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週末間借りフヅクエ 『本の読める場所を求めて』全文公開(54)

第10章 見たい世界をきちんと夢見る
54 週末間借りフヅクエ

カレーやコーヒーの分野ではしばしば見かける「間借り営業」もどうだろうか。自力で店を構えるのはハードルが高いが、既存の店を借りてであれば実現しやすい。
フヅクエの店舗が増えることを夢想するときに毎回浮かぶのが、オーセンティックなバーのような形態でのフヅクエだ。手元以外は暗い、重厚な雰囲気の店内、一枚板のカウンターで、ずらっと横一列にお客さんが座って、ちびちびとお酒を飲みながらみな静かに本を読む、というそういう光景。バーやスナックは基本的に夜の場所だから、「昼間は人に貸す」ということを前向きに捉える店は比較的見つけやすいかもしれない。また、営業時間が夕方までのカフェや喫茶店の閉店後を借りて、というのもありそうだ。副業として、あるいは独立前の一手としての間借りフヅクエ、いかがだろうか。

町の本屋/フヅクエブッククラブ

変形バージョンだが、子どものための読書の居場所もあるといい。でも、どこで売上をつくるのか。親の財布に依存してしまうと、読書の優先順位が高い人の子どもしか入れなくなる。そうではなくて、学校帰りの子どもが誰でもふらっと立ち寄れる場所であるといい。「町の本屋」に併設させる形はどうか。
僕自身の読書遍歴を考えたとき、町の本屋の存在はとても重要だった。月に一度、好きな本を買っていいよと言われて行く本屋で、買うのは『ドカベン プロ野球編』や『名探偵コナン』で、漫画以外にはほとんど目もくれなかったが(あとはゲームの攻略本)、本に囲まれる静かな喜びのようなものは、きっとあそこで醸成された。もしかしたら「好きな本を買っていい」という自由の感覚が本屋という空間に無意識にスライドされていき、「本=自由」という構図ができていったのかもしれない。とにかく、のちに読書好きになった子どもにとって、あの店は重要だった。そしてあそこが、なんの工夫もないように見える書店だったのも重要な点である気がする。取次から見計らいで配本された雑誌やコミックや文庫本が、なんの意思もなく並べられているような店。とりたてて本が好きではない人でも気後れせずに入れることに意義はたぶんある。そんないわゆる昔ながらの「町の本屋」は、減少の一途をたどっているだろう。フヅクエの近所にあった本屋さんも何年か前に閉店し、居酒屋になった。その流れは仕方のないことかもしれないが、でも、町にもう一度、あんな場所を取り戻せないか。幸い本はなにかしらありがたいものだとみなされているから、自治体をそそのかして半官半民のような形でできたりしないか。あるいはやはり企業をそそのかして。
それで、その本屋の一角が子どものためのフヅクエブッククラブになる。畳なのか椅子なのか、だらだらと読めるスペースがあって、その場でお小遣いで買った『コロコロコミック』や図書室から借りてきた偉人の伝記漫画を読む。読書手帳が交付されて、そこには「今日読んだ本、読みたいなと思った本を記録してみよう」「いいなと思ったところ、びっくりしたなと思ったところを書き写してみよう」という、強いられて書くような読書感想文ではない形の、気軽で愉快な読書のアウトプットができる(ちなみにこれは僕の「読書日記」メソッドだ)。その体験を繰り返していくなかで、読書を楽しい遊びだと思う子どもが増えていったら、読書文化の裾野が広がっていいのではないか(もちろん子どもの成長のためとかではなく)。

立ち飲みフヅクエ

これは「読む時間」に特化しているわけでもないし、ただ自分がこういう場がほしいと思いついたから書くというだけで、半ば無関係だが。
読書好きの人とお酒を飲んでいるときに、本の話題になることはままある。そういうとき、目の前にその本がある場所でお酒を飲めたら、楽しいだろうなと思う。手元にその本がないときは、Amazonを開いて検索するなり、けっこうな確率でそのまま買ってしまう(お酒は怖い)。早い時間にお酒を飲んで、ほろ酔いで書店に流れて本を眺める遊びも楽しいだろうし、ビールを出している書店に入って、お酒片手に回遊しながらああだこうだと話をするのも愉快だろう。それはそれでやりたいとして、でも書店はやはりある程度は静かな場所だ。もっとただの酔っ払いのテンションで人と本とかかわってみたい。
というところで、立ち飲み屋だ。たくさんの本棚に囲まれた立ち飲み屋。本の並びは、タイトルの五十音順にする。「そういえばこういう本を最近読んだんだけど」という話になったら、そのタイトルのあたりに移動する。五十音順なので小説の横がビジネス書だったりもして(棚自体が酔っ払っているみたいだ)、いろいろな話題が引っ張り出される効果もありそう。きっとお酒が入ってテンションが高い状態では、どんどん本を買ってしまうだろう。これもある種の楽しい読書体験になるように思う。なお、飲み物や食べ物で汚損させてしまった場合は購入することとする。


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