2017年ベストアルバム20選

 ずるずる引っ張っちゃったし早いとこ切り上げて2018年を迎えるぞ!いやしかし改めて聴きなおして良い音楽ばっかりですね。それなりにアンテナ張るとこうやって色々見つかるのね。初めてわかりました。収穫報告をやっていきます。今回も画像に直販(に近いと思われる)リンクを埋め込んだので気になるのがあったらクリック&チェックだ!またもや半分以上はアップルミュージックで聴けるのでそっちの方は各自検索して下さい。


20. 「クロスビーツ・オリジナルサウンドトラックCD」
~crossbeats REV. シリーズ・セレクション~

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 いつか音楽ゲーム史が編まれるとしたら、2015年は激動の年だったと回顧されるのではないだろうか。中でも大きく性格が異なるアーケードゲーム2機種の稼働開始が象徴的な出来事だった。一方が直感的に楽しめる演奏、ソシャゲライクなUI、タイアップ多数と新規参入の間口を拡大した、言ってしまえば超ポピュラーなCHUNITHM(※注1)、そしてもう一方がこの項の主役、超高精度、高品質(曲もさることながらまず筐体から出る音が違う)、分かる人には分かるキュレーションと、完全に音ゲー玄人を唸らせにきたcrossbeats REV.。2017年、そのサウンドトラックが満を持して完成、CD3枚組にプロデューサーの NAOKI(!!)、Tatsh、voidによるコメント映像DVD付とトゥーマッチな内容で発売。
 先行していたアプリゲームからの楽曲、作家陣も元BEMANI勢(Simon、SLAKE、SADA、小野秀幸など)、ボーダーレスに活動するYamajet、Tatshらに加え、Maozon、TORIENA、Nyolfen、DubscribeなどBMS・同人・ネットレーベル界隈のトラックメイカーまで巻き込んだ超必殺的内容(サントラには収録されてないがゲームには新堂敦士の新曲も!)。ゲーム性も高難度で面白く、スコア詰めに躍起になることもしばしばだが、何より「良い音で好きな曲を聴きに行く」という感覚が強い。サントラとして聴いても他の音ゲーと比べてゲームの記憶より楽曲そのもののダイレクトな思い入れが喚起され没入度の深さを思い知ることとなった。
 現状あまり追えてないながらイベントや新規参入向けの東方アレンジ、ボカロ曲導入などなかなか苦しそうだけど、音楽ゲームとしての存在感、熱意、なにより美意識を支持したい。

(※注1…執筆当時の印象なので後年そうでもないことがわかりました。現在は"BEMANI含む音ゲー文化にコンシャスでありつつそことは違う道をうまく模索した作品"であると認識しています。)


19. Curse the Son / Isolator

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 個人的に2017年のベストドゥーム。ファズギターの轟音リフは音数抑えめで圧のある禍々しさ、ブリッジ部分も引きの美があり、サバス~EW直系でありながらストーナー/デザート的押出し感に飲まれない。どちらかというとフューネラルやドゥームデスにも近いローエンドで地を引き摺り回す破滅への使者。サバス3rdにあるサバス1stの成分を蒸留してアンプリファイした感じか。


18. Phlox / Keri

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 プログレ館でプッシュされてて気になったエストニアの"パワージャズ"バンド。アヴァン、ジャズロック、カンタベリーというワードで引っ掛かる向きの期待を裏切ることなく、北欧らしいトラッドとサイケの香味付けで聴かせてくる。ゴング~オズテン等スペースロック的反復がベースになっている曲が多いが、発展の仕方やソロの盛り上げが巧みで、展開を追う聴き方をしても飽きない。またZeuhlも頻繁に頭をよぎるけど暗黒サイド一辺倒にならない絶妙なバランス感覚。出だしこそド派手だけど中盤以降しっとり不穏になるのでソフトマの『5』が好きな(つまり僕のような)人にもお薦め。


17. Rob Luft / Riser

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 ロンドンの新鋭ジャズギタリスト、Edison(国内盤はP-Vine)からのデビューアルバム。アップルミュージックでおすすめされた時、ジャケが普通なので全く期待してなかったのだけど内容が凄過ぎた。オリエンタル~カリビアンな風合いのフュージョンライクなナンバーから視界が開けていくような心地よさ。サックスとのツインリードでコロコロと転がる音使い、ミュートなど奏法面も特徴的な表情をもっている。一方で穏やかな曲はECMよりW&Wに近い音響ジャズ~ポストロック風でもあり、アルバム後半、特に「Blue, White and Dreaming」においては至福のアンビエントを展開している。最終曲ではかなりエフェクティブな音色をもって後景を描くことに徹し、なるほど新感覚なギターヒーローをみた気分に。


16. Decrepit Birth / Axis Mundi

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 自分の理想的なメタルと考えた時に、スタイルとしてのメロデス(デス声のヘヴィメタル)ではなく、あくまでメロディックなフレージングのデスメタルというのがあって、ブルータル方面でいうとこのバンドが真っ先に出てくる。ソロパートの歌いっぷりは言わずもがな、スロー再生しても速過ぎなブリッジミュートリフも他のこの手のバンドと比べて追いやすい。7年ぶりのアルバムということで、これまでの総決算にとどまらない進化を果したと自負するアルバム。麻の葉漬けになった亡者の咆哮、煙渦巻く轟爆アンサンブルに身を委ねて垣間見る曼陀羅世界。ボーナストラックとしてメタリカ、セパルトゥラ、サフォケイションのカバーもあるけどあくまで本編と切り分けて聴きたい。


15. Richard H. Kirk / Dasein

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 CABSの来日ライブ盤『Hai!』には現場にいた僕の叔父が感極まって「リチャード!!」と叫ぶ声が入っているんだが、このアルバムを聴いたとき僕も同じく「リチャード!!」と叫びそうになった。


14. Cloud Nothings / Life Without Sound

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 インディー部門ではベスト。正直このアルバムが出た時点でインディーにはかなり食傷気味だったのにそれを撥ね退けて余りあるほどの請求力。ソングライティング、アレンジにも申し分ない充実盤。パワーポップに寄った親しみやすさがあり、時と場所を選ばずに聴ける。ギターボーカルでソングライターのディランの声にある"陰り"にUSインディーの本質がみられる、気がする。


13. Chino Amobi / Paradiso

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 世界中の、アフリカをルーツにもつアーティスト達によるコレクティブ NON主宰の一人。個人的にはこのアルバムに出会ったことで「Arca、OPN以降」と形容される音に興味を持つようになったという意味でも超重要。ラジオをザッピングするように入り乱れるビート、ドローン、騒々しいSEの数々。頭の中に引き起こされる混乱は日常的な危機の追体験だろうか。


12. 22 / You Are Creating: Limb1

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 アップルミュージックのMy New Music Mixで出会い衝撃を受けたノルウェーのバンド。Queen~MUSEに連なるドラマチックさ、シアトリカルなスケール感のオルタナプログレ~マスロックで、一聴で射抜かれた。同郷のShiningを思い出させる暴走屈折パートもあって堪らない。ただ曲単位では高クオリティながら若干アルバムとしてのまとまりに欠け、どうしても尻切れ感があるのが非常に惜しい。あと少しのボリュームとエンディングがあったらベスト5には入ってたし、The Season Standardを越えてたかもしれない。


11. Thinking Plague / Hoping Against Hope

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 USレコメンの生ける伝説。近作を覆う暗い雰囲気も遂にここまで言うしかない閉塞感に行き着いた通算7枚目。今作からツインギター編成となったが前作ほど硬質な印象はなく、擦れ合ったり、あらぬ方へ向かったりしながら、現代アメリカにとどまらぬ全世界的な不安を描く。アルバムのテーマも然ることながら、どこへ向かっても出口の見出せない迷路を彷徨うような旋律と展開もより一層の無力感に満ちている。後半には重さと軋轢を増し、ジャケの如く地中に埋められていくかのような気分に。しかし我々はまだ光を望むことができる、あるいは望むことが望みそのものと"Against"している…?圧し掛かる雲の陰影、細かな濃淡をも捉えたアンサンブルが、日常のあらゆる場面においても響きうる、新説"Obscured by Clouds"という感じ。ゲストとしてスウェーデンの暗黒魔神Simon Steenslandが一曲参加している。


10. 半田健人 / HOMEMADE

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 今回挙げたベストの中で一番、万人にお薦めして回りたいアルバム。俳優でありながら高層ビル、歌謡曲にも深い造詣のあることで知られる半田健人氏の完全宅録(なんとノーPC!)作品。そのマニアっぷりが遺憾なく発揮されたメタ歌謡集というべき内容で、どの曲をとっても歌謡曲における○○ソング、△△歌謡的なモードを掴んでおり、恐らく歌唱も各曲で誰それ風と想定していそうな程の歌いっぷり。オタク過ぎる「好き」の究め方と、宅録の手作り感(絶妙にローファイではないチープさだが、現代DTMの状況もふまえどこか安心感を覚えるような音質)も相まって、タイトル通りの温かみが感じられる。氏が主演を務めた仮面ライダー555のOP「Justiφs」(原曲はISSA)の歌謡アレンジが話題となったけど個人的には野球ディスコ歌謡な「たこ焼きホームラン」がお気に入り。


9. Miriodor / Signal 9

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 アヴァン系のベストは僅差でこちら。先日継続的な経営の難しさから今年のリリース休止が発表されたCuneiformより、カナダのベテランアヴァンロックバンド4年ぶりの通算9枚目。カンタベリーからヘンリーカウ、RIOを通して醸成された奇っ怪なコンポジションにアメリカ大陸的な折衷感、人を食ったようなユーモア(やはりそこにザッパの影がチラつくとこがUSレコメンの味か)、更にはケベックならではの色彩、フランス語圏的な瀟洒さも加わり、レコメンの美味しさがこれでもかと詰まった決定版。単純にヘンテコなジャズロックとしても格好良いし90年代以前のゲーム音楽好きの琴線に触れそうなメロディも飛び出す。


8. eastern youth / SONGentoJIYU

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 イースタンは旧作での好みはそれぞれあるにせよ、基本的には常に最新作が今のイースタンということで最高、と(聴く前から)いうつもりが、今回は状況が違った。前作発表後、長年のメンバーであった二宮友和(b)が脱退、新メンバーに手水の村岡ゆかを迎えた新編成となっての初音源。正直どんなものかと思っていたが、参った。まさかここへきて新たな代表作と言える傑作が出てくるとは。
 ある時期からイースタンは余剰を削ぐ方向、むしろイメージとしてはネジやらパーツやらがポロポロ落っこちて行ってて、その度に剥き身になったコアを強固にしながらひた走ってきた。大抵のものは失ってもドッコイ生きていけたりもするのだが、それでも捨てられないもの、これを失くしちゃお終いよというコアは、人としての尊厳、そして自由。それらを脅かすものには怒りを燃やし、いよいよ奪われそうになれば振り切って逃げるのみ。
 前作のリードトラック「街の底」を思い出す語りも入る「ソンゲントジユウ」以降は、詞の連なりもシンプルかつストレートになっている。大仰な言い回しや大振りの感傷を極力排した先に、全てがパンチラインになってしまった、言葉を超えた情況まで突き抜けて響いてくる感覚がある。ただ一言「なんにもない」と歌うだけで感情、いや存在自体がバリバリになってくる。風景描写の巧みな吉野寿のギターもこれまで以上に冴えわたって、特に「黄昏の駅前には何かある」では、どこともない昼下がり~夕方の散歩の帰り道にふと、たった独りの自分に立ち返る瞬間に誘ってくれる。アンサンブル面では寄り添うように奔放に歌うベースを失った代わりに、確りとしたボトムを以て、歌の素に近づいた。その上で『旅路ニ季節ガ燃エ落チル』『感受性応答セヨ』期のような爽快なナンバーも飛びだし胸が熱くなる。はじめてイースタンを聴く人にもお薦め。


7. Hiba Tawaji / 30

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 レバノンの歌姫、30歳を記念しての30曲アルバム。たびたび引き合いに出されるFairuzを殆ど聴いてないので言及出来ないけど、それにしたって凄い。ウクライナ国立管弦楽団を従えアラブ歌謡と西洋軽音楽のあらゆるエッセンスのミクスチャーを成し遂げたOussama Rahbaniのプロダクション、それを完璧に乗りこなすHiba嬢の技量、とにかく豪華、とにかく絢爛、どこをとってもデラックス仕様の決定版。人によってはオーバープロデュース気味と見えるか、余りに完璧な魅せ方に傀儡となっていないか、歌手の内側から出るものを抑圧してないかというレビューも見たけど、ここまでのものを出されたら天晴と言う他ないな…単純に良い音楽を求める人にも刺激的な音を欲する人にも大推薦。


6. Mhysa / Fantasii

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 フィラデルフィア拠点のアーティストE. Janeによる"サイバー・レジスタンスのためのアンダーグラウンドポップスター"としての名義。アルバムとしての初作品はRabit主宰のHalcyon Veilより、なんとこれがNYP(投げ銭)。R&Bがレフトフィールド化したような面白い音が増えていると思っていたところに大きな決定打が来た。グライムを抽象化したビート、浮遊するサウンドストラクチャを持ちながらR&Bならではの腰の強さ、ファンクとソウルに貫かれている。
 ダンテの地獄巡りになぞらえつつ、それとは反対に自身の思い描く理想郷へと誘うアルバムとのこと。世界的に虐げられてきた歴史を持つ人々、女性やマイノリティーを取り巻く状況は依然厳しいままだが、この理想郷においては彼女達が自分らしく生を楽しむことが出来る…現代に連なるブルースとしてのファンタジー。旅の終わりに送られる夢の欠片のような「When Doves Cry」のカバーも素敵。楽曲単位ではストリップクラブをモチーフにした「Strobe」がとにかく格好良い。MVでの、小雨降る教会の庭で木製の十字架を掴みながらTwerkingするような雰囲気、またピンクのクロイスターブラック字体とか、コンテンポラリーなブラックミュージックのゴスいモードも醸しつつ、テーマ通りのドリーミーさも込みで最高にいかす。


5. Pharmakon / Cantact

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 NYの新鋭インダストリアル、Sacred Bonesからの3rd。今回もショッキングなジャケがよく表しているというか…TGの1stを現代的に洗練しまくったサウンドではあるけど、所謂ノイズアヴァンギャルド的な臭いより、Wolf EyesとかSightingsとか周辺の00年代USジャンク、ノイズロックのアートカレッジ的な部分と音響的快を突き詰めた感じ。ハーシュな音響、頭をもたげる鈍痛のような持続音、ベース、金切り声、呻きや呼吸までもが悉くスイートスポットを押さえていて、恍惚としてしまう。錆び付いた/腐食した臭いよりは、生々しく腐っていく瞬間のダイナミズム、音響自体に同化没入していく心地良さがある。


4. Jlin / Black Origami

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 RP Booの秘蔵っ子との触れ込みも遠く霞みそうなインディアナのJuke/Footwork系プロデューサーの2nd。デビューアルバムに引き続きPlanet Muより。"デス・ワルツ"と形容された3拍子(いや強迫的な3連なのか?)を継続しつつ、半拍以下の3連、皮物やクラップのパーカッションマテリアルを大量に盛り込み、もはやアフロやトライバルという形容すら危うい、Footworkを越えた己の民族音楽と化している。Footworkから足踊り繋がりでアイリッシュダンスも思い起こすビート感というか、細かい連符が敷き詰められているもののあまり裏をとらずオンで拍を刻み続けるので、聴いてると延々と痙攣したような状態に。スーフィー的円舞感とトランシーな強拍、Footworkのバグったヤバさが渾然一体となって襲い来る。黒い折紙が君を責める。Get You!


3. IC3PEAK / Сладкая Жизнь (Sweet Life)

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 モスクワのWitch House/Coldwave系デュオ3rd。2015年のデビュー作が衝撃だったが、それを凌駕しそうな異形の進化を遂げていた。眩惑的な歌声に誘われたのも束の間、かの地の凍てつく空気を閉じ込めたリバーブとダウンテンポの荒野へ送られる。しかしあの恐ろしい絶叫の襲いくる場面は抑えられ、代わりに妖精の囁くように歌う比率が増たことで体感的にも一層冷えた心地。リズム的にはトラップやスクリューに伴う意識の朦朧を抽出したダウンテンポが主だが、終盤にかけてアッパー&ヘブンリーな四つ打ちへ傾れ込み、感覚麻痺を超えたハイパーな多幸感へと持っていかれる。ラストは子守唄のような終曲「Вечная Жизнь」で永遠の眠りにつき、やがて草木は萌え出で、春が訪れる…的な。


2. Fabian Almazan & Rhizome / Alcanza

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 キューバ出身のピアニスト、ピアノトリオに弦楽四重奏を加えた前作『Rhizome』の編成を引き継ぎ、ギターボーカルも加えての一大組曲。自身が主宰するBiophilia Recordsより、フィジカルはDLコードつき折紙アートワークでノープラスチックのエコ仕様でリリース。ラテンジャズ由来の込み入ったリズムアクセントを交えながらも瑞々しく舞うアルペジオに弦楽器の線が纏わりつき流動的なエネルギーを放出、そこへ大海を羽ばたく水鳥のようなCamila Mesaのボーカルがどこかブラジル音楽的な郷愁を誘う。組曲のインタールードとしてピアノ、ベース、ドラムのソロが挟まれる構成も面白い。ベースソロとドラムソロに挟まれた「Cazador Antiguo」において表拍の伴奏へシフト、緊張感の張り詰めるボーカルとストリングスに焼け落ちていくようなドラムの乱打が終末的な場面を連想させ、全体でも大きなアクセントとなっている。そして再び翼を広げ飛び立っていくようなクライマックスは圧巻の一言。人生における決定的な瞬間、自分自身の道をみつけるプロセスにおける美、挫折、矛盾、喜びと愛の希求、を扱った作品とのこと。情況の喚起が凄まじいので何らか"人生"を感じた際に聴きたい、いやむしろ何もないなって時の方がしっくりくるかも。


1. オトカドール オトカミュージックコレクション2

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 KONAMI発ガールズアーケードゲームのソング集第二弾。歌唱はポップンボーカリスト公募で脚光を浴び現在では佐伯伊織名義で声優デビューもされたNU-KO、サウンドプロデュースとほぼ全曲の作詞作曲編曲は村井聖夜の強力タッグは健在。ゲームの内容としては3rdドリーム、アクト1、アクト2の前半で、第一期の終盤から新展開二段階と盛りだくさんなところ。今回も2枚組の大ボリュームで夢の世界を彩る素敵な楽曲達が盛り沢山。いや、前作はフルコーラスが2曲、ディスク2は大半がリミックスだったことを思うと体感的に倍増くらいはある…ときメモのキャラソンからみつめてナイト、キーマニにポップンとこれまでに関わってきたどの作品でも歌心溢れる楽曲と人懐こい電子音を放ってきた村井氏の、引き出しフルオープンアタックっぷりに圧倒される。全盛期を更新しているのでは…。
 その関連でいうとやはり「Pink Rose」の新録オリジナルはくまのきよみとのユニットKiyommy+Seiya(ちなみにこの二人でコケティッシュな楽曲をやるときはナチュラルベア名義となる)での楽曲で初出はKM2nd。ロボットアニメのOPを思わせるムービーも納得の90sデジ歌謡チューン。これをBEMANI ROCK FES'16においてNU-KOボーカルで披露し、大盛り上がりとなったことに手応えを覚えて収録を決めたという。村井氏の中でも節目節目での代表曲ばかり要求されてしまうのに複雑な思いもあったらしいが、これが良い意味で浮かない。確かにタイムレスな超名曲ではあるけど、現在発表されている楽曲群やオトカの世界観にも馴染んで聴ける。2016年版のアレンジということで、キーマニ譜面のフレーズが1番では鳴らず2番から入ってくるなどニクい演出も。
 そして目下の代表作と言われそうなのは前作収録の魔王ルシ子(祝・フィギュア発売)のテーマ「黒い月の遊戯」だが、そのアリプロオマージュ(ちなみにポップンではその路線のエレハモニカ名義があった)がネクストレベルまで突き抜けた大天使ミカ子のテーマ「Patronus ~あなたの守護~」は圧巻。10のセフィラを矢継ぎ早に詠唱するクワイア風フック、黒アリ彷彿のメロ部分から讃美歌のようなサビへと昇りつめ、ミカ子のもつ神聖な恐ろしさ、おどろおどろしさを200%演出している。
 個人的に一番好きなのは占い師キャンディッドの2度目の登場となった「銀河のパーティ ~Dance in The Starlight~」。5年前に出た書籍で話題になったターム"ラグジュアリー歌謡"を思い出すパーラー感あるいは風呂上がり感。80s洋楽オマージュのアイドル歌謡を換骨奪胎したサウンドのキャラソン、ゲーソンは90年代中期~00年代前半に結構多いイメージだけど、当時からのコンポーザーがこういう新曲を出せるのが完全にキラー。この曲と、セーラージュピターのキャラソン「STARLIGHTにキスして」、ウルトラマンパワードED「STARLIGHT FANTASY」をもって三大スターライトポップと勝手に認定したい。
 担当キャラクターごとに歌い分けるNU-KO氏のスキルとして注目なのは何といっても「Cold Blood」だろう。プレイアブルドールであるリリカとライバルキャラのイラのデュエットという設定のこの曲、両者ともカッコイイ系ながらクールなリリカと熱いイラと、それぞれの機微を歌声で再現(余談だがアイカツ!67話でセクシー系のそら&蘭のステージ曲で二人分歌い分けていた吉河順央さんを思い出したり)。楽曲もアレンジに佐藤敦史氏が加わっていて、熱いギターソロを堪能できる。
 また個人的な思い入れで申し訳ないが、ゲーム中で欲しいアイテムをドロップさせるために夥しい回数「鳴らせ!ディン♪ドン♪」を周回したり、その倍は超えそうな回数「ここにいるよ…」を周回したためこれらの曲を聴くと条件反射でエモくなってしまう。でも初見時から名曲と確信していたので各位ご確認願いたい。オトカは基本的に公式でミュージッククリップが用意されており、上に挙げた曲は個別にリンク貼ったのでまずはお試しあれ。そしてCD版はちゃんと専用のエディット、マスタリングを経た別物となっているのでお気に召したら買いましょう。そしてゲームもやりましょう。女児ゲーおばさん&おじさんのみならず、インナーマインドと向き合う自己啓発、瞑想や催眠音声とか興味のある向きにもお薦め。いや正直色んなとこで筺体数減ってってるから皆の力でどうにかしてくれ~。

 冒頭で紹介したcbREV.にしても、同ジャンルとして後発に回ったメーカーのゲームがまこと良心的な内容で、作り手とユーザーの愛で育ち大きな実をつけた(超概略)ってことがとてもいい話だし、持っていて嬉しい、大切なCDだなって想いが強まる。2017年は頑張って新譜聴こうと思ってアップルミュージックをフル活用したけど、こういう体験を伴ってきたものはやはり別格になってしまうなぁ。サントラに限らず初出年のばらけたコンピレーション的内容なものとアルバム作品として出されたものをどう比べるかがなかなか難しいと思ったけど、そこは匙加減か。いずれにせよオトカミュージックコレクション2は初出順とは異なる編集になっていることで新しい筋が見えてくるというコンセプトアルバムでもあるのでその辺踏まえてもばっちりかと。テーマ的には実は前述のFabian Almazanのアルバムに結構近いような気もする。色とりどりの夢の世界を彷徨ってる内に取り込まれそうになったり、自分がわからなくなったりして、挫折し、再発見していく…2017年はそんな年だった、のか?そうか…そうかもな…。

 最後にnoteでは載せてなかったけどアップルミュージックで2017年曲単位で良かったもののプレイリストを作ったので宜しければ覗いてみて下さい。( https://itunes.apple.com/jp/playlist/2017/pl.u-vxy6kB5TzGqWoe?l=en )フォローしてくれても良くってよ。あと年間ベスト系のツイートはこちらにまとめました。それでは良いお年を!立春大吉!ハッピーバレンタイン!

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