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猫の僕らが紡ぐ、我が家の話 14

☆ 河童じいちゃんと戦争 ☆

今日は僕、ゆきの番だよ!よろしくね!

河童じいちゃん(ママのとうさん)の青春時代は、戦争で塗りたくられていた。日本はずーっと戦争をしていて、じいちゃんも動員されて、くわしいことはわからないけれど、千葉の工場で働いていたらしい。

大体じいちゃんの話は、3割増しくらいになっているので、ちょっと気を付けて聞かないと、大分話が膨らんでいることがあるんだけど、これはママが小さい頃から繰り返し聞いた話だから、どうも本当らしい。

じいちゃんたち、その頃だと10代の少年と言える年頃だよ。うちのじいちゃんも、16歳くらいだと思う。

ある夜、動員されて働いている少年達が全員食堂に集められた。軍だか工場だかの偉い人がやってきて、こういった。「長男以外は一歩前へ。」

じいちゃんは次男だったから、一歩前に出た。そしたら、その偉い人がまた行った。

「今一歩前に出たもので、直接お国のために役に立ちたいと思うものは、も一歩前へ。」

じいちゃんは、うーん、と思った。出たらまずいことになるんじゃないかと本能的に感じた。でも、一人出ないのは勇気がいる。だから、そーっと隣のやつに話しかけた。

「俺はどうも出たくないんだけど、おめえはどうする?」そしたらそいつも「俺も出たくない。」と答えたから、「じゃあ、二人して出るのやよそうや。」

ということで、とりあえず仲間が一人できたので、じいちゃんは覚悟を決めた。偉い人はみんなの周りをぐるぐる回って、「これだけか、まだ出るものはいないか。」と言って、いちいちみんなの顔を見る。その圧力に耐えかねて、一歩前に出た人もいたらしい。

じいちゃんは隣の人と一緒にじーっと前を向いたまま出なかった。その当時のことを、僕らはもちろん知らないけど、ずいぶん勇気がいったらしい。

長い時間が過ぎて、といってもたぶん10分くらいなんだけど、偉い人は、「では今出た者は後をついて来い。」と言って、2歩出た人たちを連れて食堂を出て行った。

じいちゃんは、命拾いした、と思った。

その時出て行った人たちは、だあれも帰ってこなかった。残った仲間は、あいつらは南方に送られたとか、みんな亡くなったとか、噂した。

夜になると、出て行った人たちが幽霊になって帰ってくるっていう怖い話がぱーっと広まって、いくら16歳でもそりゃあ背筋が凍るよね。だから、夜中にトイレに行きたくなると、何人かで手をつないでトイレに行ったらしい。

悲しい話だよね。

ママは当時も神妙にじいちゃんの話を聞いていたけど、今も思う。16歳と言えば、高校1年生だ。自分は毎日お気楽に高校に行って、普通の女子高生をやってた。平和が普通だったなって。

じいちゃんは、「あの時前に出てたら、俺も死んでたろうな。そうなると、お前たちもいなかったんだぞ。」って言うよ。

僕としては、16歳なんて、これから恋をして勉強をして、大人になっていく大切な誰かの子供を戦争に連れて行ってほしくないよ。今もこれからもずーっとだよ。ママもそう思ってる。

じゃあね、次はまるがお話するよ。河童じいちゃんの話はまだまだあるからね!

ゆき




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