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すぅぱぁ・ほろう(6)

放課後、まっすぐにスーパー・サンライトへ向かった。
いつものように従業員出入り口から入ると、パートのおばちゃんに声をかけられた。
「あ、みのる君。みんな事務室に集まってるから、着替えたら来てね」
「ありがとうございます、わかりました」
狭いロッカールームで急いで作業着に着替える。
事務室に向かうと、さっきのおばちゃん達やバイトの子達が数人集まっていた。

事務室ではしおり・クヒナとその隣に、見た事が無い女の人が立っていた。
「今日からお世話になる伊東のぞみです。どうぞよろしくお願いします」
初々しい感じがした。
僕も最初はあんな風に見られたのだろうか。
「伊東さんは佐々木君と同じ大学の生徒さんです。皆さんいろいろ教えて下さいね」
しおり・クヒナが皆に向かって声をかけた。
今日、佐々木は早番だったのでいなかった。
「それじゃ皆さん、この後の仕事もよろしくお願いしますね。あ、みのる君は残ってて」
皆がぞろぞろと事務室から出ていった。
「みのる君。伊東さんが慣れるまで一緒に仕事をしてもらいたいんだけど、いいかな?」
「あ、わかりました」
「よろしくね」
ぽんぽん、と軽くしおり・クヒナに肩を叩かれた。
伊東のぞみは僕に向かってお辞儀をした。

伊東のぞみとは最初の2日間、研修として一緒に仕事をした。
このスーパーで働く事を決めたのは、佐々木に誘われたわけではなく自分で探したそうだ。
後になって他の従業員から聞いた話だが、たまたま交際トラブルを抱えてた女の子が辞めてしまったので人が足りなくなっていたらしい。
そのため伊東のぞみは直ぐに採用となったようだ。

2日目の土曜日に昼休憩を一緒にとった時だった。
「伊東さんて大学で何を専攻しているんですか?」
パンの袋を開けながら何となく訊ねてみた。
「郷土史を学んでいます」
「郷土史ってこの町の事とか?」
「滝山さんも郷土史に興味があるんですか?」
伊東のぞみの顔がぱっと明るくなった気がした。
「“滝山さん”は止めてくださいよ。年下ですし、みのるで良いですよ」
照れ笑いをした。
今まで「滝山さん」なんて呼ばれるのは歯医者ぐらいだった。
「興味があるというか、なんというか、ちょっと聞きたい事があって」
「何でしょう?」
伊東のぞみは弁当を脇によけて聞く姿勢になった。
「町外れの御滝川の近くに祠ってあるじゃなですか。あれって何を祀っているのかなぁと思って」
「なるほど、嶺前塚ですか。たしかあれは水神を祀っていると聞いた事があります。今は治水工事のおかげで水害は少なくなりましたが、昔はよく御滝川が氾濫していたそうです。なので、水神を鎮めるためにそれを祀ったらしいです」
「なるほど。あのー、これは都市伝説かも知れませんが、あの塚には首無しの幽霊が出るって友人から聞いたんですけど、実際そういう言い伝えとかあるんですか?」
「うーん、幽霊かはちょっとわかないんですが、私もそれっぽい話を聞いたことがあります。人間を水の神に捧げるのは他の地域でも聞かれる話ですから」
「人柱っていうんですか?」
「でも、ごめんなさい。ちゃんと調べたわけじゃないんではっきり答えられないです。本当に都市伝説かもしれませんね」
「いえ、こちらこそ質問攻めですみません」
鬼の話は出せなかった。
伊東のぞみが水神と言っているので、これ以上幽霊や鬼の話をして困らせる訳にもいかないと思った。
「ところで、さっき祠の事を“嶺前塚”って言ってましたけどそんな正式な名前があったんですね」
「ええ、浄山上人のお弟子さんで嶺前という人が建てたそうですよ」
「浄山上人って弟子がいたんですか?」
「ええ、2人のお弟子さんがいたと記録されていますね。あ、そういえば、その話は佐々木さんの方が詳しいかも」
伊東のぞみがはっと思い出したように言った。
「え?佐々木さんも郷土史を専攻してるんですか?」
「ええ。私がゼミに入る前に佐々木さんは辞めちゃったんですが、他の人に聞いた話だと嶺前塚について熱心に調べていたらしいです」

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