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小説「ジョハリの窓」 第1章:オープンな領域 第5節:転校生

 昨日は、少し気の強いおばあさんとのめぐりあわせから純平の事が少しわかってきた。
私の性格は、やや警戒心が強く友人が少ない。男子の友人なんていたことがない。
そんな私に好意を寄せてくれる純平の事は、ありがたいと思った。
でも、付き合うのは、躊躇してしまう。
正直言って第一印象は、よかった。
事故の時、意識のない私を心配して一晩中病院で付き添ってくれていた事には、感謝している。
優しそうで人懐っこくて好感を持っていたのに・・・
昨日の出来事で一気にイメージが崩れてしまった。
何か都合が悪くなると付き合ってる彼女さえも置いてにげてしまうような奴だ。
小心者だからなのか?
まあ、本気で付き合うことは、ないだろう。

 いつものように学校へ登校し席に就こうとすると、昨日の事が無かったかのように純平が話しかけてきた。
「おはよう、春菜」と満面の笑顔をうかべる純平。
普段なら『おはよう』と返事を返すのだが無視した。
横目で見ながら席に座る春菜。
「あれ? 機嫌が悪い?」と純平。
「ねえ、先に言う事ないの。昨日の事で」
「え? 昨日・・ああ、先に帰ってごめんね」
「はあ? 帰った? 逃げたんじゃないの? 私を見捨てて」
「えー、逃げたって? いや誤解だよ、塾の時間で・・急いでいたから、やだなぁ」
なんだ、言い訳か?
「塾? どこの?」
「・・ねえ、気が付いた? 窓際の席。一つ増えてない。ほら」
窓際の席を指さす純平。
あきらかに話をそらしている。
「ああ、本当ね。気が付かなかったわ」
「転校生が来るって噂だよ」
「そうなの」
「どんな子かね、気にならない?」
「はあ、別に・・・それよりどこの塾?」
チャイムが鳴る。
「授業が始まっちゃう。じゃあまたね」
と、自分の席に向かう純平。

 まもなく担任が入ってきた。
「えー、今日、このクラスに転校生が入って来ました。木更津君入って」
先生にうながされ教室前のドアから入ってくる男子。
高身長でやや切れ長の目は、クールな雰囲気が漂っている。
「では、木更津君自己紹介して」
「・・・」
少し間が空く。
「木更津直人です。よろしく」
軽く会釈する。
言葉少ない挨拶は、更にクールな印象を持った。
先生は、木更津をフォローするように言う。
「あー、木更津君は、お父さんの都合でこの学校へ転校してきました。皆さん仲良くしてやってください」
木更津は、しれっと外を見ている。
その時少し違和感を覚えたのは、私だけだろうか?

こうして授業が始まり休み時間になると彩芽が話しかけてきた。
「ねえ、春菜。木更津君て、かっこよくない?」
「そうかな?」
木更津は、無表情で外を見ている。
「あれがいいんじゃない。クールで。私、ああいう男子好きだな」と、木更津を見つめる彩芽。
「はあ、ご自由に」
すると、木更津がこっちを見る。
「あー、こっち見てる」
彩芽が口に手を当て笑顔満載。
でも、明らかに私に視線が向けられている。
思わず反射的に目をそらす私。
「こっち見てる」と彩芽の気持ちは、有頂天。
すると木更津は、席を立ち私たちの所へ歩み寄る。
私の前で立ち止まり見下ろす木更津。
「おい、お前。立花春菜ってお前か?」ぶっきらぼうに聞いてくる。
『なんだこいつ!』と少し驚き見上げる春菜。
「あのー、いきなりお前って・・私、どこかでお会いしました?」
「ニュースで見た」
『ああ、そう言う事か』
「あのー、呼び捨ては、やめてもらえますか」苦笑いの私。
「お前、どこに住んでいる」
『あー、やっぱり無礼な奴だ』
「お答えできません。個人情報だし」ちょっとむかつく。
横で聞いている彩芽が心配そうに口をはさむ。
「木更津さんは、どこの高校から転校してきたの」
「・・・お前には、関係ない」
めったに怒らない彩芽が怒る。
「関係ないって・・ちょっと! 失礼ね。普通言う?そんな失礼な事」
無視するように向きを変えて席に戻って行く木更津。
「無視かよ!」彩芽が呆れる。
そんな、所に純平がやってきた。
「どうしたの? 何かトラブル?」
「むかつく、何よあいつ」と彩芽。
私も同調する。
「何なんだろうね。時々いるよね。ああ言うデリカシーのかけらもないやつ」
「何々。デリカシーって何? 教えて。ねえ、春菜」
デリカシーの無いやつも嫌だがうっとうしいやつも嫌いだ。