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明るい病室


バンッと音がして、病室のドアが開いたのは、曇り空なのに爽やかに風が吹く午後だった。


「ねぇ、決めた!」

目の下にはクマをつくっているのに、瞳はキラキラ光を宿していて、
不健康なのか健康なのかわからない彼女が言った。

「やっぱり私、あなたと一緒に生きていく」

僕は、唐突な訪問と言葉に急に喉が渇く。

「僕の病気のことは話したよね?」


内心、また彼女の顔を見れた嬉しさに心が揺さぶられていたのだけど、そんなことは少しも表に出さずに冷静に言った。


「聞いたわ」

「もう治らないんだ」

「わかってる」

「わかってないよ」

「わかってる」

被せるようにして答えてくる彼女。
僕らはしばし睨みあった。


「私、『でも』とか『もし』とか全部捨ててきたの」

彼女はハキハキと喋った。

「ねぇ、質問に答えて。私はあなたが好き。あなたは私が好き。どこか間違ってる?」

間違ってるなら訂正してよ、とにじり寄ってくる。
その瞳に射抜かれて、思わずたじろぐ。

「……君は、僕のこと好きでいられなくなるよ」

目をそらし、口早に答えたすきに、彼女は僕に抱きついた。
甘く、柔らかな香りがふわりと舞い落ちる。

「残念。そっちはあなたが訂正できないほうよ」

コロコロ笑う彼女。
その瞳にうっすら涙をためながら、僕の額にキスをした。
よかった、そう小さく呟くと、彼女はそのまま僕の腕の中で、スースーと寝息を立てて眠ってしまった。

世界一優しい風が僕の頬を撫でていった。







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