練り香水を首すじに
駅のホームへ降りるエスカレーター前で、高校時代の同級生に出会った。
とても仲がよかったというわけでもないが、僕らは男女1人ずつがなる生活委員を1年間一緒にやった。
変わらない笑顔で挨拶を交わしてくれた彼女だったが、少し、変わった気がした。
彼女のまとう空気というものだろうか。
体つきも女性らしさが増しているように思われた。
華奢な肩に少しカールした髪がかかり、柔らかそうな茶髪は彼女が首をかしげるたびにその肩の上を滑り降りしている。
僕はそんな彼女の僅かな変化を前に妙に感心した気持ちになり、そしてそれに見とれていた。
女の子って本当に会うたびに変わっていく。
だからなのか。
ふとした拍子に、彼女が足がからませつまずいたとき、「あっ」と小さく声を上げ、僕はそんな彼女を受け止めようと両手を前に出したあのとき、
「大丈夫?」という確認も、彼女からの「ごめんね、ありがとう」もすっ飛ばして、僕は
「これなんの香り?」
そう尋ねていたのだ。
彼女の髪が、前方へ倒れかけた体に引っ張られてふわりと空気を孕む。
その時、僕はなんとも芳しい香りをかいだのだ。
首元にシュッと振りかける香水のように洒落こけていない香り。
柔らかく朗らかでそっと人の鼻先をくすぐる、それでいて甘く優しくどこか誘惑するかのような。
彼女は僕の腕につかまり、無事転けることを回避していたが、僕の唐突質問に当然驚いていた。
僕は、あぁしまったな、と思うと同時に、
やはりその驚きに満ちて僕を見上げる顔に、あの頃とは違う色っぽさを見出してなぜか満足していた。
すると彼女は体勢を整え、ゆっくりと笑って
「いい香りがしたの?」
といたずらっぽく言ったのだ。
少し僕の先へと歩き、振り返りつつ僕の目を見る動作。
なぜ女の子はこんなにも急速に、男を追い抜いていくのだろう。
僕はもはや、再会してたったの数分で彼女の虜だった。
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