見出し画像

日本の「人権制裁法案」について

3月24日付日経新聞記事「ウイグル人権問題」「制裁の応酬 通商波及も」は「外交部会の人権外交に関するプロジェクトチーム(PT)は法整備を議題にし、6月までに見解をまとめる」と報道、さらに4月6日付日経新聞記事が「人権侵害に関与した外国の当局者へ制裁を科す議員立法制定を検討する超党派の議員連盟が6日、国会内で設立総会を開いた」と報じています。

私自身は人権侵害の解決のために制裁措置を発動することには反対です。
代案として、主要国際人権条約に基づく個人通報制度および国家間通報制度の活用を提案したいと思います。


人権保障が国内問題ではなく国際的な課題であることは現代世界の共通認識です。
そのために国際的および地域的人権保障メカニズムが整備されてきました。
なかでも個人通報制度は個別の人権侵害事例について国際人権条約に基づき同条約委員会が審査し勧告を行うことができるという意味で、もっとも強力な制度です。
しかし、現時点で米国、中国、インド、日本は9つの主要国際人権条約の個人通報制度のいずれにも加盟していません。(見出し画像は国連人権理事会作成。主要9国際人権条約の個人通報制度への各国の加盟状況を示したもの)
米国については、前カナダ自由党党首・ハーバード大学カー人権政策研究所長のマイケル・イグナティエフが人権保障に関するダブルスタンダードが米国に対する世界の信頼を損なっていると批判しています(Michael Ignatieff, American Exceptionalism and Human Rights, Princeton University Press, 2005)。
したがって、米国が中国の人権侵害を理由に制裁措置を発動しても、世界各国の賛同は得られません。実際に、中国は英米の反対にもかかわらず昨年10月13日に国連人権理事会の理事国に再度選出されました。

わたしは日本が率先して主要国際人権条約の個人通報制度に加盟した上で、米中およびインドに対して国際的な個人通報制度への加盟を要請し、それぞれの国の人権問題については各国民(当事者)の申立に基づき、該当する国際人権条約委員会での中立的な審議・解決を目指すように提案することが望ましいと考えています。
日本が米国、インド、中国に対して国際的個人通報制度への加盟を要請すれば、「米国の言いなりとなって中国を批判している」という中国政府の対日批判 をかわすと同時に、国際人権制度の発展に向けた積極的な貢献として国際社会における日本の評価を高め、かつ「人権問題は国内問題」と主張する中国に対して、国際世論を味方につけた反論が行えるようになるように思います。
その際、先ずもっとも加盟が容易な「子どもの権利条約」から加盟し、つぎに「女性差別撤廃条約」、そして「自由権規約第一選択議定書」の加盟へと段階的に進めば、日本、米国、中国、インドも国内整備を段階的に進めることができて効果的と考えます。

ちなみに、中国では2015年1月29日に「西側(諸国)の教材の管理を強化し、西側の価値観を伝える教材を絶対に教室に入れてはならない」と国内大学に訓示した袁貴仁教育相が2016年の第12期全人代常務委員会第21回会議で更迭され、後任の陳宝生は「教育の対外開放を常に堅持すること」「世界の主要な教育イニシアティブや教育ガバナンスにさらに深く参加すること」「教育における国際公共財の供給を拡大すること」という国際協調路線を中国の教育政策として提示しており 、露骨な排外主義という姿勢は少なくとも表面的には打ち出さなくなっているように思います。
また、2021年3月18日の日米外交トップ会談においても楊潔篪(中共中央政治局委員、中央外事活動委員会弁公室主任)は「中国は平和、発展、公平、正義、民主、自由という全人類共通の価値を主張しており、ごく一部の国が定めたルールを基礎とする秩序ではなく、国連を中心とした国際体系と、国際法を基礎とする国際秩序を守ることを主張している」と発言していますので、国連の人権保障メカニズムに従うように要求することは中国の対外政策とも少なくとも表面的には合致します。
したがって、国際人権条約の個人通報制度を活用するという日本提案を中国政府が正面から拒絶することは出来ないのではないかと考えます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?