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コップを満タンに


タケシは自分が空腹であることに気が付かない。バカだから。
気が付かずに、イライラしている。
私は、冷蔵庫の上に置いてあった菓子パンをテーブルに放ってやった。


眉根を寄せてパソコンと睨めっこしていたタケシが驚いて、私を見上げる。

「休憩したら?」

「うん、ここがすんだら……」

「でも、お腹空いてるみたいよ?」

「あ、そうか。それでか」


タケシは本当にバカ。
自分のことなのに、それくらいも分からないんだから。

それで菓子パンを食べだすと、貪るように食べ進めるので、私は冷たい牛乳をそっと隣に置いてやった。

「あひがろう」

口をむにゃむにゃさせながら言う。
私は正面に座って、その様をじっと見つめる。

「今日さ、クリームシチューにしようかな」

ごくん、パンと牛乳がタケシの喉を通過する。
先程、置いておいた紙パックの牛乳に手を伸ばしてまたコップに並々注いでいる。

「うん、いいね」

タケシは言った。でも、クリームシチューに入っているごろっとしたニンジンが苦手なことを私はちゃんと知っている。カレーなら食べれるくせに、変なやつ。

「でも、やっぱりカレーにしようかなぁ。ルーが余ってるんだ」

「うん、それもいいね!」

さっきよりワントーン明るい声でタケシが答えた。


バカなところが愛おしいなんて思うのだから、私も相当バカなんだと思う。



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