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後輩の靴が戦士になった話

これは以前、会社の後輩と出張に行ったときの話である。



その日はとても暑く、仕事も終わって居酒屋で一杯やろうという話になった。

見知らぬ土地だが泊まっていた場所が繁華街だったため、目についた適当なお店に入店し受付を済ませる。

人は多かったが、幸い待たずに席に案内して貰えた。

お店は座敷が繋がってワンフロアになっているような作りで、各席が背の低い屏風のようなもので区切られている。


靴を脱ぎ座敷に上がる。


早々に注文を済ませ、届いたビールをごくごくと飲み干し、その日の仕事のことや下らない話で盛り上がった。

アルコールも回って気持ちよくなってきたところで、そろそろ退店して2件目でも探そうかという話になったため、伝票を手にレジに向かう最中に事件は起こった。



「俺の靴が無いです!」



振り向くと座敷の上から後輩がキョロキョロと下を見回している。

後輩が履いてきた靴が見当たらないというのだ。


座敷が奥にも繋がっているような作りのため、他のお客さんの靴が置いてあるところも一緒に探してみるが、やはり見つからない


ちなみに後輩の靴はこんな感じのNIKEの良いやつだったらしい。


えあふぉーす



「どうしましょう…靴が無いのはヤバいです…」

「あれ、高かったんですよ!!!」



後輩はとにかくお金が無い。

趣味に使ってしまうからか、高い家賃のよく分からん家に住んでいるからかは分からないが、この前はマイナポイントで生活していると言っていた。

余談だがこの2万マイナポイントを貰いに行ったときに車をぶつけて、修理費が10万弱かかったらしい。



一先ず店員さんに相談をして一緒に探して貰ったところ、

「これでは無いですよね?」

と一足の靴を持ってきてくれた。


どうやら隣で飲んでいた中国人のグループが居たところに、一足だけ取り残されていたらしい。



「これは…」



確かにカラーリングとマークは似てはいるが…



「ウォーリアー…?」


ウォーリアー…












「ウォーリアー…」



その場に居た全員の頭の中で、名も知らぬ戦士がこちらを見つめていた


見た目からして履き間違えて帰られているのはほぼ確実だった。



「戦士になれるしもうその靴で良いじゃないですか」

私はたまらず爆笑していたが、本当に嫌だったのか後輩は死にそうな顔になっている。



「意外と高いスニーカーかもしれないですよ」


ネットで「靴 ウォーリアー」で検索してみる。


「読み方は分からないけど回力というメーカーらしいです」


後輩「かい…りき…?」






「値段は2000円くらいですね」



あとでちゃんと調べたところ、回力(フイリー)という中国では割と名のあるブランドっぽいが後輩はもう喋らなくなってしまった。


お店の人が連絡先が分かるということで疑わしき中国人グループに電話をして貰う。

が、「自分たちは間違えていない」の一点張りで話にならないらしい。


電話番号を教えて貰って私からも電話をしてみる。


「ダレ」

「あの先程、居酒屋で近くで飲んでいたものなんですが…」

「何回モ電話されるト、迷惑ネ!!」
「私タチ靴なんテ間違えて無いヨ!!!」

「それでも一度確認させて貰いたくて、こちらから伺うので場所を教えて貰っても良いですか??」

「迷惑言ってルヨ!!」
「来るナラ警察一緒に連れて来ないとダメヨ!!!」

「はい、警察も連れて行くので場所を教えてください」

「駅前ノまねきねこに来るヨ!!!」
「警察ちゃんと連れて来いヨ!!!!」


ということでカラオケ中の皆さんのところへ向かうことになった。



■まねきねこへ

後輩は靴が無いので、当然ウォーリアーを履いて居酒屋を出発した。

どうやらサイズが合わなかったようで、親の仇のようにかかとを踏み潰していた。



現地に着くとエアフォースワンを履いた男が立っていた。

戦士になった後輩は目を丸く見開いて、自分の愛靴を履いた中国人を見つめている。


どういう言い訳が聞けるかと思い駆け寄ると開口一番

「先輩にこれを履いて立っておけと言われました」


とのことで、どうやら間違いに気付いて事情をあまり知らない後輩を生贄にしたらしい。


一先ず謝罪をして貰い低姿勢で可哀想だったのと、うちの後輩は靴が戻ってきた安堵からそれで満足そうだった。

かなりネタになりそうな話だったため、最後に双方の後輩同士固い握手をがっちり交わして貰い、その様子を写真に納めることが出来た
思い出の1ページが増えて良かった。


ウォーリアーを失ったのは残念だが、後輩は知らない中国人が履いたという付加価値が付いたスニーカーを今も履いていると思うと、それはそれで面白いから良いことにしようと思う今日この頃なのであった。

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