マス対コア
「コムデギャルソン」と聞いて 大半の人々が脳内にまず浮かべるイメージは全身を黒に包んだルックか 目の付いたハートマークでは無いだろうか。この一見相反するような二つの事象はどちらとも「コムデギャルソン」であり それに間違いは無い。このブランドは多数のラインを持ち 日本を代表するブランドの名に恥じない前衛的なコレクションを常に行う傍らで 比較的手の届きやすい価格帯でロゴやマークをつけたアイテムを展開している。多方面から支持を受け 継続的な売上を確保することでメインブランドでは金銭面を度外視したオートクチュールを作り続けることができるのだ。
ブランディング つまりブランドのメイン層をどこに絞りどの様に売上を継続させていくかということは ブランドを続けていく中で永遠の課題である。ここを間違えてしまうと一気にブランドイメージは低下 もしくはメインターゲットを取りこぼしブランド自体が終了してしまうだろう。
1990年代〜2000年代初期に「裏原」と呼ばれる場所を中心として 若いデザイナー達が多くのブランドを立ち上げ そして大成功を収めたという歴史がある。そのムーブメントを端的に表すのであれば「盛者必衰」という言葉が相応しいだろう。ムーブメントは比較的短い期間で収束していき 世間から忘れ去られていった。そのまま消えていった者 細々と続ける者 俳優として新たな活躍をする者 また大きな成功を収める者 などそれぞれの道へとデザイナーたちは進んで行った。
GOODENOUGHを立ち上げた1人である藤原ヒロシ(以下HF)は現在もストリートの重鎮として世界中に名を轟かせていることは周知の事実である。現在はfragment designというデザインプロジェクトの主宰として様々なブランドとコラボしたアイテムを生み出しているが その主なコラボ相手はルイ・ヴィトン モンクレール ブルガリ などのラグジュアリーブランド スターバックスやマセラティなどの企業など アパレルの枠を飛び越えた活躍を続けている。
HF氏はこの界隈の中では最もブランディング能力 マーケティング能力に長けていると言える。多数のブランドとのコラボと言っても 基本的には既存のブランドのアイテムに オリジナルの雷のマークを乗せているだけど言っても過言ではないだろう。しかしそれを多くの人間に欲しいと思わせ続ける力がHFにはある。それは彼自身の知識や経験に裏打ちされたブランド力 や 今ではどのブランドでも定番になりつつある品薄商法などかもしれないが 一番は「世間の流行を掴む力に長けている」点だろう。彼はこれから人気の絶頂を迎えるであろう自分のショップをいきなり閉店させるなどの行動を平気で取る。人々が飽きを感じる前に 次の一手を打ち続けるのだ。
ブランドA BATHING APE(以下BAPE)を立ち上げたデザイナーのNIGOは 映画「猿の惑星」からサンプリングされた特徴的なロゴやオリジナルの迷彩のデザインなどで絶大な人気を博した。BAPEは当時SMAPの木村拓哉の着用などもあり 徐々にファッションに興味の無い大衆にも知られていくことになる。分かりやすい例として2007年には24時間テレビのチャリティTシャツのデザインになったことが挙げられる。
(https://urahara-fashion.com/blog-entry-1090.html)
この頃には既にBAPEとそのデザインは消費尽くされていた。多額の負債を抱えきれなくなり 2011年には香港の企業に買収され BAPEの所有権もNIGOの手元には無くなってしまった。マスへとブランドが流れきってしまうと コアな層から離れ 最終的に全員に飽きられてしまうという失敗例と言えるのではないだろうか。
しかしNIGOは現在「HUMANMADE」と言うブランドを立ち上げ 絶大な人気を誇っている。LDHのメンバーと繋がりを持ち 彼らに着用させたり 勢いのあるグラフティアーティスト Verdyが手がける「Girl's don't cry」とコラボの商品を販売したりするなどして 裏原時代を知らない新たなNIGOの顧客を生み出している。それだけでなく ここ数年 海外ラッパーがBAPEを着用しだしたことから逆輸入の様な形でBAPEも再評価され始め NIGOの人気が益々高まっている。最近では「KENZO」のデザイナーにも就任が決定し その勢いは止まる事を知らない。彼もまたHFと同じく 世間の動向を掴む力に長けていて 一つの挑戦が終わっても また次々に新しい手を打ち出し 広い顧客層を手にしている。
ブランドを人気にするための戦略の一つとして最も主流なのが 〇〇着用だろう。メインターゲットとする層の人々が好む・憧れる相手に着用させることによって ブランドの知名度や人気は爆発的に高まる。一昔前まではその対象が芸能人だったが 現在では Youtuberやインフルエンサーが若者の憧れの対象である。
こちらもまた裏原時代に人気を博した「GDC(元グランドキャニオン)」のデザイナーである熊谷隆志は現在 「WIND AND SEA」というブランドを主宰している。このブランドも本当にもう芸能人に着せまくって いろんなブランドとコラボしまくってと知名度を上げているのだが 最近は遂に加藤乃愛というTiktokerに着せていた。ブランドとしての格みたいなものは確実に落ちるが より多くの層をブランドに取り込めるとは言えるだろう。しかしその様な単純な広め方ではいずれ終わりが見えるだろうし どのように広めていくかと言うことも考えなければならない。何よりその行為により失う顧客も多いのではないだろうか。
万人に愛されるものづくりというのは確かに難しい。世の中の僅かな割合でも 長く付き合ってくれる主の顧客を持ち続けることが ブランドを長続きさせる大きな要因になるだろう。
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