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〇五/六月/一〇一九

夢を見た。学校のグラウンドが見える畳の小さな部屋に、お母さんと妹、そして実家の黒猫がいた。夕焼けと快晴の昼下がりが混ざった天気で、暖かさは何故か不穏な雰囲気を漂わせていた。この場の空気を伺いながら話す私は透明なようで、会話の温度が上昇する予感すら感じられ無かった。ふと、私が一目散に退散せねばならないというような気持ちになった時、お母さんは青色と白のまだら模様のギラギラした錠剤をふたつくれた。
それを何一つ疑うことなく口に入れた後で、「きっと睡眠薬だろうな、これから帰るのに、大丈夫かな。」などとぼんやり考えたが、口の中に広がるねっとりとした甘さと、不思議な高揚感に身を任せることにした。目の前がぐるぐると回り、音が遠くなっていく。

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仕事の為のアラームに不快感を感じ、目を覚ました。意識がぼやけて、いつもより強く残る眠気にふらついた。顔を洗う為に向かった洗面台の壁に頭をぶつけたところで「そうか、昨晩の睡眠薬のせいか。」と一度納得しかけたが、夢のなかの記憶であることを思い出して力が抜けた。それならこの異常な程の睡魔は幻に過ぎない。インスタントのコーヒー粉末を水で溶かして、賞味期限の切れたケーキを朝ごはんに食べた。実際、夢も現実もそんなに変わりはないのかも、と答えのない問題に思考を巡らせたが、仕事までに時間があまりない事に気が付いて、家を出る準備に集中することにした。もはや夢の中の景色は形を留めず、話した内容やそこにいた人物でさえ曖昧だ。夢は夢、幻であって現実とはやはり明確に違う。
それなのに、私は今この現実で、キーボードを鳴らす指の動きがリズミカルな職場で、昨夜みた夢の話を書き起こしている。

tasato

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