/main/jp/

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