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FWTジャパンのさらなる進化、そして最前線──『山とスキー2020』掲載インタビューLong ver.

Freeride World Tour Japan Series 2020、いよいよ開幕です!

今シーズンの開催で4年目となるFWT。今年は例年に比べ雪が少なく、開催を心配する声もありましたが、なんとか積もり無事にオープニングを迎えることができました。

FWTの昨シーズンからの進化に注目し、FWTアジア地区マネージングディレクター・後藤陽一にインタビューして頂いた記事が、2019年12月18日発行の『山とスキー2020』に掲載されています。編集部から許可を頂き、オリジナル記事として再編集したロングバージョンを掲載します。

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以下、2019年12月18日発売号『山とスキー』掲載「FWTジャパンのさらなる進化、そして最前線」を編集

世界的なフリーライドスキーの大会「フリーライドワールドツアー(FREERIDE WORLD TOUR)」が白馬に上陸したのは2017年。JAPAN SERIESとしてシーズンを追うごとに大会を拡充し、今シーズンで4年目の開催となる。

大会に加え、FWT ACADEMYやスキー場のパトロールプログラム、自然エネルギーによる電力FWT DENKIの提供など、イベント運営だけにとどまらないコンテンツを次々に繰り広げ、スキー界に旋風を巻き起こしてきた。

FWTは、国内フリーライドシーンに何をもたらし、どこを目指すのか。FWTジャパンのさらなる進化と展望を、FWTアジア地区マネージングディレクター・後藤陽一に聞いた。

後藤陽一/ごとう・よういち(FWTアジア地区マネージングディレクター)
1985年、大阪府生まれ。別荘のあった白馬村で、父の教えのもとスキーを始める。小学校からはテニスを始めるが、年に一度はスキーやスノーボードを楽しみ、滑ることから離れることはなかった。会社員を経て、現在はFWTのアジア地区マネージングディレクターとして、大会運営からプロモーション、アカデミープログラムの構築など、その仕事は多岐にわたる。

男子スキーカテゴリ表彰台-min

世界的なフリースキーヤーが参戦する、FWT HAKUBA。今季で4度目の開催となる


アジアのフリーライドシーンを牽引するFWTジャパンシリーズ

FWTは、スイスに本部を置くフリーライドの国際競技連盟だ。2017年に日本初となる予選大会を白馬で開催し、その後も世界5大大会のひとつとしてのFWT HAKUBAを筆頭に、国内各地で予選大会とジュニア大会を行ってきた。
上陸当初の2大会から、今シーズンは国内5箇所のスキー場で11の大会を開催するまでに成長した。その背景のひとつに、日本以外のアジア地域におけるスキーやフリーライドへの関心の高まりがあるという。今年8月には、長野県知事一行が中国を訪れ、インバウンド観光プレゼンテーションのオープニング映像としてFWTの映像が使われた

「今シーズンは、白馬五竜での大会を中国・台湾・香港の方向けという新しいコンセプトで行い、アジア地域から50〜100名の参加を予定しています。それだけ多くの人がフリーライドを知ってくれていることが昨年からの大きな進歩です。先日、香港・台湾を訪れ、日本のパウダースノーに対する熱狂は確実に盛り上がってきていると感じました。香港・台湾でプレゼンテーションをしたときは、数百人いた会場の参加者はほとんどがパウダーが好きと言っていましたし、中国の現地スキー雑誌の編集者からは、2019年からパウダーボードの売れ筋が急速に伸びているとも聞きました」

FWT白馬大会、スキー部門の選手の滑走の様子-min

今まで、外国人が日本に来て参加できるスキー・スノーボードのイベントはほとんどなかった。そこで、アジアでは日本にしかないパウダースノーをみんなで滑って盛り上がれるイベントを提供し、新しい体験の場をFWTと通じて創造していきたいと、FWTアジア地区マネージングディレクター・後藤氏は話す。

「FWT大会出場を目標にしてくれている台湾人の男の子がいるんです。1スターの大会に出たから次は2スター大会に出てみたいと、FWTが日本に滑りに来る動機のひとつになっている。日本の雪がアジア全体に広がっていくためのプラットフォームとして、FWTジャパンシリーズが機能しはじめていると感じています」

今シーズンは海外からトップ選手が多数参加するフラッグシップ大会のFWT白馬大会に大きなスポンサー企業が2社加わるなど、業界外からの評価も高まっている。アジアにおけるフリーライドシーンを牽引する存在として、確かな地位を築きつつある。
(*1)予選大会に位置付けられるFWQは4つのグレードがあり、1スターの大会はゲレンデを滑れる人なら誰でも参加できる

FWTアカデミーとパトロールプログラムでめざす新たな世界

大会とは別に、フリーライドを始めてみたい人向けに、自然の地形の滑り方や非圧雪ゾーンを滑るうえで必要な知識をレクチャーするFWTアカデミーにも注力している。

「日本のスキー場でパウダースノーを滑るには、違法にロープをくぐるか山岳ガイドにバックカントリーまで連れて行ってもらうかしか方法がありませんでした。でも最近は、FWTのイベントをやっているアライリゾートやキロロ、安比高原など、ゲレンデの管理エリア内に非圧雪ゾーンを設けるスキー場が増えています。リスクの高いバックカントリーに行くまえに、まずは安全なゲレンデで自然の地形を滑るフリーライドを体験してもらおうという取り組みです」

全国8箇所で展開しているフリーライドのスクール「FWTアカデミー」のインストラクター講習会風景-min

全国8カ所のスキー場で開催される「FWTアカデミー」。共通のメソッドを展開するためにインストラクターの講習は綿密に行われる

昨シーズンはインストラクター認定に注力し、本格始動となる今シーズンは、舞子とロッテアライに60名ほどの中国人が受講しに来ることが決まっている。アカデミーの実施で、最終的に何を目指しているのだろうか。

「自然の地形を滑る楽しさを知って長くスキーを続けてほしい、というのが根底にある想いです。いま2022年の北京冬季五輪に向けて「1省1スキー場」を建設するよう政府が推進しています。中国には天然雪が降る場所はほとんどないので、人工雪やインドアのスキー場になる。そこで技の上手さを競ったりするのもいいのですが、一生何らかの形で雪山で遊び続けているのは、やはりバックカントリーを滑る楽しさを知った人だと思います。

景色や空気を味わいながら山を進む気持ちよさ。まだ誰も滑っていないスポットを見つけたときの喜び。そういう感覚を楽しみながらフィールドを旅することもスキーの要素だと知り、長く滑り続けてほしい。FWT ACADEMYをその世界への入り口にしてもらいたいです」

滑れる人が増えれば、滑れるフリーライド斜面を増やしていくことも必要だ。しかし、日本には欧米のようにスキー場が拠り所とする法律がなく、非圧雪ゾーンを広げるにはスキー場の経営者自らがリスクを背負うことになる。負担を最小限に抑えながら新たな斜面をを解放していけるよう、昨シーズンからFWT主催のパトロール交換研修プログラムも開始した。

欧州最大級のフリーライド斜面を持つスイス・ヴェルビエの安全管理責任者による白馬八方尾根スキー場での講習風景-min

昨シーズンは、欧州最大級のフリーライド斜面をもつスイス・ヴェルビエの安全管理者を招き、白馬八方尾根で講習会を開催

2019年には、FWTの発祥の地スイスのヴェルビエスキー場から安全管理の責任者を呼び寄せ、また逆に白馬からパトロールの代表チームをスイスに連れていった。フリーライドにおいて日本の10年先を行く欧米から安全管理の方法を学び、日本に最適なパトロールのありかたを探る。実際に白馬八方尾根スキー場は2年連続で新しい非圧雪ゾーンをオープンさせ、白馬バレーの10のスキー場でゲレンデルールを統一する動きが始まっている。

「立入禁止ロープを開けていくには、スキーヤーだけでなく、スキー場も進化していかなければなりません。海外のフリーライド対応のスキー場では、火薬で人工的な雪崩を起こしたり、国がパトロールを試験に基準を設けたりと、圧雪斜面だけのスキー場とは違う安全管理の体制が整っています。今シーズンは、カナダのスキーリゾート・キッキングホースとの交流を行い、北米のやり方も参考にしてもらうつもりです」

スイス・ヴェルビエで行われた、ヴェルビエの安全管理責任者によるパトロール講習。白馬八方尾根、白馬五竜から3名が参加-min

白馬八方尾根、白馬五竜からパトロールと経営陣が合計3名参加して、ヴェルビエで行われた安全ん講習会。本場のスキルを体験、そして体感した

FWT DENKIで、スキー場周辺のサステナビリティにも貢献

FWTの活動は「電力」にまで及ぶ。昨今、スノー産業にとっても見過ごせない課題である気候変動へのアクションとして、自然電力株式会社とタッグを組みFWT DENKIという自然エネルギーを提供している。売上の一部は、スノーコミュニティとして気候変動から冬を守る啓発活動を展開する一般社団法人 Protect Our Winters Japan(POW Japan)に寄付される。

「“人”に焦点を当てたフリーライドの推進をするなら、その人たちが遊ぶ“環境”への取り組みまでやらないと、嘘っぽくなってしまう気がして。雪のフィールドそのものを守る活動として、自然電力さんと一緒に自然エネルギーの発信や導入サポートをしているのがFWT DENKIです」

雪のコミュニティから環境保全をするため自然電力と共同でFWTDENKを提供

極上のパウダースノーを未来に残すために、環境への負荷を低減する「FWT DENKI」の供給をスタート ▶公式サイト

アメリカでは400以上あるスキー場のほとんどにサステナビリティの専任担当者がついているという。環境に配慮していることが集客になり、従業員もいきいきと働けるなど、その取り組み自体がブランディングになっているのだ。日本でも同じ仕組みの実現を目指す。

「既に白馬村内のカフェや宿泊施設、コワーキングスペースなどが切り替えてくれています。誰もが使う「電気」をツールに、フリーライドという枠組みでは届かない層と接点を持てることにも期待しています。環境意識の高い白馬から、切り替えてくれた人の想いやエピソードを拾い、拡散していくことも今後やっていくつもりです」

活動は多岐にわたるが、FWTが推進力となって目指すのは、「自由で楽しいフリーライドでスキー産業を活性化させる」ことに他ならない。フリーライド斜面を広げてアカデミーを充実させ、イベントに出られるフリーライダーを育て、そのニーズを汲んでスキー場が進化する。この循環をつくり、さらにフリーライドシーンの成熟の先に、観光資源としてのスキー場の価値向上まで見据える。フリーライドという遊び方の提案を超え、日本にない概念をもたらす異色の存在、FWT。変わりゆくアジア地域のスノーシーンにおける存在意義はとても大きい。

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