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日本の人権外交について

日本経済研究センターの長期予測によると、2030年代には経済規模で中国が米国をいったん追い抜くが、2050年代には再度米国が1位に返り咲き、2060 年には米国と中国が経済規模で拮抗すると予測しています。一方、日本については人口減少・高齢化の影響により2030 年代以降、恒常的なマイナス成長に陥り、経済規模でインド、ドイツに抜かれ世界 3 位から 5 位に転落する可能性があると指摘しています。同センターは日本がプラス成長を維持するためにはデジタル経済への対応を加速することが不可欠であると述べています。

米中対立が今後数十年間にわたり続くことを前提にすると、今後の日本外交の主要な目標は日米同盟の堅持と中国との良好な関係維持以外にはあり得ないと思います。
したがって、日本の人権外交も日米関係の強化と中国との関係維持に貢献するものである必要があります。

米中両国の関係が今後数十年にわたり対立と協調の緊張の間で揺れ動くと予想した場合、近視眼的な対中友好政策を取ることは日米関係堅持の観点からも望ましくありません。一方、個々の人権侵害事例を取り上げて反中的政策を取ることも中国との良好な関係維持という観点から適当ではありません。
わたしの考えでは、こういう事態においては普遍的な政治理念である法の支配、民主主義、人権尊重という観点から考えられる、かつ長期的目標として米中両国が賛同し得る数十年後の理想のアジア太平洋地域像を掲げて米中両国にその実現に向けた働きかけを行っていくことが、米中対立を深刻化させず、また日本のプレゼンスを上げるという意味でも効果的ではないかと考えます。

具体的には、
1) ポストサンフランシスコ体制=「アジア太平洋地域における集団的安全保障体制」の構築
2) 同体制を支える地域的経済共同体の実現
3) 域内における地域的人権保障メカニズムの実現
という3つの分野における理想像を例えば2050年ないし2060年の実現目標として日本政府が提案し、長期的な視点で米中日韓およびASEANを交えた対話と実践を積み重ねていくいくことが望ましいように思います。

人権外交はこの3分野のなかで、(2)地域的経済共同体に不可欠な経済活動に係る人権侵害に対する域内苦情処理システムと、(3)より広い域内人権保障メカニズムの構築を目標とすべきだと思います。

経済貿易活動に係る人権侵害に対する域内苦情処理システム

日米中間での経済貿易関係のデカップリングは非現実的であり、各国のためにもなりません。したがって、今後も日米中間での経済活動に係る人権侵害事例は繰り返し発生すると思われ、そのための共同解決手段の構築は日米中国間でもっとも合意形成をし易い領域だと思います。
実際に中南米においてもメルコスール(南米南部共同市場)の発展が国家間の対話を深め、域内人権対話を促進する機会となったと同地域の人権団体関係者がわたしに話してくれました。
日本は昨年(2020年)10月に「ビジネスと人権に関する行動計画」を作成・公表していますので、同計画の実行という観点からも、域内苦情処理システムの構築へのイニシアティブを日本は発揮するべきと思います。

より広い域内人権保障メカニズム

ヨーロッパやアフリカ、米州大陸さらにASEANに存在する地域的人権保障メカニズム(域内人権委員会や人権裁判所)をモデルとした、アジア太平洋地域における域内人権保障メカニズムの実現を目標として掲げるべきと思います。
そのためにASEAN+3への積極的関与、ASEMを通じたヨーロッパとの対話と協働の促進を進めるべきと思います。
また、これらの前提として国際的な苦情処理システムの一環でもある個人通報制度を定めた国際人権条約への加盟を日本自身が参加した上で米中に働きかけるべきと思います。
今日、民主主義、法の支配、人権保障の実効的保障は国内制度に加え国際的な協働メカニズムが必要であることは世界的な共通理解になっています。
国内における人権保障を補完強化する国際人権メカニズムの要である主要9つの国際人権条約の個人通報制度に米中日がひとつも参加していないという現状は国際人権保障メカニズムに対する世界の信頼と有効性を大きく損なっています。(見出し画像:各国の主要国際人権条約の個人通報制度への加盟状況。日本、米国、中国、インドは一つも個人通報制度に加盟していません。)
日本は率先して個人通報制度を定めた主要国際人権条約に加盟し、米中両国に対する同制度への加盟を促すべきと思います。
また、十分な独立性を持った国内人権委員会の設立と米中日韓の同委員会間ネットワークの構築に向けたイニシアティブを発揮することも日本の人権外交の一つの柱となり得るのではないかと考えます。


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