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『芸術闘争論』村上隆

本書は世界のアート界で活躍する筆者が芸術を志す新人アーティストに向けたメッセージだ。

筆者はアート界を視野にいれた芸術活動においては、欧米主体のグローバル・ルールを知らないで制作していても無駄であると述べている。同時に芸術の世界で必要なのはパトロンがいて成り立ってきた資本主義社会の背景とルールを知ることと、コンテクストにより自分の作品を武装し付加価値を身につける事だと諭す。

つまり画家としてのブランディング戦略がなければ、ゴッホのように才能はあっても生前に1枚しか売れない状態になるよという主張だ。また「芸術は神聖なもので、ルールなどないはず。自由こそ真のアートだ」という反コンセプト主義が日本では蔓延しすぎているとも説く。さらには美術教育は自分ばかりを正当化する教師ばかりで、実際は何もしないのが現状だと語る。たしかに私も美術大学を卒業したが、国内の無知ゆえの独自教育がはびこる美術教育には同意見だ。ともすると先生が答えを知らないので、本書を参考にするべきだろう。それを知らないと若い作家は明確なゴールがわからず、何処を目指していいのか迷走し制作を続けるばかりである。その結果、アート界自体に興味が無くなる、または嫌悪感を抱くケースも少なくはないだろう。

とはいえ本書では、作品を世界で通用させるための方法論をずばり公開している。ここでいう方法論とは、工芸や書道などの日本独自の「美術」フィールドではなく現代美術すなわち「アート」の世界においてである。現代美術とは、近年映画化されたジャン・ミッシェル・バスキヤや、アンディ・ウォーホールといったアーティスト達が活動した第二次世界大戦後の芸術活動を指す。

本書いわく、その作品における評価の基準は技術やコンセプトなどの大きく分け4つの項目があり、そこを理解し計画立てて制作していけばよいそうだ。論理は本当に簡単なのだが、筆者が何度も失敗して証明してきた結果だけに説得力がある。例えば、著者のコンテクスト実装は下記のようになる。

私の作品はジャパニメーションだ。

私の作品はアメリカの影響なのだ。

なぜならアメリカは日本に勝利し、日本のその結果、平和ボケしてしまった。

その平和ボケの結果、日本ではアニメ文化が発達した。

だからこのアニメ作品はアメリカ人がしてきた結果なのだ。

上記はステイトメントと呼ばれる。村上隆の活動はこの理論を明確に公開している点で非常に共感できる。もちろんアートって何でこんなに値段が高いのだろうと思う人にとってもわかりやすい内容となっている。新人アーティストにとっては本書は必読だろう。読めば世界へ通じる作品への実装方法が書かれているので、あとは自分の世界を確立しつつ、ギャラリストや美術評論家など並走できるパートナーと組んでいけばいい。おのずと私達日本人の作品も国際的なビエンナーレや、アートバーゼル、国際アートフェアへと展示されていくのは夢でないはずだ。

2010年 記述


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