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氷の地層

はんてんを着ています。
両親が来た際に買ってもらいました。かなり暖かくて、ずっと着ています。

自律神経症状がひどかった時、1日にブラックコーヒーを10杯近くと、エナジードリンク2、3杯を飲んでやり過ごしていました。
今考えるとそれが要因のような気もするのですが、自分の体を痛めつけるやり方でしか、精神の苦痛から意識を逸らすことができなかったのです。

布団に埋められる羊

日々祈りつつ、自らの回復を願っているのですが、時折この精神に対処するだけの薬代でいくらかかっているのだろうと思います。
その金銭は両親に払ってもらっているので、どうして私は生きるというだけのことにこれほどお金と手間がかかるのだろう、と悲しくなります。

しばらくクヨクヨして、嫌になってチョコレートをバクバク食べました。

レースのむこうに見る根雪

こういう時は、好きなものを並べます。

最近行った病院でも、先生に
「あなたみたいな人は、美的なところに関心がある人がいるから、もしあなたもそうなら、例えばコンサートに行くとそのあと疲れで3日4日寝込むってわかってても、コンサートには行きなさい。そうしないとなんで生きてんのかわからなくなるから」
と言われました。

以下に好きな文章を引用します。

「従って暗闇の中で饅頭を食う様に、何となく神秘的である。」

[三四郎] 夏目漱石

「教授会を遣る所です。うむなに、僕なんか出ないで好いのです。僕は穴倉生活を遣っていれば済むのです。近頃の学問は非常な勢いで動いているので、少し油断すると、すぐ取残されて仕舞う。人が見ると穴倉のなかで冗談をしている様だが、是でも遣っている当人の頭の中は劇烈に働いているんですよ。電車より余程烈しく働いているかも知れない。だから夏でも旅行をするのが借くってね」

[三四郎] 夏目漱石

夏目漱石はあっけらかんとしていながら、素朴なところに美を見出すので、とても好ましいです。
人間としての夏目金之助がここまで突き詰めるような鋭利さで生きたことに感服します。

p74「……だが、このすばらしい贈物は無限につよい感受性を内蔵している。比類なく傷つきやすく、苦しみと愉楽に生をさらしている。クジラには狩猟の感覚がまったく備わっていないために」
p75「傷ついたクジラの血は一瞬のうちに海にあふれ、あたりいちめんを朱に染める。われわれがしずくほどしか持たない血液が、彼らには奔流の惜しみなさで与えられている」

[島とクジラと女をめぐる断片]
アントニオ・タブッキ著、須賀敦子訳

翻訳書は、言語を置き換える過程で失われる情緒や風景が確かにあると思っていますが、それでも他国の言葉を識字できない私は、ありがたく読んでいます。

「〜しかし恋は支配じゃない。同化だ。今どきの人が、女は弄ぶ者のように考えているのは第一気が知れぬ。男がそれだから、女も弄ばれ易い方へ行くというものじゃないか」

[同性の愛] 秋田雨雀

雨雀という名前がかっこいい。
見かけるたびに思います。

「これからの文学が、思考する肉体自体の言葉の発見にかゝつてゐるといふこと、この真実の発見によつて始めて新たな、真実なモラルがありうることを私は確信するのであるが、この道は安易であつてはならぬ。織田君、安易であつてはならぬ。」

[肉体自体が思考する] 坂口安吾

坂口安吾が好きなので引用し始めたら止まらないのですが、彼の文は読者に対し、本当にひらかれている、と感じます。

明るいも暗いも雪

「私の持つさみしさは、地層として積み重なった氷のようなもので、ちょっとやそっとではもうどうにもならない」と声で残したことがあります。

しかし現実にそうではないこと、病理によって狭められた視界から見えるものには限りがあることを、対話によって教えてもらいました。
幸福なことです。

今は、氷の地層があるならば、これが溶解されるなり砕かれるなりして、自己がやわらぐことを願います。

私を生かしているのは、み言葉とあらゆる小説、それから私を愛し祝福する人との約束です。それは神であったり、家族であったり、友人であったりします。見知らぬ隣人であったりします。

ですから私も、他者を愛し祝福することのできる人となりたいです。

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