あなたとアンモナイト
わたしたちは、お互いの将来に、自分がいないことを知っている。
「ねえ、これ見てよ」
あなたが差し出したのは、一件のニュース。
とある百貨店が壁のアンモナイトを切り出して、抽選で1人に贈るらしい。
「誰が欲しいんだろうね」
ほんとだね、と言って笑ってみせると、彼の視線はまた、液晶に流れゆく情報を追い始めた。
その横顔を見つめながら、ふと、彼の言う「誰が」を考える。
きっとアンモナイトが欲しいその人は、本当に欲しいものを既に手に入れている人なのかもしれない。
たとえば、本当に好きな人とか。その人と家庭を築く幸せとか。
それでなくてアンモナイトまで欲しいなんて、その人はすごく欲張りだ。
「いいなぁ、」
自然と溢れた嫉妬と願望。
彼は視線をこちらに向けて、
「なあに、欲しいの?」
きっとすぐにいらなくなるよ。そう言って、彼は呆れたように笑った。
欲しい、欲しいよ。あなたの一生が。
代わりに、私の一生をあげるのに。
叶わないと分かっていながら、そんなことばかりを考える私が、
この世界で一番欲張りなのかもしれない。
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