英語のよこしま。cockとdickとprick編

「M/M小説」と言われるmale/maleの (男性同士の)ロマンス小説を原書で読むのが趣味で、時々お仕事で翻訳もさせてもらってます (モノクローム・ロマンス文庫よろしくね)。
で、男二人(以上)のエロシーンとなると欠かせないのが男性器。最低2本は出てくるわけでして、自然と詳しくもなろうってもんです。

今回はその男性器の英語についてのお話。
ついでに穴のほうもちょろっとね。
このお話も前に新書館さんの「クリエイターズ・ラジオ」(Twitterのスペース)で話したものです。いろいろ声に出して連呼しましたが大丈夫だったのかあれ。「声に出して読んではいけない英語」って感じがすごくしますが。


男性器を表す言葉は英語にめっちゃ多いんですが、ってか英語はもうエロ用語多すぎて棒を投げれば当たる単語すべてが辞書にエロ活用が載ってるんじゃね状態なんですが、エロでよく使われるのは三つ。

・cock
・dick
・prick


この中で、もはや現代ロマンスはcock一強の状態です。
15年くらい前に比べても、印象ですが、明らかにcockが強くなっている。あの頃そこそこ見た気がするprickとか最近はヒストリカルものにひっそりいるくらいで、現代物で出会えば「お久しぶり…」という気持ちになるくらい存在感が薄いです。
なんでそうなったのかがわからないので、情報お持ちの方がいたらお待ちしております。

dickはprickに比べればまだ全然いる。まああとで書きますが、dickには特殊な用法があるのでまだ重宝されているのかも?

cockもdickもprickも俗語・卑語で、陰茎の正式名称は「penis」ですが、エロにpenisが出てくることはほとんどない。多分これまで数えるくらいしか出会ってないと思います。「penisは医学用語な感じがしてエロくない」ということらしい。
手持ちのロマンスを検索してみると、ジョシュ・ラニヨンさんのHolmes&MoriarityシリーズでKitが数回penisって言ってるのがなんか真面目奥手っぽくて可愛いですね。あとはライリー・ハートさんのBoyfriend GoalsのMiloがpenisって言ってるのもいろんなこだわりのある彼っぽい。こうして使っているキャラを見ると、やっぱりpenisにはなんとなく融通が効かないような、お堅いイメージがあるんじゃないかと思います。

ちなみにpenis絡みで「意図せずやばいコトになったドメイン」でよく例に出されるのが、penisland.com。ぱっと見どう見ても「penis land」ですが、実際は「pen island」のつもりでどこかの会社が取ったらしいという話です。(真偽は知らないので都市伝説かも)
単語の区切りにアンダーバーを入れなかったばかりにこんな悲劇が…

君が消えたらロマンス作家が干上がってしまうよのcockは、陰茎の意味としては「蛇口」のcockから来てると思われます。割と直接的なイメージですね。

dickはちょっと由来が面白くて、そもそもRichardの愛称だったものが、Dickは16世紀ごろに「男」全体を指す言葉になっていたそうです。そんなに多かったのかRichard、って思うけど、日本の「太郎」みたいなものかもしれない。
そこから、女性が囲う色男のことをdickと呼ぶようになり、17世紀には陰茎のことをdickと呼ぶようになっていたとのこと。
人の名前がいつの間にか「ちんちん」みたいな意味になってるって、ちょっとひどい話だと思うんですが、なぜかdickは市民権を得て今に至ります。その上罵倒語として「クソ野郎」的な意味まで負わされた。
Richardにそんなにまで恨みが?(謎)

prickは針とかで「つつく」の意味なので、それが挿入行為とイメージが重なって、陰茎の意味になったと思われます。ちなみにprickにも「やなヤツ」という意味がある。

この3つは、露骨度にちょっとずつ差があって、露骨(下品)な方から
cock > dick >> prick
くらいのスケールになってます。いや正確なところは知らんけど、順番はこんな感じ。
なので「とてもcockなんて言えない…そのprickを挿れて…(恥じらい)」みたいなシーンが成り立ったわけですし、女子はわりとcockじゃなくてdickって言う確率が高めだったと思う。
とはいえ、さっきも書いたようにcock一強時代なので、最近はゲイロマンスに付き物の「主人公の友達のサバサバ女子」も”dick”じゃなくて”cock”って発言する率が上がってる気がする(個人の印象です)。(ロマンス中では女友達とエロ話するシーンが時々ある)

なので、最近のロマンスのエロシーンを読む場合、prickとか出てきたら、お上品めなキャラ付けに使われてると取るのがいいかと思う。
あと男がdickって言ってたら、そのキャラは微妙に品がいい可能性がある (すごく微妙に)。

dickですが、特にミステリ系では別の役割がある。
刑事のことをdetective、私立探偵のことをprivate detectiveと言いますが、このdetectiveを略して俗にdickと呼ぶ
それを陰茎のdickとかけたり「クソ野郎」のdickとかけたりして、刑事に”You dick”と呼んだり私立探偵を”private dick”と呼んだりするのは、ある意味お約束です。”dickのdick”とか。
「あんたのお目当てはあのdick…いやdickのduckだろ」みたいに。


dick意味多すぎ問題には、多分いろんな翻訳家の方が悩まされているのではないかな…

上記以外の隠語もたくさんあり、log(丸太)、rod(棒)、member(何故か陰茎の隠語である)、shaft (長い棒)あたりが鉄板かな。
日本語のエロで「彼自身を」とか「彼を」で性器を表すことがあるように、himselfで表現することもあります。palm himselfとか (自分のモノをさする)。明るいテンションだとそれこそpiece of meatというのもあり。

さて、穴のほうですが、これをなんと呼ぶか問題はかつて作家さんやファンでちょっと掲示板で盛り上がったことがあり、「”薔薇の蕾”呼び、許せるか許せないか」的な議論になってました。
その時に一番おもしろかったのが、作家さんの一人が「絶対にholeとは書かない。即物的すぎる」ってきっぱり言ってたことです。確かにやや婉曲なエロシーンを書かれる方でした。
とはいえholeはめっちゃありふれた描写です。
「chute許せない」派もいて、これは穴そのものより内側を表現するのに使われることがあるんですが、「ゴミを捨てる穴を連想するからやめてほしい」という理由がとても説得力があった。そのせいか、今に至るまでエロシーンでchuteはそんなには見ない。insideとか、内側はわりと婉曲表現多いですね。たまーにrectum(直腸)とかズバッとくる作家さんがいますが、その人はchuteも使ってたので「肉弾表現セットだ!」と何故か納得したものです。コンプリート感。


hole派多しですが、あとよく見るのはring。誘惑的なmuscle ring…とか、あんまり日本のBLだと見ないテンションで穴を賛美していたりするのも、M/Mの読みどころのひとつ。
玉と胸毛を賛美してたりもするんだけど、それはまた別のよこしまな話で。

萌え読み読解講座
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