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オリジナル小説 高所で会いましょう。#7

サーシャは、これまでの経緯をアクアへ説明し終えると、アクアは真剣な顔になり口を開いた。
『それなら私の船に乗っていきなさい。私ならその人を乗せることができるから……。ただ、ちょっと条件があるのだけどいいかしら……?』
「はい……?それは一体どんなことなのですか?」
サーシャが尋ねると――
ニヤリと笑みを浮かべて言った。
どうやら、かなり重要なことらしい……。
そして、衝撃的な言葉を口にする。
だが、そんなことを言われても二人は、まだ気づいてはいなかった。自分達が置かれている状況の深刻さに……。「私が提示するのは、二人にやって欲しいことがあるということなの。」
「なにをしたら良いんですか?」
サーシャが聞くと、アクアは、とんでもないことを言い出した。
「ケントには、この船を使って魔王を倒してきてもらいたいの。」
「へっ!?」
「えぇーーーーー!!?」
ケントとサーシャは、驚いて声を上げる。
「ど、どうしてそうなるんですか?」
「だって、この世界を救うことができるのは、ケントだけなんだもの。だからお願い!」
「そ、そう言われましても……。」
「ケントさん!ここは行きましょう!!」
「ちょ、ちょっとサーシャ!?」
「だって魔王を倒しちゃえば全部解決じゃないですか!!」
「確かにそうだが……。だが、魔王だぞ?めちゃくちゃ強いんだろう?」
「それは、分かりませんが、とにかく倒せば全て終わりです!!それに、こんなところでグズグスしていたら船が奪われてしまいますよ!!」
(まあ、確かにサーシャの言う通りかもしれないが……。)
「ねぇ~、ケントぉ~……。お願ぃー。」
上目遣いで甘えた声を出してくるアクア。
(ぐっ……。なんて可愛い仕草をするんだ……。しかも、俺の弱点を知り尽くしている……。この破壊力は、もはや兵器並みと言ってもいいだろう……!!しかし――
「分かった。行くか……。」
俺は決意した。
そして、こう思った。
やはりこの子は、ずるいと
「本当ですか!!」
サーシャの顔に笑顔が浮かぶ。
どうやら俺のことを心配してくれていたようだ。
本当に優しい子だな……。
(よし、決めた。やっぱりサーシャに付いてきてもらって良かったな……。)
「あぁ……。ただし、絶対に死ぬなよ?」
俺は真剣な表情で言った。
すると、サーシャは俺の手を握ると満面の笑みを浮かべて言った。
「任せてください!!絶対に死んじゃダメですよ……。約束してください……。必ず生きて帰ってくるって……。」
「あぁ……!約束しよう。そして俺からもお願いがあるんだけど聞いてくれるかな……?」
「はい……?何でしょうか……?」
「この戦いが終わったら一緒に暮らさないか?」
「え……?」
サーシャは驚いた表情をしている。
そして頬を染めながら微笑むと――
「もちろん喜んで……!!」と言った。

『えへへ……。なんか嬉しいな……。』
「何がだ?」
『いやぁ〜……。私さ、一応女神なわけじゃん?』
「ああ、知ってるぞ?」
『そんな神と普通に接してくれる人がいなかったんだよね……。でも今こうして目の前にいるんだもん……。すごく幸せだよ……。』
「そうなのか……。」
俺は照れくさくなり頭をかいた。
『あぁーあ……。でもこの感じだと、私の入る隙がないね〜……。これは……。あはは……。でも……、それでも私は諦めないから!!』
アクアが何か言っているがよく聞こえなかった。


それから俺たちは、アクアの乗ってきた船に乗り込んだ。
どうやら、この船は魔法によって水の上に浮いているらしい。
原理はよく分からないが、とりあえず凄いということが分かった。
ちなみに、この船の名前は"アクエリアス"と言うらしい。
名前からして海の女神の名前だろうか……? そして、これから魔王城に向かうのだが、その前にまずは準備が必要だということで、一旦港町に戻ることになった。
そこでサーシャは、旅の準備をすることになった。
その間、俺は、アクアと一緒に街
「ねえ、魔王を倒すって言っていたけど、どういうことするつもりなの?」
「ん?あぁ、ちょっとな……。それよりお前はどうしたんだ?」
「うーん……。実は、あの人族の娘に少し興味があってね……。どうやらこの世界とは違う世界の人間らしいし……。」
「なるほどな……。それで、お前の力でどうにかすることはできないのか?」
「それができたらとっくにやってたわよ……。でも、何故かできないの……。私の加護を与えたとしてもすぐに消されてしまう……。」
「そうなると、やっぱり直接乗り込むしかないか……。だがどうやって……。」
「それは大丈夫だと思うよ。私がサポートするから……。それにこの世界を救うためにも必要なことだし……。ケントが嫌なら止めてもいいんだよ?」
「いいや……。やるよ。だってサーシャを一人にさせる訳にはいかないだろう?」
「ありがとう……。じゃあ作戦を伝えるね……。」
アクアは、魔王城に侵入するための作戦を伝えてきた。
正直言って無茶苦茶な作戦だが、他に方法がないので仕方がない。
そして、俺たちは魔王城に向かって出発した。
どうやら魔王城は、ここから南の方角にあるらしく、魔王城のすぐ近くには大きな湖があり、そこから魔王城に行くことができるようだ。
魔王城を間近で見た感想としては、かなり大きいということだった。
見た目は、まるで巨大な塔のようであり、その大きさは、とてもではないが、人間の手では作ることができないくらいの大きさだ。
魔王城は、湖の中央に建っており、その周りを囲むように城壁が作られている。そのため魔王城を攻め落とすのはかなり難しいようだ。
「よし……。それじゃあ早速侵入するか……。頼むぞ……。」
『了解!それじゃあ行ってきまーす!』と言って、勢いよく飛び立つアクア。
(ふぅ……。緊張してきた……。上手くいくといいんだが……。)
俺がそう思っていると、突然背後で爆発音が聞こえてきた。
振り返ると、そこには黒い煙が立ち上っていた。
「な、なんだ……!?」
(今の爆発音は何だ……!?一体どこから!?)
そう思って周囲を見渡すと遠くで火の手が上がり始めている。
「あれは……。火事か……!?」
俺は慌てて駆け出すと急いで火の元へと向かう。
**


しばらくすると現場に到着したのだが、どうやら野盗たちが逃げている途中のようだ。
しかし、俺が来たことに気付くとその動きを止める。そして俺のことを
「おい、貴様!!何者だ!!」と叫ぶ。
俺は面倒だと思いながらも、無視をして先に進むことにした。
すると後ろから「待て!!」と叫びながら追いかけてくる男がいた。
俺は立ち止まると「何か用ですか……?」と尋ねる。
「何か用ですか……じゃない!!お前、俺のことを無視しやがって!!このクソ野郎!!」
(あぁ……、こいつはさっき俺が助けた野盗じゃないか……。)
「もしかして、俺に恩返しでもしてくれるんですか?」と俺が聞くと、その男は「はぁっ!?」と言った。
「お前はバカか?どうして俺が、そんなことをしなきゃならないんだ?」
「じゃあ、なぜついてきているんですか……?」
「そりゃあ、お前をここで捕まえるためだよ!!」と言って剣を構える。
(やれやれ……。また戦うのか……。まぁ、この程度の相手なら問題ないだろう……。)
「分かりました……。ただし手加減はしませんよ……。」と俺が言うと――
「それはこっちのセリフだ!!」と言うと同時に襲いかかってくる。
俺は相手の攻撃を受け止めると力任せに振り払う。
そして、体勢が崩れたところに蹴りを入れる。
「ぐはぁ……!」と言いながら吹き飛ぶ。
俺は追撃を仕掛けるために間合いを詰める。
「これで終わりです……!」
「いや、まだだ!!これならどうだ……!」と言って魔法を発動する。
『ファイア・ウォール!!』
「はあっ!!」という掛け声とともに剣を振る。
魔法は発動する前に霧散した。
『なに……!?魔法を無効化するだと……?』と言っているが気にせず近づく。
そして拳を叩き込む。今度はしっかりと当たったようで、そのまま意識を失った。
俺は野盗たちのところに戻ると、ロープを取り出して縛っていく。
(さすがに手ぶらで入るわけにはいかないからな……。)と思っていると―――
「う、うわあああぁぁぁぁ!!!た、助けてくれぇえええぇ!!!殺されるうううううううううううぅう!!!」と騒ぎ出したので思わず「はいっ!?」となる。
すると周囲から次々と野盗たちが集まってきたので、「ち、違う!!誤解だ!!こいつが襲ってきたんだ!!そいつらを捕まえようとしただけなんだ!!」と言って必死に弁明をした。
(なんか俺が犯罪者みたいになっている気がするが……。まあいいか……。)
結局その場の収拾がつくまでにかなり時間がかかってしまった。
**


その後なんとか事なきを得て(?)無事に魔王城に入ることができた。
ちなみに、魔王城の周囲には大きな堀があるので橋を渡っていくしかない。
魔王城の入り口には門番が二人立っていたが、どちらも特に何もしては来なかった。
ただ、中に入っていいものかどうか悩んでいたが、意を決して魔王城の中に足を踏み入れた。
するとそこには、綺麗な庭園が広がっていた。まるでヨーロッパの宮殿のような雰囲気がありとても美しかった。
しかし今は、それを楽しむ余裕はなく、魔王城の中を進んでいく。
すると、突然後ろから声をかけられた。
「ようこそおいでくださいました。魔王陛下よりご招待を受けた勇者殿。私は宰相のアルフといいます。よろしくお願いします。」
「おぉ……。こちらこそよろしくな。それで、国王から話は聞いているか?」
「はい。魔王陛下は玉座の間におりますのでご案内いたします。それと私のことに関しては他の者に知られたくないのですがよろしいでしょうか?」
「分かった。それじゃあ、案内してくれ。」
そう言って、俺と宰相の二人は奥に向かって歩き始めた。
**


しばらく歩くと巨大な扉の前に着いた。
扉を開けると、そこには巨大な椅子があった。おそらくこれが玉座なんだろう。
玉座の左右には魔導師と思われる人物が立っていた。
(なるほどね……。やはりあの男が『賢者』なのか……。)
そう思っていると、中央の玉座に腰掛けた初老の男が立ち上がって話し始めた。
「良く来たな。私の名前は、『ルギアス=ベルスナート』。この世界の支配者にして『暗黒龍王 グラディウス=バハムート』でもある。よくぞ我が呼び出しに応じてくれたな。感謝しよう。」
「俺は、『タツヤ』。あんたが魔王なんだな?」
「いかにも。我こそがこの国、魔王国の王である。」
「俺はお前を殺しに来た。」
俺の言葉を聞いても顔色ひとつ変えない。「貴様、今何と言った……?」と静かに聞き返してくる。
俺はそれに構わず続ける。
「だから俺と戦えと言っている。」
「ククッ……ハハッ!!ハーーーッハッハッ!!!」と大声で笑い出す。
そして俺の顔を見て言った。
「貴様は本当に馬鹿なのだな。この状況でよくそんなことが言えるものだ。」と呆れたように言ってくる。
「貴様は、すでに包囲されている。我らを倒さぬ限り生きて帰ることは叶わんのだ。」
俺は周囲を見渡すが何も見えない。しかし、確かに何かがいるような気配を感じる。
「お前たちは下がっていろ。この男は私が直々に相手をする。」と周囲の者たちに言うと、その男達は去っていった。
「では始めるとするか。存分に楽しませてくれよ……!」と言って戦闘が始まった。
俺は剣を構えて『身体強化』を使うと、一気に距離を詰める。
しかし、相手は素手で剣を受け止めると、そのまま剣を押し返してきた。
俺は慌てて剣を引くと後ろに下がる。
(なんだ……?こいつ……。普通じゃない……。)
「どうした?もう終わりか?もっと我を楽しませよ!!」と言って襲いかかってくる。
俺は必死に避けるが防戦一方だった。
(くっ……。まずいな……。このままだとやられる……。)
俺は剣を構えると魔力を込めて『ホーリー・ライトニング!!』を放つ。
「無駄だ!!」と言うと、手に持った杖で魔法をかき消した。
そして、俺に拳を叩き込んでくる。
「ぐはぁ……!」と言って吹き飛ばされると、壁に叩きつけられる。
「ぐっ……!」
俺は立ち上がるがかなりのダメージを受けていた。
(今の一撃でかなりダメージを食らった……。やばいな……。)
「なかなかやるではないか。だが、まだ甘いな!」と言うと再び殴りかかってきた。
(こうなったら……。)
俺は、咄嵯の判断で『サンダーボルト!』と唱えて雷を落とす。
「ぐおおぉぉ!!」と叫びながら感電している。
「やったか!?」と思ったが、すぐに立ち上がり、俺に攻撃してくる。
(マジかよ……。さすがにそれは効かないのか……。)
俺がなんとか避けていると、相手の動きが止まった。
よく見ると、全身に電気が走っていた。
「まさか、貴様にこれほどの力があるとは思わなかった……。正直驚いたぞ……。」と言って倒れ込む。
すると、周囲にいた魔導師たちが駆け寄ってきた。
すると、宰相が俺に話しかけてきた。
「勇者殿、お怪我はありませんか?」
「ああ……。なんとか大丈夫だ。それより、あいつはなんだ?」
「はい、彼は魔王陛下の側近の一人なのです。陛下のお力はかなりのものですので、並の者では歯が立ちませんので、彼が止めに入りました。」
「なるほどな……。しかし、あれほどの奴がまだいるのか……。」
「えぇ……。陛下の実力はこの世界の中でもトップクラスですので……。」
「そうか……。まあ、とりあえずこの場をどうにかしないとな……。」
そう言って、俺は周囲を見渡してため息をつく。
周囲には、多数の野盗たちが集まってきており、俺たちを取り囲んでいた。

続く

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